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第八十一話 赤い宝玉(後編)

「リスティ、君も知っているだろう。アーミアは人間じゃない、タイアス先生が作った完璧な疑似生命体。『ドール』だっていうことをね」


 その言葉に俺は驚愕した。


(マジかよ! あのアーミアって人が疑似生命体ってことか?)


 俺は、大図書館の前の広場でリスティと戦っている少女の姿を、改めて眺める。

 アーミアが、リスティの青い爪を赤い光を帯びた手刀ではじき返しているのが見えた。

 確かに尋常ではない強さだが、その外見はどうみても普通の人間と変わらない。

 

(うそだろ……? どうみても普通の人間にしか見えねえじゃないかよ!)


 俺は傍に立つハヅキに聞いた。


「ハヅキさん、今の話は本当ですか?」


 もしそうならゴーレムや、さっき見た土の腕とかとは比較にならない存在だ。

 近くで見ても全く違和感が無かった。

 ハヅキは俺の言葉に頷いた。


「初めて見たのならそう思うだろうな。私も最初に見た時は信じられなかった、まるで本物の人間と変わらないからな。タイアス様の愛弟子であるフュリート殿を兄と呼んでいるのは知っていたが……」


 大図書館の前の広場では、リスティがアーミアと戦いを続けている。

 雷化したリスティの攻撃を、赤い光に覆われた体で受け止めるその姿。


 リスティがコマのように回転しながら空中で蹴りを放つ。

 ブロンドの少女は、それを鮮やかに後ろ回し蹴りで受け止めた。

 そして、そのまま回転して、貫手でリスティの腹部を狙う。

 リスティは赤く光るその腕を踏み台にして、アーミアの頭上に飛んだ。

 

「リスティさん!」


 俺は思わず叫んだ。


(まさか、こんなところであれをぶっ放すつもりか!)


 天高く舞い上がるリスティの傍には無数の雷狼が出現している。

 リスティの瞳はフュリートを見つめていた。


「まさか、あの四大勇者のドールを使役するとはね! さあ、昔のケリをつけようじゃないかフュリート! あの時、最強だったのは誰かってことをね!!」


 雷鳴が轟き、リスティの姿がアーミアに向かって急下降した。


「喰らいな! 夢幻青狼撃!!」


 フュリートは瞳を閉じて詠唱を始めている。

 アーミアの額の宝玉が真紅に輝いた。 


 その瞬間──!


 大地が無数の槍のように隆起する。

 その刃は、アーミアに迫りくる青い狼たちをことごとく串刺しにした。

 だが……。

 リスティが不敵に笑う。


「あたしの勝ちだね、フュリート」


 貫かれた狼たちの間をすり抜けて、着地したリスティは凄まじい光を放つ。

 そして、その姿を消した。

 それが猛烈なスピードでの移動だと、ファルーガを呼び出していれば俺の目にも分かっただろう。


 一瞬消えたかのように見えたリスティの体が、アーミアの目の前に現れる。

 最初から雷狼は囮だったのだろう。

 強力な技を放って、僅かに動きが止まったアーミアは棒立ちになっている。


 ギィイイイン!


 激しい打撃音が辺りに響いた。

 リスティの右手の爪が、アーミアの額の宝玉に打撃を与えている。


(やっぱりな、俺でもあそこを狙う。あの疑似生命体の力の源は、額の赤い石だ)


 最初に会った時も感じたが、あの赤い宝玉からは膨大な魔力を感じる。

 とてもただの魔道具だとは思えない。

 アーミアの口から絶叫が迸る。


「うあぁああああああ!!!」


 ブロンドの少女の形をしたその人形は、悲鳴を上げて膝をついた。

 そして両手で額を押さえている。

 それを見て、フュリートは顔を色を変えるとアーミアに走り寄った。


「アーミア! アーミア!! 大丈夫か!?」


 労わるようにアーミアの体を抱きしめるその姿は、本当の兄にしか見えない。

 リスティは、フュリートたちの前に立つと冷静な瞳で二人を見下ろす。

 青い爪がフュリートの顔の前に突き出された。


「さあ、知ってることを全て吐いてもらうよ。何故あたしたちが大地の錬金術師の研究室に行くことを止めるんだい? それに、あのお方っていうのは誰だ? こっちは仕事なんだ、容赦はしないよ」


 美少女モードのリスティの迫力は半端じゃない。

 可憐で整った顔立ちなだけに、迫力がある。


「リスティ……悪いが言えないんだ。君の好きにしたらいい」


 魔力を使い果たしたのか、その顔は死人のように青ざめている。

 その口元からは血が流れていた。


(何だ……体が弱いとは言っていたけど、これはそういうレベルじゃない。何かの病気か?)


 リスティは、静かにフュリートを見下ろしている。


「フュリート。臆病だったあんたが、そこまで守りたいものって何なんだい?」


 リスティの右手が、フュリートの鼻先に突き立てられた瞬間──!


「や! やめて下さい!! お兄様は何も悪くありません! 私のためなんです! 全て私のためにしたことなんです!!」


 美しいブロンドの人形は、まるで本物の妹のようにフュリートの前に進み出てリスティを見上げる。

 先ほどまでとは違い、人間らしい感情に溢れて見えた。

 その額の赤い石には、微かなヒビが入っている。


「分かっていたんです。タイアス様がいなくなった今、私の魂はもうもたないって。でもお兄様は、最後まで私を救うことを諦めなかった。それが嬉しくて私は……」


 アーミアの言葉に、リスティは首を傾げる。


「一体それはどういう意味だい? アーミア、お前はタイアス様が作った疑似生命体だ。魂など最初からあるはずがないだろう?」


 確かにそうだ、いくら人間に似ていても本当の人間じゃないんだからな。

 精巧に作り上げても、人形は人形だろう。

 どんな仕組かは分からないが、基本はゴーレムのようにタイアスさんがあらかじめ用意した術式に従って動いているだけのはずだ。


(待てよ……)


 俺は、冒険者ギルドでアウェインが言っていたことを思い出した。

「タイアス様の錬金術は見事だった。あの方なら人間そっくりの疑似生命体に魂まで宿らせることが出来た、なんて噂もあるぐらいだ」

 確かアウェインはそう言っていた。

 人間にそっくりな疑似生命体、魂を宿らせることが出来たという噂。

 そして、今のアーミアの言葉。

 俺はフュリートとアーミアの傍に歩み寄る。


「もしも、疑似生命体に魂を宿らせることが出来るとしたら? いや正確に言うと、その額の石にでしょうか」


 フュリートがあの額の赤い宝玉に何かをした時に、アーミアの様子は変わった。

 そして、リスティに宝玉を攻撃された時、アーミアは正気に戻った。


 だとしたら、今目の前にいる少女の意識がどこに存在するのか。

 それは自明の理のような気がする。

 ハヅキが驚いたように俺に言う。


「何を言っているエルリット。あんな話は噂に過ぎない、本当にそんな真似が出来るものか! 仮にそんな術法があったとしても、魂を冒涜する行為は禁忌のはずだ」


 確かに、魔導士としては禁じられた行為ではある。

 死者を冒涜する行為に繋がるからな。

 自ら不死者となりアンデッドを使役するリッチともなれば、魔王と同様に討伐の対象だ。


(無論、そんな存在になる程の力を持った魔導士など限られてはいるがな)


 ハヅキはハッとしたように俺を見る。


「エルリットお前まさか……」


「ええ、禁忌だからこそ俺たちを通せないんじゃないですか? もしもタイアスさんの研究室に、それに関する研究記録があるとしたら? もしそうなら、四大勇者である大地の錬金術師の名誉にかかわる話ですからね」


 俺の言葉に、フュリートから殺気に近い気配が迸る。

 だが、それを止めるかのようにアーミアが口を開いた。


「お兄様……やめましょう。これ以上お兄様が傷つくのを私は見ていられません。タイアス様が最も信頼されていたお方、あの炎の槍の勇者のお孫様が来られたのも、運命の巡り合わせ。もう全てを話すべきですわ」

いつもお読み頂いて、ありがとうございます!

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