第七話 じい様の秘蔵本
「エルリット!!」
俺の大好きなママンは、ご機嫌ナナメだ。
それはそうだろう、今まで俺が魔法を使えるなんて事は両親には言ったことが無い。
何しろ、士官学校に入学する為の準備に家庭教師を雇ったぐらいだからな。
魔法のイロハぐらいは教えておこうと思った我が子が、いきなりド派手に魔法をぶっ放したのだ。
アレンも俺を睨んでいる。
「そうだぞ、あんな凄い魔法が使えるなら、わざわざ家庭教師なんて雇わなくても良かったじゃないか。勿体無い」
さすがに五男坊ともなると発言がけち臭い。
アレンのその言葉を聞いてママンが爆発した
「あなたは黙っててアレン!! そんな事じゃないわよ、私が怒ってるのは!!」
(ざまあみろ、横から口を出すからだ)
そう思って舌を出していると、ママンが俺のほっぺたをつねった。
「いつからなの! 正直に言いなさい!!」
俺は、しょぼくれた犬の様にママンを見ると答えた。
「1歳……いや、結構本格的に使えるようになったのは3歳ぐらいかな」
両親とも俺の答えにドン引きしている。
そりゃあそうだ、俺が親でも引くだろう。
「だってさ、家には魔道書は何でも揃ってるし。俺やること無いし退屈だから、全部読んじゃったんだよね」
ママンは、可愛い口をあんぐりと開けて俺を見ていたが。
直ぐに気を取り直して、俺を問い詰める。
「エルリット、あなたお義父様の本を!? あんなもの子供の貴方が読めるわけ無いじゃない」
論より証拠だ
俺は最近気に入っている魔道書を懐から取り出すと、スラスラと読み始める。
すると、いきなりママンが俺を抱きしめる。
「凄いわ! 凄いわエルリット!! どうして隠してたの、こんな大事な事!!」
(そりゃあ、まあさっきみたいにドン引きされるからだよな)
それを察したのだろう、ママンは俺を見てふうとため息をついた。
「お義父様に似たのかしら、お義父様も小さな頃から天才って呼ばれていたお方だから。20歳の頃には火炎の槍騎士って呼ばれて、魔王を倒したぐらいだし。その時の『四大勇者』の1人だものね。」
(おい、その話は初耳だぞ。魔王を倒した一人とかやばいな、本気を出してもこっちがやられてたかもしれないぞ)
俺は敬老精神の持ち主だ、さっきの立会いでは殺さないように手は抜いていた。
だが、おそらく向こうも手加減をしていたわけだ。
まあそれはそうか、いくらなんでも息子や嫁の前で孫を串刺しにして高笑いはしないだろう。
(衣服に文字魔法をかけておかなかったら、実際やばかったからな)
俺の家の書庫の中でも、一番奥にあったのが文字魔法に関する魔道書だ。
こいつは特殊な古代人の神聖言語で書かれていて、さすがのうちのじい様でも読めないようだ。
その証拠に色々メモがされていたが、解読中に断念したことが読み取れた。
簡単に言えば、物に魔法の力を付与する為の方法だ。
俺は神聖言語とやらは読めたのだが、その複雑な術式や付与方法が中々理解できずに、簡単な部分を解読するのに1年はかかった。
オタクで厨二病の成せるわざで、一度興味を持ったことは徹底的に調べ上げるのが主義である。
まあ、まだ簡単な力の付与しか出来ないが、それでもあるのと無いのでは雲泥の差だ。
ちなみに俺の靴には風の力、服には対物理障壁の魔法が付与されている。
じい様の恐ろしいほどの速さの踏み込みをかわし、7歳の体で槍の力の衝撃を受け止める事が出来たのは七匹の使い魔とこの魔法のおかげである。
にしても、あんな芸当が出来る人間が居ることに驚いた。
正直、楽勝だと思っていたからな。
俺の使い魔の火トカゲを、スパゲッティでも食べるようにクルクルと槍で巻き取ったのには恐れ入る。
(魔王並みの魔法の才能って言っても、魔王を倒す奴がいるとなると最強って訳にはいきそうにないな)
……丁度いいか、都に行けばもっと凄い魔道書がある巨大な図書館とかありそうだもんな。
あと一ヶ月もしたら俺は都の士官学校に行くわけだし、ついでにそのあたりを調べてみよう。
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