第六話 魔王級の才能
「エルリット!!?」
ママンがそう叫んだ瞬間に、ジジイは俺の間合いに踏み込んでいた。
歴戦の勇者だ、さすがに早い。
俺の体を槍が貫く。
悲鳴が屋敷の中に響いた。
皆の瞳が大きく見開かれている。
その槍を弾いた、俺の炎に
知っての通り、俺は伊達にこの7年生きてきたわけじゃない。
みてくれはガキだが、中身は前世も含めれば30年以上生きている。
そして、この家は恵まれていた。
剣や魔法に関する本なら大抵は揃っていたからな。
俺はオタクだ。
もし厨二病の人間の前にこんな本があったら、一日中読みふけっているだろう。
当然、俺もそうだった訳だ。
幸いどんな難しい言語で書かれている魔道書も、俺にとっては読めないものは無い。
本を読んで、その後の実験は伯爵家の所有する広大な土地でやれば良かった。
まあ途中からは、裏庭じゃあ狭くなったからなさすがに。
7年もあれば、この家にある魔道書を読みつくすには十分過ぎる時間だった。
俺の周囲をグルグルと回る紅い火トカゲが、牙を剥いてジジイの槍を弾いた。
3歳の頃から内緒で飼っている、例の俺の使い魔である。
(可愛い孫に槍を突きつけやがって! ジジイ覚悟しな!!)
俺は詠唱する。
「我命ず、燃え盛る炎の王の眷属よ。その鋭き牙をもて我に仇なす者を滅せよ!! イグニス・ランケア!!」
無数の紅蓮の槍が、ジジイに向かって飛んでいく。
強烈な爆裂音に悲鳴が上がる。
勝利を確信して俺はにんまりとする。
(死なない程度に手加減はしてやるよ!! 安心しな!!)
炎の槍の勇者だかなんだか知らないが、俺のママンを侮辱する奴は許さない。
だがその時、爆風の中から何かが飛び出してくる。
(クソが!! まじかよ!!!)
俺の喉元には槍が突きつけられていた。
紅蓮の炎に輝いた槍が。
どうやったのかは分からないが、俺の放った炎の使い魔を巻き取るように受け止めたのだ。
「炎の王の眷属……まさか、その歳でこやつらを使い魔にするとはな。やりおるわ、これ程の手錬、戦場でもめったには出会わんぞ」
ジジイの顔も傷だらけである。
「じゃがそなたの負けじゃな。詫びよ、さすれば命は助けてやろう」
俺はジジイを睨んだ。
「嫌だね、絶対に嫌だ!! アンタが母さんに詫びない限り、俺は絶対にアンタに謝らない!! 死んでもだ!!」
喉もとの槍の先が震えている。
ピクピクとそれは大きく震え始めた。
「ぐ……ぐわっははははは!!」
俺を見つめながら、ジジイが突然笑い出した。
どうした? どこか打ち所でも悪かったか。
「愉快じゃ! こやつ、そっくりじゃワシの若い頃に。その目、ワシも父上にようそうやって逆らったものじゃ」
じい様は槍をおさめると、ママンを振り返って頭を下げる。
「許せシャルロット、よう育てた。そなたは我がロイエールス家の立派な嫁じゃ」
「お義父様、そんな……私は何もしてません」
じい様は笑う。
「魔術の事ではない。心根じゃ、母を愛するその心根見事じゃ。愛する者の為に命も張れぬようでは、どのような技も魔術も意味などもたぬでな」
「お義父様……」
ママンは少し涙ぐんでいる。
無論その後、俺がじい様にしっかりと頭を下げたのは言うまでも無い。
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