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第六十四話 魔銃の射手

「依頼は分かった。この絵に描かれた杖は俺が探し出す」


 ヴィクスと呼ばれた長身の男はそう言うと、階段を下りてこちらにやってきた。

 手にはミレースが描いたものだろう、地竜の杖とそれを持った人物の絵を持っている。


 銀色の髪に銀色の瞳、精悍な感じの男だ。

 黒と赤で華麗にデザインされたローブを着こなした姿は、スタイリッシュである。

 ローブがひらりと揺れて、その中に見えた黒いズボンには太めの革のベルトが締められていた。


(あれは、もしかして?)


 普通のベルトとは別に装着されているそれは、色は黒いがまるで西部劇に出てくるガンベルトである。

 そして、そこからホルスターのようなものが提がっていた。


 一部しか見えないが、そこに収まっているのは、銃身が銀色に光る金属で出来た銃に見える。

 男はこちらの一瞥もしないで俺達の傍を通り過ぎていく。

 アウェインが肩をすくめて言った。


「ヴィクス、その絵は置いていけ。あまり大っぴらにするなと言われている」


 その言葉に、ヴィクスはミレースの描いた絵を無造作に宙に放り投げた。

 ひらひらと舞い散る木の葉のように、それは揺れながら落ちていく。

 次の瞬間、俺は男の手がぶれるように動くのを見た。


「やべえぞ、エルリット!」


「ああ……」


 いつの間にか男の手には銃が握られている。

 凄まじい轟音が鳴り響くと男の手元で閃光が輝いた。

 バロたちが、一斉に俺やエリザベスさんを防御するために身構えている。

 フユが俺の首につかまって叫んだ。


「フユ~、エルリット!」


 轟音が鳴りやむと、男が手にする銃の銃口からは煙が揺らめいていた。

 その銃身には細かい術式が刻まれているのが見える。

 そしてヴィクスはアウェインに言う。


「隠す必要などあるまい? 王宮の連中の都合は知らんが、大地の錬金術師が使った杖、ファルルアンの秘宝と呼ばれた程の物だ。どうせすぐに噂になるだろう」


 ヴィクスの視線の先にあるギルドホールの壁には、ミレースの描いた絵とよく似たものが大きく刻み込まれている。

 まるで目の前の男の脳裏にあるものを、そのまま壁に焼き印したかのごとくである。

 その強烈な炎で、ミレースの絵は灰も残っていない。


(すげえ、まるで俺が居た世界の銃の魔法版だな……あれも魔道具か?)


 先ほど閃光が輝いた瞬間、男から湧き上がった魔力の強さは尋常ではなかった。

 自分の魔力を極限まで凝縮して、あの銃口から放ったように思えたが。

 一体どんな仕組みになっているのか。

 ヴィクスは手にした銃を、腰から提げたホルスターにしまうとギルドの出口に歩いていく。


「アウェイン、騎士団の連中には賞金を用意しておくように伝えておけ」


 冒険者と言うよりは、まるで賞金稼ぎのようなワイルドさである。

 地竜の杖の捜索は騎士団からの依頼なのだろう。

 ミレースが冒険者ギルドであの絵を描いたことを知って、ギルバートさんが部下にアウェインと同行するように命じてたからな。 


 ヴィクスが絵を刻み込んだ壁からは、まだシュウシュウと煙が立ち込めている。

 ギルドを立ち去るヴィクスの姿を見て、アウェインが溜め息をつく。


「たく、あの野郎。今、入り口を直したばかりだってのによ」


 そう言うとゴーレムを一体壁に張り付かせて、ヴィクスが壁に焼き付けた壁画を隠していく。

 ハヅキが肩をすくめると俺に言う。


「あいつの単独行動はいつものことだ。『銀の魔銃使いヴィクス』、あの銃とかいう武器は奴の故郷の武器らしい。そうそう使いこなせる人間はいないそうだがな。リスティと同じSランク、プラチナの称号を持つ男だ。冒険者になるのなら覚えておいて損は無い相手だぞ」


 都のギルドだけあって色んな人間が集まっているようだ。


「へえ、あの人の故郷の武器ですか」


 にしても魔眼の次は、魔銃マガンかよ。

 厨二病にも程がある。


「なんだが冒険者になるのが不安になってきましたよ。地味じゃないですかね、俺? ほら普通の魔導士ですし」


 俺も大概厨二だと思っていたが、これは相手が悪すぎる。

 俺の言葉にキースが呆れたように言った。


「馬鹿かお前? どこが地味なんだよ! 上級精霊を何匹も召喚して平然としてる奴なんて、誰が見たって普通じゃねえだろ!!」


「そ、そうですかね? 俺も結構いけてますかね!」


 フユが俺の肩の上で胸を張る。


「フユ~、安心するです。エルリットには『青い癒しの女神フユちゃん』がついてるです」


 バロも人型に変わって負けじと胸を張った。


「そうだぜエルリット! この『赤い炎の王子バロ様』もいるからな」


「……」


(バロ、お前のセンスも大概だぞ)


 こいつらに、俺の通り名をつけさせるのだけはやめておこう。

 アウェインが、そんな俺の使い魔達の様子を笑いながら眺めて言った。


「まあヴィクスは最初から計算に入れてなかったからな。都のギルドでは新しいSランクは、今のSランクの誰かに模擬戦で勝つか、Sランクの中の過半数の賛成が得られた時のみ受け入れるってことになってる。リスティとハヅキが賛成なら構わんだろ、何しろSランク同士の戦いは外でやっても後始末が大変だ」


 確かにそうだろうな、普通の戦いでは済みそうにない。

 ミレースが俺の隣でにっこりと笑う。


「良かったですね、エルリット君!」


「いいんですか? いきなりSランクなんて!」


 アウェインが頷いた。

 ある意味ギリアムたちのおかげである。

 ハヅキやリスティ、そしてヴィクスとやりあうことを考えたら楽勝だからな。

 それぐらい、この三人から感じる力は別格だ。

 模擬戦をして勝てるかどうか、正直やってみないと俺にも分からない。


「ああ、とりあえずSランクのシルバーとして君をギルドに迎え入れよう。そもそもあのミレティ先生が認める士官学校生だからな、Aランクの人間じゃあ教育係は務まらんだろ」


「教育係って、俺のですか?」


 俺の疑問にハヅキが答えた。


「この都のギルドでは新人は暫くの間、仕事をする時はベテランの誰かと組む規則だ。いくら力はあっても冒険者としては新人だからな。どんな仕事にはどんなメンバーがいいのか、場合によってはスキルホルダーを雇う必要もあるだろう。言ってみれば新人のお守役だな」


「なるほど。確かに俺は冒険者の仕事については何も分かりませんし、助かります」


 リスティがアウェインに言った。


「そうですね支部長。とりあえず私かハヅキがこの子の教育係を務めます。もしかすると仕事を手伝って貰うことになるかもしれないけど、いいかしらエルリット君」


「は、はい、もちろんです、リスティさん」


 あの杖や、大地の錬金術師と呼ばれたタイアスさんには、正直俺も興味がある。

 御前試合までは数日休みがあるからな、俺も何か役に立てるから知れない。

 ハヅキが溜め息をつきながら俺に言う。


「しょうがないな。エルリット、私とリスティどちらがいい?」


 俺は思わず二人を見比べた。

 いずれ劣らぬ美女である。

 リスティさんは何といっても狼耳が良く似合う獣人系お姉さんだし、ハヅキはどことなく和風な感じの凛とした美人だ。

 そうなると、やはり……。


「な! エルリット、お前どこを見ている!!」


 ハヅキが頬を染めて胸を隠した。


「え? いえ、気のせいですよ。言いがかりはやめて下さい、リスティさんでお願いします」


「ふふ、分かったわよろしくね、エルリット君」


 俺の回答を聞いて、ハヅキが真紅の刀の柄に手を伸ばした。


「お、お前! 今、どこで判断した! 言ってみろ!!」


「はは、ほんとに気のせいですよ」


 確かに一瞬、不埒なことは考えたが男のサガだから仕方がない。

 普通に考えても教育係としては、リスティのほうが向いてそうだからな。

 俺は咳払いをして、ご機嫌をとることにした。


「ほら、言ったじゃないですか、ハヅキさんはそのままでも魅力的だって」


「な! なにゅ! ……そ、そうか。ま、まあいい、私は教育係などがらではないからな」


 ああ、なんかこの人すげえ可愛いわ。

 美人だけど強すぎて、男に免疫が無いんだろう。

 そもそも自分より弱い相手とか眼中になさそうだもんな。


(やっぱりハヅキさんにすれば良かったかな)


 ある意味、俺の厨二病力を上げるには良さそうだ。

 そんなことを考えているとリスティが俺の肩を叩いた。


「エルリット君。私が教育係になるのだから、私の相棒も紹介しておかないといけないわね」


「相棒ですか?」


 俺はそう言って隣にいるリスティの後ろを見た。


(おい、何だこれ? いつの間に!)


「フユ~」


 そう言って、フユが俺の肩に尻餅をつく。

 俺達は、リスティの相棒とやらの姿を見て思わず固まっていた。

お世話になっています、雪華慧太です。

いつも『転生チートは魔王級!!』をお読み頂きましてありがとうございます。

このたび著作の『召喚軍師のデスゲーム3』が発売になりました。

これもいつも応援して下さいます皆様のお陰です。

今後とも、ぜひよろしくお願いします!

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