第六十話 ギルドホールにて(後編)
「何してる、ボウズ! 逃げろ!!」
キースが俺の後ろで叫んでいる。
喧嘩っ早いようだが、どうやら悪い奴ではなさそうだ。
命の恩人である俺が心配なのだろう。
俺は使い魔の火トカゲに命じる。
「バロ、喰っていいぞ」
「へっ! あんまり食欲はそそらねえけどまあいいか」
バロはそう言うと一気に膨れ上がり、巨大な口で目の前に迫った火炎の玉を飲み込んだ。
「な!?」
キースがそれを見て呆然としたような声を上げる。
撃ち返す手はあったが、それこそギルドハウスの一部がまたぶっ壊れかねない。
デカい口を叩くだけはあってそこそこ威力を持つ一撃だったからな。
まあじい様やマシャリアの魔力に比べたら可愛いものだ。
「中々美味かったぜ、エルリット」
巨大な火の玉は、完全にバロに飲み込まれて消滅する。
「な、何だと!?」
それを見たギリアムが目を見開いた。
「ありえねえ……クソが! 何者だ、このガキ!?」
ギリアムの傍にいた、体のデカい剣士がこちらに向かってくるのが分かった。
もう一人の剣士はそいつの逆方向からこちらに向かって来る。
見るからに実戦に慣れた連携だ、迷いがない。
(これが冒険者のパーティってやつか)
ギリアムとかいう奴の攻撃が防がれた時に、とっさに反応するように体に叩き込まれているのだろう。
そしてギルアムの傍にいる残りの二人の魔導士が既に魔法陣を作り上げている。
俺はそれを眺めながら言った。
「警告します、それは撃たない方がいい。俺の魔撃と激突してその衝撃で死にますよ、あんたたち」
「な!?」
ギリアムの傍にいる魔法使い達が動きを止める。
自分たちが作り上げる魔法陣よりも早く、俺の作り出した魔撃の魔法陣が、自分達を取り囲んでいるのに気が付いたのだろう。
俺の肩に座っている、フユが青く輝いている。
その額には、そいつらを取り囲むように出現した合計24個の魔法陣と同じ、氷の魔撃の魔法陣が浮かび上がっていた。
「フユ~」
そのいくつかは、ギリアムの仲間が作った魔法陣と寸分たがわぬ場所に作り出されそれを破壊していく。
ギリアムを含む3人の魔導士は完全に俺が作った魔法陣のドームに包囲されている。
氷属性だけだが、ヨハン先輩の魔撃の応用技だ。
魔法陣の密度を上げて、完全にギリアム3人を閉じ込めている。
もし今あいつらが魔法を放てば、俺が繰り出す魔撃と激突してその衝撃でこいつらは消し飛ぶだろう。
腕輪を通す分若干発動は遅れたが、リルルアさんの魔道具だけあって誤差の範囲である。
リルルアさんの店で腕輪と魔力の微調節しておいたのが、意外なところで役に立った。
実戦では一瞬の差が命取りだからな。
俺は目の前に迫った二人の剣士達の前に、俺の使い魔の火トカゲを対峙させながら口を開いた。
「仲間の命が惜しいなら、剣を引いてもらえますかね?」
炎の牙をむく火トカゲの姿を見て、どでかい剣を俺に向けている男が呻った。
「……バカな、こいつは火炎の上級精霊か? しかも七匹だと!? こんなガキが使役できるシロモノじゃねえぞ!!」
ギリアムが俺を睨んでいる。
そして、はっとしたように目を見開くと叫んだ。
「て、てめえ……もしかして、てめえが!」
ギリアムの言葉を聞いて、黒ずくめの衣装を着たほかの連中がこちらを見る。
「そんな、まさか! こんなガキが!!」
「こいつが、Sランク!?」
俺は咳払いをする。
「え、えっとですね。盛り上がっているところ申し訳ないですけど、違いますよ」
Sランクどころか、この連中のせいで登録さえ終わってない。
(それにしても、問題はこいつらじゃないな)
確かに、こいつらはそこそこ強いがあくまでもそこそこである。
ミレティ先生やマシャリア、それにうちのジジイの前に立った時のあのプレッシャーに比べたら、キャンキャン騒ぐ子犬の前に立っているようなものだ。
俺はギルドホールの二階に繋がる階段を見ていた。
さっきから、目の前の連中などとは比較にならない力をそちらから感じる。
そこには青い髪と同じ色の瞳をした女が立っている。
俺達の攻防を見ても眉一つ動かさない。
(強いな……あれがもしかして)
まるで青い狼のような圧力を感じた。
その女は俺を黙って見つめると口を開いた。
「支部長、彼ですか? 今日訪ねて来るかもしれないという、新しいSランク候補は」
その女の傍にはアウェインの姿も見える。
どうやら二階でやっていた会議とやらの途中で、階下の騒ぎに気が付いたらしい。
「ああ、そうだリスティ。あのミレティ先生が認めた秘蔵っ子だぜ。Sランク、しかもプラチナの称号を持つお前とどっちが強いだろうな?」
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