第五十九話 ギルドホールにて(中編)
男が持っている杖に嵌められた赤い宝玉のサイズを見る限り、よほどの金持ちだとしか思えない。
俺と同じように月賦で払っているなら別だがな。
キースが後ろからこちらに叫んでいる。
「おい、何してるんだボウズ下がってろ! そいつは危険だ!!」
(いや危険だって言われても。ぶっ飛ばされて、死にかけてた人間の後ろに隠れるわけにもいかないだろ?)
ロッドを構えた男がキースを見て舌打ちをする。
「あ? 何だお前、まだしゃべれるのかよ。ちっ! このギリアム様の獄炎弾をかわしやがったのか? まあいい、もう一発喰らわせてやるぜ!!」
どうやら男はギリアムと言うらしい。
それしても獄炎弾とか、厨二病患者でも中々つけるのに躊躇する名前である。
困ったものだ、取り込み中なのは分かるが俺も冒険者登録を早く済ませたい。
ランチタイムに遅れたら、エリーゼが頬を膨らませて怒るだろうからな。
構えているロッドからは強い魔力を感じたので、俺はギリアムと名乗った男に声をかける。
「またそいつをぶっ放すつもりなら、俺もそれなりにやり返しますけど、いいですかね?」
ギリアムはこちらを睨み付けている。
「何だと? このガキが!」
俺の言葉に、ギリアムの周りにいる連中が殺気立つ。
俺はそのメンツをざっと見渡した。
(ギリアムを含めて魔導士が3人、それに剣士が二人か)
剣士の一人は大剣を背中から抜くと、俺を脅すように言った。
バカでかく筋肉隆々の男である。
頬には傷があり、いかにも歴戦のつわものに見える。
「なあギリアム。都のギルドにはSランクなんていう化け物がいるとは聞いたが、雑魚ばっかりじゃねえかよ。粋がってた野郎はお前の魔法一発で沈みやがるし、次はこんなガキが相手をしてくれるってのか? お笑いだぜ!」
どうやら、こいつらは都のギルドの連中ではないらしい。
キースが呻くように言った。
「てめえら、調子に乗るなよ。Sランクの方達は今支部長と二階で会議をしてるんだ、あの人達がいればお前達ごとき!」
キースの言葉に、ギリアムは愉快そうに笑った。
「だから、降りてきやすいようにド派手な花火をぶっ放してやったんじゃねえか? てめえから手を出したんだぜ、文句はねえだろうが!!」
「ぐっ!!」
どうやら、挑発をされて先に手を出したのはキースの方らしい。
さっきのバカでかい剣士が笑いながら言った。
「Sランクの昇格試験を受けにわざわざ都まで来てやったのによ。この支部あてに知らせは出しておいたはずだぜ? 何が会議だ、こそこそ隠れやがって。俺達にビビってるなら、最初から素直にそう言いやがれ!」
(ビビる? Sランクの連中がこいつらに?)
「あ、あのですね、それは少しおかしくないですか? Sランクといえば最強の冒険者なんですよね? 貴方達みたいな雑魚にビビるとかありえないと思うんですけど?」
やばい口が滑った。
案の定、俺の言葉にバカでかい剣士がぶち切れた。
「何だとてめえ! ガキだと思って、優しくしていりゃあ調子に乗りやがって!!」
いつ優しくされたのか全く記憶にない。
いやしかし、厨二病の俺にとって称号持ちのSランクの冒険者とか至高の存在である。
憧れの存在にけちをつけられると人間つい言い過ぎてしまうものだ。
口は禍の元である。
ギリアムの額に青筋がクッキリと浮き出ているのが、ここからでも分かった。
「死ねや! このクソガキが!!」
ギリアムは、俺の言葉を聞くや否やロッドから魔法をぶっ放していた。
巨大な火炎の玉が迫って来る。
さっき扉をぶっ壊したものよりもはるかにデカい。
まるで小さな隕石である。
バロが俺の傍で呆れたように言った。
「なあ、どうするエルリット? こんなところでやり合ったらたら、このギルドなくなっちまうぜ」
全くだ。
せっかく苦労してマシャリアを説得したのにな。
それに俺の冒険者になるという夢が、実現する前に消えてしまいそうだ。
「さて、どうしたもんかな」
俺はそう呟きながら、目の前に迫る火炎を見つめていた。
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