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第五話 炎の槍の勇者

 寝る子は育つ。


 俺はすくすくと育って、今はもう7歳である。

 この7年間で、俺の家庭環境やこの世界の事が分かってきた。


 まず我が家だが、ロイエールス伯爵という貴族の家柄だ。


 ただ残念な事に、俺が伯爵家を継ぐということは無い。

 俺の父親のアレンは、伯爵の5番目の息子だからである。


 あの女神め、確かに大きな貴族の家に生まれるようにしてあげるとしか言わなかったからな。


 ただでさえ部屋住みである五男坊のさらにその息子とくれば、貴族と言うのも名ばかりで、実際は貴族を捨てて商人になる者や騎士として身を立てるものも多いらしい。

 まあつまり自力で生きていくしかないって話だ、世知辛い世の中である。


 そして俺の大好きなママンはシャルロット・ロイエールス、実家は異国の小さな貴族だそうだ。


 若い頃アレンが、やんちゃをしていた時に異国で出会ったらしい。

 アレンの年齢は25歳なので、若い頃と言っても俺が生まれる少し前の話だろう。


 夜、俺が寝ていると大抵隣の部屋からギシギシと音がしているところを見ると、恋愛結婚だと思われる。


 この調子なら、俺の妹もいずれ生まれるだろう。

 


 俺たちが暮らすのは、ロッザと言う大陸の南西に位置するファルルアン王国と言う国である。

 ちなみに俺たちが住んでいるのは、アレンの父親のロイエールス伯爵の領地である。


 そして今、頑固ジジイという名が良く似合う偉そうなじいさんが俺の前に座っている。



 ガレス・ロイエールス



 アレンの父親、つまり現在のロイエールス伯爵である。

 ロイエールス伯爵領の領主であり、俺のじい様だ。


 見た目どおり頑固ジジイなので、俺は普段は寄り付かないようにしている。


 長男の息子なら向こうから寄り付いても来るだろうが、まあ五男坊の息子だからな。


 だが今日は訳あって、家族一同伯爵家の大広間に集まっている。

 俺の進学に関する問題だ。


「エルリット! お前も今年で7歳じゃ、分かっておるな。来月から都に行き、仕官学校で剣や魔法を学ぶのだ。いざともなれば、この国そして国王陛下に身を捧げるためにな!!」


 ああ、言い忘れたがこのファルルアン王国では7歳になった貴族は、都にある仕官学校に通う事になっている。


 貴族はこの国を守る為に役目を果たす。


 この大陸には、他にも大きな国はあるからな。

 自国防衛の為に、優秀な人材を育成するのは国として当然だろう。


 それに加えて女神が言ってたように、魔物や魔族もいるようだ。

 何せまだ見たことが無いから分からないが、やばそうな事だけは分かる。


「お前も五男アレンの息子とはいえ、この誇り高いロイエールス家の男じゃ。少しはこの7年で腕を磨いたのじゃろうな!! 都で家名に泥を塗る事は許さんぞ!!」


(おいおい、7歳のガキに家名とかマジですか。)


 ママンとアレンがじい様に言った。


「父上、エルリットはまだ7歳ですよ!」


「そうですわお義父様、エルリットはまだ魔法も剣も学び始めたばかりですわ」


 確かに、最近剣と魔法の家庭教師が俺についた。

 都の士官学校に行く為の下準備と行った所だろう。

 まあ正直魔法については、家庭教師程度の魔道士には教わる事などもうないのだが。


 頑固な顔をしたじい様は、ママンを睨むと言った。


「異国の女など嫁に迎えるからこんな事になる! ワシが7歳の頃はもう剣も振り、いっぱしに魔法も使えたものだ! アレン、貴様が嫁に甘いから息子が駄目になるのだ!!」


 ママンが見る見る涙目になっていく。


 この家ではこのジジイの言う事は絶対だ。

 黒を白と言おうとも絶対服従……それは分かっている……分かってはいるんだが


 

「……おいジジイ」


 俺の言葉に、そこに居る伯爵家の人間からメイドまで皆凍りついた。


 頑固ジジイの額の血管が、ここからでも分かるように浮き出ている。


「……今何といったエルリット、もう一度申してみよ」


 静かな口調だが、その目は殺気にも似た光を帯びている。

 そして、その手は座った椅子の近くに立てかけた槍を掴んでいた。


 炎の槍の勇者ガレス・ロイエールス


 このジジイは、この国でも有数の魔法と槍の使い手である。


「父上! 相手は子供です!!」


「お義父様やめて!! エルリット謝りなさい!!」


 アレンとママンが俺とジジイの間に立ち塞がる。


「嫌だね、俺は謝らない。この国の為に身を捧げろだと? 自分の母親を侮辱されて謝るような野郎が、一体誰を守れるんだよ!!」


 ジジイの目が光った。


 ゆっくりと椅子から立ち上がる。

 手には使い込まれた槍を握っている。


「よく言ったエルリット、お前を一端の貴族として認めてやろう」


 それはつまり、俺を容赦なく叩きのめすと言う事だろう。

 貴族にとって誇りこそが命だからだ。


「エルリット何を言ってるの! 貴方はまだ魔法だって使えないのよ」


 ママンが目に涙を浮かべて俺を見たその瞬間、俺の手から紅蓮の炎が溢れた。

ご閲覧ありがとうございます!

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