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第五十話 ラセアルの復活

 俺達は校門の側に馬車を止めてもらうと外に出る。

 すると、ミレティ先生がこちらに向かって歩いてきた。

 俺はお辞儀をして言った。


「おはようございますミレティ先生」


 エリザベスさんとエリーゼも、そしてフユもミレティ先生に挨拶をする。

 ミレティ先生はフユをみると指でその可愛らしい洋服をつついた。


「可愛らしいお洋服を作ってもらったんですね。良かったですねフユ」


「フユ~」


 フユの嬉しそうな様子に、ミレティ先生はにっこりと笑うと俺に言った。


「あら、エルリット? 来たんですね」


「ええ、授業には出なくていいってことみたいですけど、エリーゼもいますし。それにラセアル先輩の様子が気になったので」


 ミレティが俺の言葉に頷いた。


「心配いりませんよ、もう意識もはっきりしてますし枯渇した魔力もある程度回復してます。一緒に医務室に行きますか? エルリット。まだ時間も早いですし」


「いいんですか? 何か用があってここに立ってたんじゃ?」


 ミレティはエリザベスさんを見上げている。


「ええ、実はエリザベスに用事があったんですけど、エルリットもいるなら好都合ですわ」


「わたくしにですか? ミレティ先生」


 ミレティは一緒に付いてくるように促しながら答える。


「そうです、エリザベス。今日からマシャリアが公爵家に住むことになったそうなので、ちょっとお願いしたいことがあるんです」


 流石に情報が早い、昨日決まったばかりのことだがマシャリアから連絡がいったのだろう。

 俺は尋ねた。


「へえ、もう知ってるんですね、ミレティ先生。何ですかエリザベスさんにお願いしたいことって」


 何しろマシャリアが公爵家に来るのは俺の剣の修行の為だ。

 迷惑をかけるような内容なら知っておきたい。


「ええ、暫くの間ラセアルにはそのことを内緒にして頂きたくて。まだ体調も万全ではないですし、それにほら失恋したばかりですから。すごく落ち込んでるんですよあの子」


「あ……ああ。そうでしょうね」


(あれは、ある意味公開処刑だよな)


 四大勇者であるマシャリアに全校生徒の前で告白した上に、玉砕したわけだから。

 凄まじい程の黒歴史である。

 そもそも今回の発端がマシャリアの一番の弟子が誰かってことだ。

 公爵家で俺とマシャリアが一緒に暮らすことになったなんてことになったらまた一悶着ありそうだからな。


「フユ~、安心するです! フユちゃんが慰めてあげるです!」


「お前は静かにしてろ、いいな」


 そう言って胸を張るフユを見て不安しか感じないのは、俺だけではないだろう。


「フユ~」


 俺の言葉にフユが頬を膨らます。

 考えていてもしかたないので、医務室に案内してもらうことにした。

 一階の廊下の突き当りにある部屋に来るとミレティ先生はドアをノックする。


「どうぞ……」


 中からラセアル先輩の声がする。

 声に全く張りが無い。

 一瞬入るのがためらわれるレベルである。


(やべえ、これは大分落ち込んでるな……ん? 変だな誰かの声がするけど、もう先に誰か見舞いが来てるのか)


「全く貴方はいつまでもグチグチと、男らしくありませんわよラセアル!」


 俺達が部屋に入ると、ベッドの上で死んだ魚のような目をしているラセアルの側に腰をかけている精霊の姿が見えた。

 頭にはフユと同じ白い薔薇が付いている。

 そして俺達に気が付くとこちらを見つめた。


「あら? フユ! 心配してたのよ!!」


「フユ~、お母様です!」


 どうやらフユの母親のローゼさんのようだ。

 サイズはバロと同じぐらいでフユと同じように抜けるような白い肌をしている。

 俺がフユを手の上に乗せてベッドに近づくと、フユは嬉しそうにローゼさんの側に飛び乗る。

 そして、母親に抱き着いた。

 それを見てエリーゼが嬉しそうにエリザベスさんを見ている。


「フユちゃんのお母さんです!」


 ローゼさんはフユの洋服を見ると、俺達にお辞儀をした。


「フユがお世話になったようでありがとうございます。あらまあ、こんな可愛いお洋服まで着せてもらって」


「フユ~、フユちゃんお姫様になったです!」


 そう言ってクルリと回って、はしゃぐフユの頭をローゼさんは撫でている。


「へえ、綺麗な人だなお前のお母さん」


 ふわっとして可愛い感じのフユだが、ローゼさんは綺麗系の精霊である。

 俺の言葉にローゼさんがやってくる。


「ふふ、お上手ですのねエルリットさん。昨日の試合見事でしたわ、悔しいけれど私とラセアルの負けです」


「…………」


 隣のラセアルは無言である。

 ローゼさんはそれを見て溜め息をついた。


「全く、ラセアルときたらずっとこうなんですのよ。エルリットさんからも何とか言ってあげて下さい」


 フユがすっかり生気を失ったラセアルの側で胸を張って言った。


「情けないです、だからマシャリアにフラれるです」


「おい、フユやめろ」


 完全にオーバキルである。

 じわりとラセアル先輩の目に涙が滲む。


「……マシャリア先生は僕の見舞いにも来てくれない。僕は先生に嫌われたんだ……もう何もする気がおきない」


 完全にダメ人間である。

 気を失っても前に進んできた男と同一人物をは思えないほどのいじけぶりだ。

 ミレティは困った顔をする。


「ですから、言ったじゃないですかラセアル。マシャリアは陛下にお仕えする騎士です、お許しなく側を離れることなどできませんよ。マシャリアは本当に心配してたんですよ貴方のこと」


「嘘です! 慰めなんていりません。きっと先生はもう僕の顔も見たくないんだ!」


 フユがまた何か言いそうだったので、俺はその口を慌てて抑えた。


「むぐぅう」


 止めを刺すつもりだっただろお前は。

 全く、ラセアルもラセアルだ。


 ミレティ先生もさすがに心配そうである。

 その時、医務室の窓が微かに震えた、それは徐々に大きくなり医務室の窓に白く大きな生き物の姿が見える。

 一声、美しい鳴き声が校庭に響いた。


(あれは……)


「キュイちゃんのお母さんです!」


 エリーゼはそう言って窓から外を眺めている。

 確かに白竜のアルサだ。

 白い白竜が舞い降りると、その背から美しい女騎士が地面に降り立ち学園に向かって歩いてきた。

 マシャリアである。


「マシャリア先生!!!」


 ベッドに寝ていた男が、まるで稲妻のように身を起こした。

 ラセアルは飛び起きて、窓を開くとそこからひらりと校庭に身を躍らせる。

 駆け寄る弟子の頭をマシャリアは優しく撫でている。


「心配したぞラセアル。国王陛下に少しだけお前を見舞う時間を頂いてな、すぐに戻らねばならぬがお前の元気そうな顔を見れて安心した」


「当然です、あの程度! 何ともありません!!」


(おい……あんたさっきまで死んだ魚みたいな目をしてたじゃねえかよ)


 愛の力は偉大である。

 見た目はイケメンだが、ヨハン先輩と同じタイプだなこの人は。

 マシャリアは俺達に気が付いたのかこちらに向かって歩いてくる。

 そして、医務室の窓枠に手をかけると華麗に室内に身を躍らせた。

 その姿は華麗としかいいようがない。

 ほんとじい様の件と料理の腕を除けば、この人は完璧なんだけどな。


「エリザベスにエリーゼ様。エルリットも来ていたか、すまないなラセアルが心配をかけた」


 ラセアルが先ほどの死人のような様子とはうってかわっての元気さで、マシャリアの後を追って医務室に戻ってくる。


「……エリザベス様とエリーゼ様のご訪問には感謝しますが。こいつには感謝する気はありません」


 どうやらマシャリアのお蔭で元気にはなったようだが、敵意はむき出しである。

 俺は肩をすくめた。


「いいですよ、別に感謝してもらわなくても。俺は先輩を認めてますから、気を失っても前に進んできたあの気迫。凄え男が俺の兄弟子で光栄です」

 

 マシャリアへの愛はともかく、目の前の男は、掛け値なしに尊敬に値する相手だからな。

 俺の言葉にラセアルは一瞬唖然としてこちらを見ていたが、軽く舌打ちをして顔を反らした。


「ちっ……調子が狂う奴だ。エルリット・ロイエールス」


 そして俺を少し睨むと言った。


「次は負けないからな。覚えておけ」


 そう言って、顔を反らしたまま俺に向かって手を突き出す。

 俺はラセアル先輩のその手を握った。

 マシャリアはそれを見て大きく頷いた。


「ふむ、これで私も安心してお前と暮らせるというものだ。なあエルリット」

 

 美しい女エルフはそう言って、俺の肩に手を置いた。


「は……ははは。空気を読んでくださいね、マシャリアさん」


 ラセアルの目に殺気が宿る。


「どういうことだ! 説明しろ!!」


 どうせいつかは打ち明ける話だとしても、まるで新婚生活でも始めるような言い方である。

 剣を抜きかけたラセアルに事情を説明するのに、俺が苦労をしたのは言うまでもない。

お読み頂いてありがとうございます!

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