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第四十四話 真紅の薔薇(前編)

 王妃直属の騎士達はエリザベスさんの前に進み出ると、膝をついて挨拶をする。


「公爵夫人、エリーゼ様、ご機嫌麗しく何よりで御座います」


 そして、マシャリアとギルバートさんにも一礼をした。

 その数は三人、ギルバートさんが団長の王国騎士団の鎧の肩にはファルルアン王家の紋章が付いているのだが、今俺の目の前のいる騎士達の肩にはその紋章と併せて赤い薔薇の絵が鮮やかに描かれている。

 ギルバートさんが俺に耳打ちをする。


「エルリット君、彼らは王妃陛下直属の薔薇の騎士団、『ロサリア・エクエリオス』の騎士です」


「みんな若いですね。見た感じ17歳か18歳ぐらいじゃないですか?」


 7歳の俺が言うのもなんだが三人ともまだ若い。

 騎士というよりは少し線が細く、騎士見習いと言った感じだ。

 ギルバートさんが頷く。


「ええ、ディアナシア様に関係が深い貴族の子息達で構成された、親衛隊のような騎士団ですからね。彼らは士官学校を出て数年『ロサリア・エクエリオス』の騎士として王妃陛下にお仕えをして、それから様々な役職を与えられて、正式に王国に仕えることになるんだよ」


「へえ、そうなんですね」


 マシャリアが少し顔を顰めて続ける。


「だが、中には王妃陛下や親の権威をかさにきて、傍若無人に振る舞う者も少なくはない。私の配下の騎士であれば、性根を叩きなおすのだがな」


「は……ははは。でしょうね」


 確かにマシャリアならそうするだろう。

 それにしても、上手いやり方だ。

 士官学校を出て暫く自分の手元に置いて忠誠を誓わせた後、お墨付きを与えて国の様々な役職に就けていくのだろう。

 自分の派閥の人材が国の至る所に存在すれば、政治力も増すだろうからな。

 実際、俺がここにいることも筒抜けになってことがそれを証明している。


「王妃陛下が、そちらのエルリット・ロイエールス殿にお会いしたいとのことです。我らがこれより案内致します」


 エリザベスさんが俺の肩に手を置く。


「エルリット君」


 一緒に行きましょうということだろう。

 だが、俺は首を横に振った。

 気持ちだけで十分だ、公爵家の人を俺の事情に巻き込みたくない。

 俺は騎士達の前に進み出ると、エリザベスさんを振り返って言った。


「大丈夫ですよ、エリザベスさん。一人で行けますから、先に帰っててください。こう見えても王国名誉騎士ですからね、保護者同伴なんてじい様に怒られますから」


 三人の騎士達は頭を下げながらも、俺のことをじっと見ていた。

 気のせいだろうか? 敵意のような感情がそこに浮かんでいるように見える。

 膝をついてる騎士達の前に俺は歩み出た。

 すると俺の足元を何かが横切る。


(おいおい、お前は空気を読め)


「フユ~、綺麗な薔薇ですエルリット! フユちゃんと一緒です!!」


 キュイがトコトコと横切って、その頭の上にのったフユが騎士達の肩に描かれた薔薇を見て、頭の薔薇を開いて嬉しそうにしている。

 確かに真紅で美しい薔薇だ、腕のいい職人が彫り、色を付けたのが分かる。

 恐らくはディアナシア王妃の紋章なのだろう。


「おいフユ、お前はみんなと一緒に先に帰ってろ」


「フユ~、フユちゃん一緒に行くです!」


 すっかり紋章の薔薇が気に入ったのだろう、フユは近くで膝をつく騎士の肩にフユが無邪気に飛び乗ろうとした。

 その時である。


(何だ!?)


 俺は、その騎士から魔力が湧き上がるのを感じて身構えた。

 空中にいるフユのすぐそばに魔法陣が現れる。


「離れろ! フユ!!」


「フユ?」


 俺の叫びにフユが振り向いて小首を傾げる。

 そして、フユがその騎士の肩当の紋章に触れようとしたその瞬間、フユの体が火炎魔法で燃え上がった。


(クソが! 何しやがる、こいつ!!)


 フユはびっくりしたようにそのまま地面に落ちる。

 そして、炎に包まれたまま尻餅をついて大声を出して泣いた。


「フユ~熱いです! エルリット!!」


「「フユちゃん!!」」


 エリーゼ達がそれを見て慌ててフユに駆け寄る。

 フユは地面を転がっていた。


「熱いです! 熱いです!!」


 だが、実際にはその炎が熱くないのに気が付いて、フユは座り込んだまま俺を見上げた。

 小さい手で涙をぬぐいながら、不思議そうに自分の身体を眺めている。


「フユ~、どうしてですか? 熱くないです」


 俺の肩の上にはバロが乗っている。


「ったく、このガキ。俺とエルリットに感謝しろよ」


 騎士が作り出した炎の熱は、全て俺が喚び出したバロが吸い込んでいる。

 そして、すぐにフユを包む炎は消えた。

 俺は火炎の魔法を作り出した騎士を静かに睨む。


「何のつもりだ、あんたら……」


 それを聞いて、そいつは笑みを浮かべる。

 いや、そいつだけじゃない。

 残りの二人も薄ら笑いを浮かべている。


「これは失礼。君の行儀が悪い精霊が、王妃陛下の大事な薔薇に触れようとしたからついお仕置きをね。この薔薇はディアナシア様の高貴な紋章、それを汚すものには罰を与えることが僕達には許されている。嘘だと思うのなら王妃陛下に直接聞いてみたまえ」


 そこまで言った後、そいつの顔から笑みが消える。


「それよりその目は何だ、もしかして僕達とやり合うつもりなのか? 『ロサリア・エクエリオス』である僕達に手を出すということは、王妃陛下に逆らうのも同じことだということを忘れるな!」


「たかが士官学校の新入生風情が!」


「四大勇者の孫だというだけで、王妃陛下の寵愛を得られると思うなよ!」


(こいつら、要するに王妃が俺に興味を持っていることが気に入らないってことか? たったそれだけのことでフユにあんな真似を?)


 最初から、こちらに何か落ち度があれば仕掛けるつもりだったのだろう。

 俺を見て薄ら笑いを浮かべているこいつらの顔が、それを雄弁に物語っている。

 マシャリアが騎士達の前に進み出た。


「お前達どういうつもりだ!!」


 俺は右手でマシャリアを制して言った。


「……マシャリアさん。いいんですよ、俺が悪いんです。申し訳ありません、俺の精霊が失礼をしました」


 頭を下げる俺を見て、フユはエリーゼの腕の中でしょげかえっている。

 いつも元気なフユの大きな瞳から、涙がポロリと零れた。


「フユ~、エルリットは悪くないです。フユちゃんが悪いです……ごめんなさいです、エルリット」


 俺の言うことを聞かずにはしゃいだ自分が悪かったと、幼いながらにも反省しているのだろう。

 俺はその小さな頭を撫でた。

 エリーゼは、そんなフユを抱きしめてうっすらと涙を浮かべている。

 薔薇の紋章の騎士達は立ち上がると俺に言った。


「とんだ腰抜けだな。それでは失礼します公爵夫人。ついて来い、エルリット・ロイエールス」

ご閲覧頂きまして、ありがとうございます!

後編も本日更新しますので宜しければご覧下さい。

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