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第四十一話 地竜の杖

 ミレースの手帳には一人の魔道士の姿が描かれていた。

 全身をすっぽりと覆うローブを着ており、右手にはミレースが言っていたように少し特徴のある杖を持っているのが分かる。


「良く似ているって、この杖のことですか? マシャリアさん」


 俺はマシャリアに尋ねる。

 絵に描かれている魔道士は、特に特徴があるようには思えない。

 そもそも、ローブで顔も全身も殆ど隠れているからな。

 マシャリアは俺の言葉に頷いた。


「ああ、そうだ。この絵だけでは確信は持てないが、地竜の杖タイタニウスと呼ばれる物に良く似ている」


「地竜の杖ですか?」


 俺はそう繰り返すと、もう一度ミレースが描いた絵を見た。

 確かに杖の先につけられた大きな宝玉の周りには、竜のような生き物の姿が三匹絡み合ってデザインされている。

 それはまるで命を持っているかのように、生き生きと描かれていた。


「大いなる大地の力を秘めた魔道具だ。ミレースお前は見た通り描いたのだな?」


 ミレースは胸に手を当てて、思い出すかのように俺達に言った。


「は、はい! 不思議な杖でした、まるで生きているみたいにその竜の彫刻が動いている気がして。それで思わず、スケッチしたんです」


 ミレースの言葉を聞いて、マシャリアの目が鋭くなる。

 まさに王家を守護する騎士の瞳である。


「まさかとは思うが本当にタイタニウスだとしたら……。だが、そんなことは有りえない。この杖はあの戦いで破壊されたのだからな」


 そう呟くマシャリアの言葉にギルバートが答える。

 こちらも先ほどとは違い、この国の聖騎士団長に相応しい表情になっている。


「タイタニウス。かつて大地の錬金術師タイアス様が、お使いになられた杖ですね?」


 ギルバートにマシャリアは頷く。


「そうだ、ファルルアンの秘宝の一つで魔王との戦いでタイアスが使った杖だ。だが激しい戦いの最中、その力を使い果たし砕けたのを私は見た」


(へえ、なんか凄そうな杖だな)


 いかにも伝説の勇者が使いそうな武器である。

 俺はもう一度ミレースの絵をのぞき込む。

 俺達の話に加わりたいのだろう、フユも手帳の上にのって書かれた絵を見ている。

 だが描かれた杖のドラゴンの顔を見て頭の薔薇をしぼませる。


「ドランゴンです! フユ~怖い顔してるです! キュイちゃんみたいに可愛くないです!!」


「キュキュ?」


 フユに名前を呼ばれたのが分かったのだろう、母親のアルサに甘えていたキュイが大きな瞳でこちらを見る。

 エリーゼがにっこりとキュイに微笑むと、立ち上がってトコトコと歩いてきた。

 それを見たエリーゼがキュイを抱き上げると、嬉しそうに小さな羽をパタパタさせる。


「フユ~」


 エリーゼに甘えるキュイをフユが少し羨ましそうに見ていると、エリーゼは手を伸ばしてフユに微笑んだ。

 フユは、ぱぁっと頭の白薔薇を開いてエリーゼの手のひらに飛び乗る。

 その姿は天使と妖精のようでほほえましい。


(エリーゼは、ほんと動物とか精霊に好かれるよな。バロなんてあのざまだからな)


 こと精霊に関していえば、俺みたいに強い魔力がある訳でもないのに不思議と言えば不思議である。

 そんなことを考えながら、俺はマシャリアに尋ねた。


「ということは、これがもし本物だとしたら、この絵の魔道士がタイアスさんだってことですかね?」


 マシャリアは俺の言葉に頷いた。


「その可能性があるということだ。ミレティも私もずっと気になっているのだ、なぜ我らに何も言わずタイアスが姿を消したのか。そして一体今どこにいるのかということをな」


 何しろ三年前に行方不明になっている四大勇者の一人だ、もし見つかったとなれば大騒ぎになるだろう。

 しかし、もしこれがタイアスさんなら冒険者ギルドに訪れた理由は何だろうか?

 それに王都にいるのなら、なぜまだ姿を隠したままなのだろう。

 マシャリアがミレースに尋ねる。


「ミレース、この杖を持った魔道士はどんな男だった? 何か気が付かなかったか?」


「は、はいレティアース様……えっと」


 憧れの人に見つめられてミレースは顔を真っ赤にして少し考えて混んでいたが、しばらくするとしょんぼりとウサ耳を垂れさせて口を開いた。


「ごめんなさい、その絵に描いた事以外は。私が見たときはもう、ギルドから出ていくところだったんです。男の人かどうかも」


 確かに、このローブ姿からは男女の判別も難しい。

 アウェインがしょげかえるミレースの頭を撫でてマシャリアに言う。


「レティアース伯爵。俺がミレース以外にこの人物を見た者がいないか、冒険者ギルドの人間に確認します。何か分かったらすぐ報告しましょう」


 マシャリアが頷く。


「頼めるかアウェイン、何か分かったらすぐに私に報告をしてくれ。宮廷の門番たちにはお前が尋ねたら私の元に通すように伝えておこう」


 ギルバートさんは近くに控える部下の騎士達に声をかけると、アウェインに同行するように命じた。

 ミレースも慌てたようにアウェインについていこうとしたが、アウェインは肩をすくめてとめる。


「お前はゆっくりしていけ、せっかく王宮に入れたんだ、見たいものもあるだろう。騎士団の方もいる、ギルドの事は気にするな」


「支部長……」


 何だかんだ言ってもいい上司なのだろう、ミレースは頷いて嬉しそうに微笑む。


「公爵夫人、エリーゼ様、それでは先に失礼を致します。エルリット君、また会おう」


 そう言って、アウェインは俺達に頭を下げると厩舎を出ていった。

 俺はふと首を傾げる。


「でも変ですね、そもそも四大勇者の大ファンのミレースさんが、これを見てタイアスさんの杖だって分からなかったんですか?」


 物語には挿絵があるだろうし、絵本も呼んでいたと聞いたからな。

 ミレースなら気が付きそうなものだ。

 責めるつもりは全くなかったのだが、ミレースのウサ耳がまたしょんぼりと垂れている。


「ごめんなさい、私が知ってるタイアス様の杖とはだいぶ違うので分からなくて」


「へえ、そうなんですね?」


 まあそんなものかもしれないな、多少の脚色というのはこの手の寓話にはつきものだろう。

 マシャリアは肩をすくめる。


「それはタイアスに限った話ではない。私も皆が読む物語の挿絵を見たことがあるが、あれは我らが魔王との戦いの時に使った武器ではないからな」


「どういうことですか、マシャリアさん?」


 俺の問いにマシャリアはゆっくりと口を開いた。

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