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第三十八話 マシャリアの事情 前編

「……ルリット君、着いたわよエルリット君」


 何やら俺の顔は、とてもいい匂いがするものに包まれている。

 そして、その人はまるでママンのように優しく俺の髪を撫でていた。


「あ、ああ。すみませんエリザベスさん。俺、昔から寝相が悪くて」


 どうやら寝ているうちに、隣に座るエリザベスさんの膝に頭を乗せてていたらしい。

 公爵夫人であるエリザベスさんの膝枕とか、贅沢の極みである。

 ヨハン先輩が見たら、俺は確実に翌日から命を狙われるだろう。

 秘密厳守である。

 エリザベスさんは、頭を掻いて身を起こす俺を見て微笑むと。


「何だか嬉しそうだったわよエルリット君、いい夢でも見たのかしら?」


 その言葉に俺はふと考え込んだ。

 確か美貴が大人になって、子供を連れているような夢を見た気がする。

 妙にリアルだったよな……


(まあでも、あいつのことだから心配はいらないか)


 美貴は昔からしっかりしてたからな、俺なんて転生しても相変わらずの厨二病である。

 七歳になった俺の姿をみたら、美貴もさすがに腰を抜かすだろう。

 エリーゼも俺の顔を見て笑っている。


「エルリット笑ってました。きっといい夢だったんですわ!」


 ミレースがウサ耳をピコピコさせながら俺に言った。


「うふふ、エルリット君が寝ている間に何枚も寝顔を描いちゃいました! 少しだらしない笑顔でしたけど可愛かったです!」


「は……ははは。ミレースさんて意外と一言余計ですよね」


 可愛い顔をしたウサ耳少女の口から時折繰り出される一撃は、中々痛烈である。

 初恋の相手であるじい様と比較をするからだろうが、これではうかつに寝てもいられない。

 絵本の中の英雄と比べられれば、大抵の人間の寝顔はだらしないものである。

 俺は気を取り直して言った。


「さて、じゃあ行きましょうか?」


 エリザベスさんが言うように俺が寝ている間に、馬車は王宮の入口に着いていた。

 フユはすっかり眠っているので、俺は風系の魔法をつかって小さな空気のベッドをつくると、その上にフユを寝かせた。

 俺の魔力で制御しているので、俺が歩けば側についてくる。

 言ってみれば、空気で出来た移動式のベッドである。


「フユ~……フユちゃんにまかせるです……フユちゃんがエルリットを守るです」


 どうやら、俺の使い魔になった夢でも見ているのだろう。

 ミレースはその姿に目を輝かせて、早速またペンを走らせている。

 後ろからアウェインが乗った馬車も到着して、入口の衛兵達と何やら話をしている。

 エリザベスさんとエリーゼが乗る公爵家の馬車と違って、理由がなければ冒険者ギルドの支部長といえども王宮には入れないからな。

 おそらく、マシャリアへの面会を求めて手続きをしているのだろう。

 エリザベスさんが門番とアウェインの側に歩み寄ると、事情を説明する。


「左様でございますか! 大変失礼しましたアウェイン殿、エリザベス様がそう仰るならどうぞお通りください」


 アウェインは門番に頷いて、エリザベスさんに深く頭を下げる。


「ありがとうございます、公爵夫人。普段なら許可が下りるまで結構時間がかかりますから、助かります」


「気になさらないで下さい、アウェインさん」


 すぐに王国の騎士団の騎士達が数名やってくると、俺達を案内する。

 どうやら、マシャリアは白竜の厩舎にいるようだ。

 学園を訪れた国王を空からも護衛しながら王宮に戻り、任務を終えた白竜達を厩舎に連れていき労をねぎらっているのだろう。


(それにしても、マシャリアさんが自分の屋敷から冒険者ギルドを立ち退かせる理由って何だろうな?)


 まさか、ラセアルの告白を聞いて結婚する気になったとか……いや、それはないか。

 告白されたのは今日だからな。

 それに、マシャリアさんのじい様ラブは相当ガチである。

 ラセアル先輩には悪いが、流石にそれはないだろう。

 俺がそんなことを考えていると、飛竜の厩舎の側までたどり着いた。

 キュイがクンクンと匂いを嗅ぐような仕草をみせた後、嬉しそうに翼をパタパタさせている。


「キュイ! キュイイ!!」


 恐らく両親の匂いを感じたのだろう。

 エリーゼは優しくキュイを撫でると、微笑んだ。


「エルリット! キュイちゃん、嬉しそうです!」


「ああ、そうだな。まだ赤ん坊だからなキュイは」


 エリーゼは可愛らしい顔で頷くと、大事そうにキュイの頭を撫でる。


「キュイちゃんはエリーゼの大切な飛竜です、毎日世話をしてあげたいです!」


「ああ、士官学校の帰りに毎日寄ればいいもんな。俺も一緒に来るからさ」


 俺の言葉にエリーゼ嬉しそうに笑った。

 キュイを抱いているその姿がまるで小さな天使のようなので、側にいるみんなの気持ちが和んでいく。

 ミレースは相変わらずそれを描くのに忙しそうだ。

 俺達を案内した騎士団の騎士達が厩舎の扉を開くと、そこには白竜の夫婦とその側に立つマシャリアがいた。

 一緒に立ってるギルバートさんが俺達に向かって歩いてくる。


「これは、エリザベス様にエリーゼ様。それにエルリット君まで、キュイを届けてくれたんだね? ありがとう」


『あら、ぼうや。すっかりそのお嬢さんが気に入ったのね』


『うむ、これほど人間に懐くとはな』


 エリーゼの腕の中で嬉しそうにしているキュイを見て、白竜の夫婦が感心している。

 二頭の飛竜の前には今日の労をねぎらうための物だろう、好物のオリマカの実が山積みされている。

 俺はエリーゼと一緒にラセルとアルサの元に歩み寄ると、そっとキュイを両親に返した。

 どうやら俺と一緒なら白竜の側に行っても怖くなくなったようだ。


「キュ~」


 甘えるような声を出して、キュイがアルサの体に身を寄せる。

 それを見てエリーゼは、しゃがんでキュイの頭を撫でた。

 マシャリアも俺達に歩み寄ると、エリザベスさんとエリーゼに一礼した。

 そして、俺に尋ねる。


「ラセアルの様子はどうだ? ミレティは心配はないと言っていたが、気になってな」


 何だかんだ言っても弟子の心配をするのが、マシャリアのいいところである。

 俺は頷いて答えた。


「大丈夫ですよ。今日は学園の医務室に泊まっていくそうです。ミレティ先生が付いていてくれますから、心配はないと思います」


 マシャリアは安心した表情を一瞬見せたが、怒ったように言う。


「全く、何を考えているのだラセアルは! エルリットが負けでもしたら、どうなっていたことか」


 確かに下手をしたら婚約がその場で認められていたかもしれないな、国王もあれだけの生徒の前で一度認めたものを引っ込みがつかないだろう。

 ギルバートさんが顎に手を当てて考え込む。


「そうですねぇ、いっそのことエルリット君が負けた方が良かったんじゃないですかね。そうすればマシャリア様もようやく春が、ガレス様にフラれ、ぐはっ!」


 マシャリアの目が一瞬うるっとしたのを見て俺は、ギルバードさんのわき腹を肘打ちをした。

 全く、この人だけは命知らずである。


「痛いじゃないか、エルリット君」


「は……ははは。すみませんが、感謝されこそすれ非難される筋合いはないですね」


 俺はギルバートさんの抗議をあっさりと却下した。

 すんっと可愛らしく鼻を鳴らしたマシャリアの瞳が、俺達の後ろから厩舎に入ってきた二人を見ている。


「冒険者ギルドのアウェインじゃないか。それにお前は確かギルドの会計係の……どうかしたのか?」


 ギルドホールの家主だけあって、ミレースの顔ぐらいは覚えているようだ。

 俺は呆れたように美しい女エルフを見上げた。


「『どうしたのか?』じゃないですよ。二人にはたまたまリルルアさんの店で会ったんですけど、聞きましたよ。マシャリアさんの屋敷からに冒険者ギルドが出て行かなくちゃいけないことになったって。俺が口を出すことじゃないとは思うんですけど、もし何か理由があるなら聞かせてくれませんか?」


(この人は、騎士としての仕事とじい様のこと以外は殆ど興味ないからな)


 ギルドホールを移さなければいけないアウェイン達にとっては一大事かもしれないが、マシャリアにそれが上手く伝わってないのかもしれない。

 俺はそう思った。

 何しろ相手は四大勇者でレディ伯の称号を授けられた伯爵だ、アウェインも強く言われれば従うしかなかっただろうからな。

 ろくに抗議などしていないのだろう。


「ああ、確かにこれからは屋敷も使うので、空けてもらえないかとは頼んだな」


「へえ、やっぱりマシャリアさんが使うんですね、何に使うんです?」


 俺の言葉にマシャリアは頷くと、口を開いた。

ご閲覧いただきまして、ありがとうございます!

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