第三話 お勉強タイム
(ふむふむ……なるほど、分からん)
俺が初めに手に取った魔道書は、いかにも上級向けの豪華な背表紙をした本だった。
タイトルは『古代三大言語による、精霊魔法の詠唱速度に関する考察』
ペラペラとページをめくる…………
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いや、そっ閉じした。
(全く分からん……当たり前の様に、高位魔法術式の記述方法とか言われても知らんがな。俺のいた世界でそんな単語連発したら、完全にイカレタ厨二病患者扱いだからな)
その時、俺の後ろから声が聞こえた。
「あ! いたいた、エルリット様ったらこんな所に! もうミュアが奥様に怒られちゃいますわ」
可愛い声でそう言って俺を抱き上げたのは、俺の家のメイドの一人でミュアという女の子だ。
青い髪で、しっかり者の頑張り屋と言った美少女である。
ママンから俺の面倒を任される位だからな。
大きなサファイアブルーの瞳で見つめられると何とも言えない。
前の世界で言えば、クラスで一番可愛い子って言った感じだ。
俺は軽くミュアの胸にタッチした。
「あん! エルリット様……すぐ私の胸を触りたがるんだから……メイド長が抱くとそんな事しないのに」
ちなみにメイド長のマリアンヌは、御歳54歳である。
みなさんも分かっていただけるだろう、マリアンヌの前では紳士でいられる訳が。
「悪い子でちゅね~、まだ1歳なのに放っておくと何処にでも行っちゃうんだから……ん?」
ミュアは俺がさっき読んでいた本を見て、驚いたように俺を見る。
「……そんな訳ないわよね。伯爵様のお読みになる本だもの、古代文字でしょ? この本の文字って。ミュアには読めないから良く分からないけど」
ちなみに伯爵様と言うのは、おれのじい様の事だ。
どうやら偉い人らしいが、いつもしかめっ面をしているので俺は近寄らないようにしている。
(ん? ちょっと待てよ……)
確かに俺はこの本をそっ閉じした。
だが読めなかったわけではない、何が書いてあるのかは分かったんだが、その内容が難しすぎただけだ。
この差はまるで天と地ほども違う。
あの女神のお陰で、古代文字だろうがなんだろうが俺に読めない本は無い。
内容が難しすぎるなら、もっと簡単な本から勉強すればいいだけの話だ。
「ミュアぁ、ミュゥアぁ」
俺は甘えた声を出してミュアの大きな胸を揺さぶる。
ミュアにお願いをする時の俺の秘密兵器だ。
ふふふ、毎日ママンのおっぱいを飲む俺は今や胸に関してはエキスパートだ。
胸の先の秘密のボタンに触れても、1歳児ならば無罪放免である。
「ああん……もう、そこは触ったら駄目ですぅ。全くどこで覚えたのかしら? エッチなんだからエル様は」
「ぐふふ」
(いかん、また地が出た)
俺は並んでいる本をジッと見つめた。
ミュアは宝石の様に青い目で俺を見ている。
「珍しいんですねご本が。これなんかどうです? ほら絵本になってますよ」
ミュアが本棚から取り出した本は
『子供に教える魔法入門』
と書かれた本である。
俺はその本を抱きしめてミュアにつれられて自分の部屋に戻る。
それから3日後の朝、俺は部屋の中で唸っていた。
ママンとアレンは町に出かけて今はいない。
俺の目の前には例の『子供に教える魔法入門』がある。
前書きには
※保護者の皆様へ
魔法の才能にはお子様によって大きな差がございます。
お子様が魔法の才能が無いのを著者のせいにするのはお止め下さい。
そう注釈が打たれている。
なるほど、この世界でもモンスターペアレントは存在するようである。
この本を読んで分かったのだが、どうやら魔法とは自分の中にある魔力を形にすることのようだ。
どの魔法を使うのかによって術式が違ってくる。
術式と言うのは、魔法を使う時に必要になる複雑な計算式のようなものだ。
それを形にした物が魔法陣である。
初心者は魔法陣をまず紙に書いて、それを触媒にして魔法を発動させる。
この本によると、子供にはまず魔法陣の書き方から教えましょうと書いてある。
俺も実際書いて見た、術式を覚えるのにも実際書いてみるのが一番覚えやすいからな。
テスト勉強と同じだ。
そして、それに魔力を込めて実際発動してみた。
まあ火炎魔法だったので、念のために外で実験をした。
まじでやばかった……もし家の中でやっていたら、俺の部屋は吹き飛んでいただろう。
やたらとでかい火の玉が、この家の裏庭の地面に小さなクレーターを作ってしまった……
どうやら魔王級の魔力が俺にある事は間違い無い。
轟音で集まった家の人間たちが大騒ぎをしていたが、俺はその隙に部屋に戻って何食わぬ顔で寝たふりをしたのだ。
子供用の魔法で部屋が消し飛んだとか洒落にならない。
これで俺は慎重になった。
安全に実験が出来るように込める魔力を最大限に抑える練習をして、なんとか裏庭でこっそりと魔法の練習が出来るようになる。
そしてこの本が次に教えてくれたのは、紙に書いた魔法陣が無くても魔法を発動させる方法だ。
これは術式である魔法陣を即座にイメージし、魔法を発動させるというテクニックである。
その為には、見本を見ながら紙に書き取っているようなレベルでは駄目だ。
完全にその魔法陣に書かれた術式を暗記し、即座にイメージ出来なくてはならない。
という訳で、唸っていたのである。
俺は手に持った羽ペンにインクをつけて、先ほどからひたすらに魔法陣を書き続けている。
丸暗記するためには、ひたすら書いて覚えるのが効果的である。
向こうの世界では、ガキの時にそう習った覚えがあるからな。
言ってみれば漢字を覚える時に、ひたすら書きまくるのと同じようなものだろう。
まさか、こちらの世界でこんな漢字のドリルのような事をする羽目になるとは思わなかった。
まあもとが厨二病なので魔法陣を覚えるのは嫌ではない、寧ろ楽しい。
そして、俺が3歳になる頃
その頃には、ある程度の魔法の術式はもう完全に頭に入っていた。
高度な魔法以外は紙に書いた魔法陣も必要がない。
もちろん両親には内緒である、3歳で大抵の魔法が使えるとか不気味に思われるだけだからな。
アレンはどうでもいいが、ママンに嫌われたら俺は生きていけない。
一度あの胸に挟まれて、ぎゅっとされた事があれば俺の気持ちが分かるだろう。
そして俺がより高度な魔法を覚えようと、『ある本』を手に取った時事件は起きた。
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