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第三十七話 後継者候補

「へえ、この人が大地の錬金術師なんですね」


 俺は、リルルアから手渡された魔写真を眺めた。

 見るからに優しそうな、学者肌の男性である。

 年齢は写真の当時で二十ぐらいなので、じい様と同じぐらいだろう。


「私達にも縁の深いお方でね、リルカに才能があると仰って、特別に魔法を教えて下さっていたんだ」


「そうなんですね、お嬢さんに」


 リルルアとアウェインの娘の魔写真を見る限り年齢はエリーゼと同じぐらいだ。

 その年齢で、四大勇者の一人に才能を見初められるといのは余程のことだろう。

 マシャリアにとっての、ラセアルのような存在だろうか。

 確かアウェインが、三年前に娘のリルカが亡くなったと言っていたな。


(ちょうど、タイアスさんがいなくなった頃と同じだな……)


 ミレティ先生がそう言っていた。

 第二王子のエルークの家庭教師をしていた時に、突然行方不明になったと。

 あの赤と青の瞳で睨まれたのを思い出すと、いい気分はしない。

 何か関係があるのか……

 俺がそんなことを考えていると、リルルアが続ける。


「タイアス様の行方が分からなくなって、もう三年が経つだろ。王宮の中には新しい四番目の勇者を決めるべきだっていう声が出始めていてね」


 アウェインも頷いた。


「ああ、何しろ四大勇者っていえばファルルアンの力の象徴みたいな存在だ。隣国がファルルアンにちょっかいを出してこないのは、四人の勇者の存在が大きいとも言えるからな」


「でしょうね」


 俺も同意した。

 じい様はもちろんだが、マシャリアも俺と戦った時は本気じゃなかった。

 ミレティ先生もまだ底が知れないからな。

 あんな連中と戦場で出会ったら堪らないだろう。何しろ魔王をぶっ殺すような相手だからな。

 俺は首を横に振ってリルルアを見た。


「もしかして、後継者候補ってそのタイアスさんの後継者ってことですか? 俺じゃあ荷が重いですよ、タイアスさんが他の三人と同じぐらいの強さなら、俺じゃあ勝ち目はないですし。それに、俺は火炎の魔術師ですから」


 四大勇者が四属性に分かれる必要はないかもしれないが、何かあった時にそれぞれの属性のエキスパートがいるに越したことはないだろう。

 リルルアは、俺の肩に手を置いて言った。


「そうじゃないさ、タイアス様の後継者はもうほぼ決まってるんだ。でもね、これを機にいざという時の為に、次世代の勇者候補も選んでおこうっていう話があってね。あんたを炎の勇者の後継者候補の一人に推薦しようとミレティ様やマシャリア様が考えているのさ。凄いことだよ、あの二人に認められるなんて」


 なるほど、将来今の四大勇者の後継者になれるような人間を、今のうちに選んで教育しようということか。

 確かに、タイアスさんみたいなことがあったときに後継者を育てていないっていうのは問題だろう。

 士官学校の四貴公子っていうのも、その候補者達なのかもしれないな。


「へえ、初めて知りました。でもうちのじい様が聞いたら反対しそうですけどね、お前ごときでは務まらんとか言ってね」


 そもそも、俺は勇者の後継者候補なんていうがらではない。

 俺は気になることがあったので、リルルアに質問する。


「そういえば、タイアスさんの後継者はもう決まってるってことですけど。そんな力を持った人がいるんですか? 現役の勇者が不在ってことは、その人が新しい勇者になるんですよね」


 リルルアが俺の問いに答える。


「ああ、あんただって名前ぐらいは知ってるだろ? 第二王子のエルーク殿下さ。四大勇者に匹敵する力を持っていると言われている上に、タイアス様の教え子でもあるからね」


(あいつか……あの青と赤のオッドアイの)


 エルーク・ファルルアン

 確かに、四大勇者に匹敵する力を持っているとは聞いている。

 だが、エリーゼのこともある。

 まだ証拠は掴んではいないが、エリーゼの襲撃事件に絡んでいる可能性がある人物だ。

 新しい四大勇者の誕生だと、とても手放しで喜べる話ではない。

 それに、俺は疑問を感じた。


「でも、ほぼ決まっているってどういうことですか? 誰か反対してる人でも? エルーク殿下はこの国の第二王子な訳ですよね、しかも四大勇者に匹敵する力の持ち主だって話だし、普通ならすんなりタイアスさんの後継者になってもおかしくないですよね?」


 せっかくの機会だ、あいつに関する情報はどんなことでも聞いておいた方がいいだろう。

 反対している人間がいるとしたら、エリーゼの事件について協力を仰げるかもしれない。

 エリザベスさんが、少し表情を翳らせながら言った。


「権力争いですわね」


 リルルアがその言葉に頷く。


「エルリット、あんたもし第二王子のエルーク殿下が四大勇者の一人になったら、第一王子のアイオス様がどう思うか分かるかい?」


(ああ、そういうことか)


 リルルアの言葉で、俺にも合点がいった。

 国王には二人の王子がいる。

 第一王子のアイオス・ファルルアン

 今は外交で隣国のランザスを訪問しているが、その第一王子がこの国の皇太子である。

 王位継承順位が最も高い存在だ。

 だが、もし継承順位が二番目の第二王子エルークが、この国の英雄である四大勇者の列席に名を連ねるようなことになれば、下手をすればエルークを王位にと望む連中が出てくるかもしれないというわけだ。

 少なくても、皇太子のアイオス王子としては面白くないだろう。

 リルルアさんが続けた。


「アイオス様の母君様、第一王妃のディアナシア様は元はランザス王国の王女だからね、このままエルーク王子が四大勇者になるのを快く思ってないのさ」


 エリザベスさんが、リルルアに同意する。


「七年前に亡くなりましたが、エルーク王子のお母君は身分の低い平民の出でしたからね。ディアナシア様としては許せないんでしょう、自分の息子を差し置いてエルーク王子が四大勇者に名を連ねるなどと。今、アイオス王子がランザスに行っているのも、一部ではその為だという話もあるぐらいですから」


 だいぶ、生々しい話になってきた。

 俺は政治には興味がない。

 エルークが、エリーゼに手を出した相手じゃないとしたらかまうつもりはない。

 もちろん、アイオス王子との王位継承争いなどどうでもいい。

 いずれにしてもエルークの件は、確証を得るまでは動けない。

 何しろ相手は一国の王子だ、下手に手を出したらどうなるか分からないからな。


(まあ、アイオス王子とエルークが対立していることを知ったのは、エルークの情報を探る上で役に立つかもしれないな)


「エルリット……」


 エリーゼが、可愛らしい瞳で俺を見て手を握っている。

 その場を支配する重い空気に、不安になったのだろう。


「ごめんなエリーゼ」


 俺がギュッと手を握ると、安心したようにエリーゼが笑う。

 いずれにしても俺は、公爵家に手を出す連中には誰であろうと容赦をするつもりはない。

 まだ会って間もないが、みんないい人で俺にとってはもう家族みたいなものだからな。

 フユは興味がない話だからだろう、俺の手のひらの中でウトウトし始めている。

 こいつは、いつもマイペースである。

 俺はフユの頭を撫でると肩をすくめた。


「勇者の後継者候補だなんて話は俺は興味ないんで、ミレティ先生に任せますよ。それよりもギルドホールの件、早速マシャリアさんに会ってきますよ」


 マシャリアは、あの後国王と一緒に王宮に向かったはずである。

 俺はエリーゼの腕の中で、モゾモゾと動いているキュイの頭を撫でた。


「どうせ、これからキュイを王宮に届けないといけないですから。ついでに詳しい事情を聞いてきます」


 アウェインが俺に頭を下げた。


「すまないなエルリット君。俺も一緒についていくぜ」


 アウェインの言葉にミレースもモジモジとこちらを見つめている。


「あ、あの……もし良かったら私も連れて行ってくれませんか? 一度王宮の中に入ってみたかったんです、それにキュイちゃんを抱いている白竜の姿をスケッチしたくて」


 確かにアルサさんに甘えているキュイの姿は絵になるだろう。

 それに、王宮もスケッチをしたいに違いない。

 俺はエリザベスさんを見た。

 エリザベスさんはミレースに微笑むと。


「構いませんわ、一緒に行きましょうミレースさん」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 嬉しそうに何度も頭を下げるミレースを連れて、俺達は王宮に向かうことにした。

ご閲覧頂きまして、ありがとうございます!

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