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第二十七話 大胆発言!!

 ラセアルの鋭い視線が俺に向けられる中、式典が始まった。


 生徒たちはまだ、国王や白竜に乗って降りてきたマシャリアとギルバートさんに歓声を送っている。

 国王はその歓声に満足したようにゆっくりと立ち上がると、生徒たちに両手を広げた。


「見よ! 勇ましくも美しい白竜たちを! 我がファルルアンの新たな飛竜である!!」


 国王のその言葉に、改めて生徒たちから一際大きな歓声が上がる。


(こうして見ると、さすがに威厳があるな。エリーゼの前で、キュイキュイ鳴いてたじいさんと同一人物とは思えないぜ)


「国王陛下万歳!!」


「陛下の新しい飛竜、万歳!!」


 アルサは場の空気を察したのだろう、美しい立ち姿でその歓声に応えている。

 その一方で、ラセルはと言えば大あくびをしていた。


『ふぁあああ。やっぱり、まだ眠くてたまらん』


 幸い、口をあけ大きな翼をはためかせているその仕草は、猛々しい姿に見えなくもない。

 俺は一応ラセルに注意する、名誉王国騎士の仕事中だからな、今は。


『ラセルさん、出来ましたらあくびは控えて頂くと助かります。一応あのじいさん国王なもので』


『そうですわよ、やめて下さい貴方。恥ずかしいですわ、妻として!』


 ラセルは、まだフガフガ言いながら頷いた。


『ああ、すまんアルサ。ふがぁああ』


 必死にあくびをかみ殺そうとする夫に、アルサはため息をついた。

 一方で、キュイはエリーゼに抱かれて丸まっている。

 まだ朝早かった事もあって、ここに来る馬車の中で眠ってしまったのだろう。

 ミレティ校長の精霊達の美しい声も、いい子守歌になったに違いない。


 国王の側に座るエリーゼが頭を撫でると、くすぐったそうに大きな頭を振って寝息を立てている。

 それを見て女子生徒たちから歓声が上がった。


「見て! エリーゼ様が抱いているあの子!!」


「飛竜の赤ちゃんよ! 可愛い!!」


「真っ白だわ! 見てあの翼、ピコピコ動いてる!」


 国王とマシャリアたちへの歓声に眠りが浅くなったのだろう、小さな翼が動いている。

 そして、生徒たちの自分への歓声に白竜の赤ん坊の目が、まだ眠そうにゆっくりと開いた。


「キュ~」


 そう鳴き声を上げて、目をシパシパさせている。

 大きな頭を持ち上げて、ぼんやりと前を見つめた。


「「「何なのあの子! 可愛すぎる!!」」」


 寝ぼけまなこの白竜の赤ん坊の姿は、すっかり生徒たちを虜にしたようだ。

 キュイは不思議そうに辺りを見渡した。

 エリーゼの腕の中で、首を伸ばして大きな瞳で周りを見ている。


「キュキュ!? キュキュ!!」


「大丈夫ですよ、キュイちゃん」


 目が覚めたら、沢山の生徒たちに注目を浴びていて驚いたのだろう。

 興奮したように翼をバタバタとさせる。

 モゾモゾとエリーゼの腕の中で動いているキュイを落ち着かせる為に、エリーゼは優しく頭を撫でる。

 アルサはそれを見て、察したように一声美しく鳴いた。

 母親のその声にキュイは少し落ち着いたようにエリーゼに抱かれながら、アルサとラセルを見つめている。


「キュキュ~」


 両親が側にいるのを知って、安心したのだろう。

 エリーゼの手に鼻をすり寄せて甘え始めた。

 その姿を見て、国王は目じりを下げる。

 やはり、エリーゼには大甘なじいさんである。


「おお、こやつめどうした? ほれキュイキュイ!」


 そう言って、エリーゼの腕の中のキュイの頭を撫でる。

 側に控える例の国務大臣が、慌てて国王に声をかける。


「へ、陛下!」


 一国の王が、士官学校の生徒の前でキュイキュイ言っていたら、苦言も呈したくなるものだろう。

 国王は軽く咳ばらいをした。


「うむ、ごほん! そして、昨日生まれたこの子竜はエリーゼが名付け親となった! 必ずやファルルアンに幸運をもたらす竜となるであろう!!」


 その言葉に、生徒たちはまた大歓声を上げた。


「国王陛下万歳!!」


「エリーゼ様と可愛い子竜に王国の栄光あれ!」


「「「エリーゼ様、何と言うのです? その子の名前は!」」」


 生徒たちの問いかけに、エリーゼはエリザベスさんと国王を見上げた。

 エリザベスさんも国王も、エリーゼの頭を撫でて頷く。

 エリーゼは嬉しそうに笑って、大きな声で言った。


「キュイちゃんです! キュイちゃんって言います!」


 自分の名前を呼ばれてキュイは大きな瞳でエリーゼを見ると、翼をパタパタとしながら鳴いた。


「キュイ!」


 女子生徒たちを中心に、歓声が巻き起こる。


「可愛いお名前ですわ、エリーゼ様!」


「キュイちゃん! こっちを見て!!」


 国王も、エリーゼとキュイの人気ぶりにご満悦である。

 キュイは色んな方向から自分の名前を呼ばれて、キョロキョロしている。


「キュ? キュキュ!?」


 大きな瞳で、名前を呼ばれるたびにその方向を見つめて翼をパタパタとさせる。

 そして最後は、どうしていいのか分からなくなったのだろう、アルサとラセルの方を見た。

 ラセルはさっきアルサに注意されたからだろう、キリッとした目で堂々と前を見ている。

 まあ、見ながら半分眠っているのかもしれないが……


「キュ~」


 父親の凛々しい?姿を見てキュイは少し鼻息を荒くすると、まるで真似をするかのようにキリッとした目で正面を見ながら胸を張った。

 その姿が愛らしくて、歓声はますます大きくなっていく。

 そして、国王は舞台上の四貴公子たちに目を向けた。


「白竜の捕獲にあたり、そなたたちの働きは見事であったと聞いておる。マシャリアよ、この者達に王国五等勲章を授けよ!」


「かしこまりました、陛下!」


 勲章を手に、マシャリアが闘舞台に降りていく。

 その時、見事なファンファーレが空で鳴り響いた。

 俺が上を見上げると、ミレティの風の精霊達が右手をラッパの形に変えて吹き鳴らしている。

 澄んだその音は、学校中に響き渡っていく。


 当のミレティ校長はというと、闘舞台のわきに作られた白いやぐらの上で、魔法の杖で軽やかに指揮をしている。

 さっき降りて来る時も、精霊達の歌を指揮していたのだろう。

 なにしろ、ちびっ子なので気が付かなかった。

 マシャリアは四貴公子の名前を読み上げていく。


「ラセアル・マレンシエ、前に出よ!」


「はいっ! マシャリア様!!」


 俺からようやく視線を外して立ち上がったのは、エルフの少年である。

 その中性的な美貌に、女子生徒たちからは大歓声である。


「「「ラセアル様ぁ! 素敵ぃいい!!」」」


(すげえ人気だなラセアルの奴。ん、ギルバートさん何してるんだ?)


 ギルバートさんが小さな手帳を手に持って、何かを羽ペンで書いている。

 儀式の進行の状況のチェックでもしているのだろうか。

 そんな事を気にしていると、闘舞台上ではマシャリアがラセアルの首に勲章をかけている。


「良くやったな。さすが私の弟子だ」


 その言葉にラセアルの頬が染まると、思い出したかのように俺を睨みつけた。

『私の弟子』の前に『一番の』が抜けたのが、どうあっても許せないらしい。

 あの目には、この後の試合で俺を叩きのめしてそれを取り返す決意が籠っている。


 さて、ラセアルが国王に一礼してまた元の場所に戻ると、マシャリアは次の生徒の名を呼んだ


「ロイジェル・スハロエル、前に出よ」


「はっ! マシャリア様!」


 名を呼ばれたのは、いかにも正統派の騎士と言った感じの青年だ。

 身長は180cm以上は軽くあるだろう。

 筋骨隆々の逞しい体をしている。


(えっと……士官学校って15歳までだよな?)


 年齢的には少年なのだろうが、見た目は完全に青年である。

 俺はギルバートさんに念のために聞いてみた。


「あのですね、どう見ても彼、二十歳ぐらいに見えるんですけど。年齢詐称とかじゃないですよね」


 俺がラセアルに勝てれば、いずれ戦うかもしれない相手の一人だ。

 年齢を誤魔化しているのであれば、追及してもバチは当たるまい。

 ギルバートさんは、俺の言葉に肩をすくめる。


「エルリット君。その言葉は彼の前で言わない方がいいよ、ああ見えて気にしてるんだ」


 ギルバートさんの話では、実力はランキング3位。

 軍人である父親、スハロエル子爵の自慢の息子らしい。

 眉毛が太く、意志が強さそうな濃い系のイケメンである。


「「「おおお! さすがです、ロイジェルの兄貴!!」」」


 どうやら、こちらは男子生徒からの信望が厚い様だ。


(いかにも軍人の息子って言った感じだな、こいつは)


「ふむふむ、ますます老けて……いや、骨太になって来たな。即戦力になりそうだ」


 気が付くと、ブツブツ言いながらギルバートさんはまたさっきの手帳を取り出して、羽ペンを走らせている。

 ラセアルの時も何か書いていたからな。


「ギルバートさん、何なんですかそれ?」


「ああ、聖騎士団にスカウト予定の生徒の情報を、手帳にまとめているんだよ。ミレティ校長から貰った資料もあるんだけど、それとは別に独自で調べさせた情報もあるからね」


 俺が覗き込むと、ロイジェル・スハロエルの項目に真新しいインクで『老けて見えるが、まだ15歳である。ちなみに女性人気は今一つだが男子から信望あり』と書かれていた。


「……ギルバートさん、それメモする必要ありますかね?」


「は……はは、ついね」


 酷い話である。

 だがチラッと見た感じでは、かなり詳しい内容がびっしりと書かれている。

 俺がもう一度覗き込もうとすると、ギルバートさんは苦笑して手帳を閉じた。


「すまないねエルリット君、マシャリア様から君だけに有利になるような事はするなと言われてるからね」


 さて勲章を授かりロイジェルが下がると、次の生徒の名前をマシャリアが呼んだ。


「ニリス・ロンハート、前に出よ!」


「はい! マシャリア様!!」


 今度は随分と可愛らしい風貌の少年が前に進みでる。

 年齢はせいぜい、12歳といったところだろう。

 おそらく、俺と同じ飛び級で特別選抜コースに入ったに違いない。

 それに、剣はもちろん武器らしいものは何一つ身に着けていない。

 銀製のアクセサリーをいくつか身に着けているだけだ。


「「「きゃぁああ! ニリスくん!! 可愛いぃい!!」」」


 完全なショタ系男子である。

 女子生徒たちから声が上がると、ニリスは恥ずかしそうに赤くなる。


(こいつ……ラセアルが4位でさっきのロイジェルが3位だとすると2位って事か? この歳で)


 もし俺がランキング戦を勝ち上がり対戦するとしたら、見た目とは反して相当危険な相手だろう。

 俺はもう一度ギルバートさんの手帳を覗き込もうとしたが、ピシャリと閉じられた。

 つれない話である。

 ニリスが勲章を受けて戻ると、最後の生徒の名をマシャリアが呼んだ。


「ミロルミオ・シファード、前に出よ!」


「はっ! マシャリア様!!」


 最後に名前を呼ばれたのは、特徴的な瞳をしたワイルドな美少年だ。


(こいつは……獣人っていうやつか?)


 ギルバートさんが、ミロルミオと呼ばれた少年を見る俺に言った。


「彼はハーフだよ獣人族と人間の。珍しいからねファルルアンで獣人族は」


 女子生徒たちから歓声が上がる。


「「「ミロ様ぁああ!!」」」


 女子人気はラセアルと互角と言ったところか。

 ギルバートさんがその歓声を聞きながら俺に言った。


「彼がこの士官学校の今の首席だよ」


「へえ、大したものですね。獣人は魔法があまり得意ではないと聞いてましたから」


 つまりは、それに代わる何かを身につけているということだ。

 全員の首に勲章がかけられると、マシャリアに促されて国王の前に4人は進み出る。

 国王は、四貴公子たちに声をかける。


「そなたたちは、特に優れた生徒たちと聞いておる。何か望みのある者がおれば申してみよ!」


 その言葉に、一歩前に進み出た奴がいた。

 ラセアルである。

 国王の前で膝を付いて言った。


「陛下! この後、私は陛下の御前で試合をする事になっています」


「うむ、聞いておるぞ。エルリット・ロイエールスとの試合、余も楽しみにしておる」


 ラセアルは、膝を付いたまま続ける。


「もし、その試合で私が勝利を得ましたら。お許し頂きたいのです、愛する女性との婚約を!」


 その言葉に一瞬、国王の表情が変わる。


「何!? もしやエリーゼではあるまいな!!」


 その言葉に、エルフの美少年は首を横に振る。

 それを見て国王は頷いた。


「ならばよかろう! 申すが良い、そなたが愛する者の名を!!」


(ならばよかろう、じゃねえだろ……)


 相変わらず、エリーゼ中心のじじいだ。

 マシャリアは首を傾げている。


「ふむ……ラセアルの奴、好きな女がいたのか。私に話してくれれば力になったというのに」


(鈍すぎるだろあんた……ラセアルが言っているのは多分)


 俺がギルバートさんを見つめると、ふぅとため息をついて言った。


「あの人が、鈍いのは昔からですから」


 ラセアルは立ち上がると、マシャリアを正面から見つめて言った。


「その相手は、敬愛する師であり誰よりも美しい女性! マシャリア・レティアース様です!!」


「な!! ラセアル!!」


 愛弟子の大胆発言を聞いて、マシャリアは美しい氷の彫像の様にその場に固まっていた。

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