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第十九話 エリーゼとの婚約?

「は……ははは、冗談ですよね?」


「ふふふ、エルリット君。冗談で娘を婚約させる母親がどこいるのかしら?」


 ラティウス公爵が時々振りかざす政治的なプレッシャーなど比べ物にならないオーラが、俺を圧倒している。

 なるほど、公爵が尻にしかれる訳である。


「冗談だと! 何かね、君はうちのエリーゼが気に入らないと言うのかね。 私の可愛い天使が!!」


 公爵が俺にそう詰め寄った。

 いや、ちょっと待て。

 その前に、やらなくてはならないことがあるようだ。


「あ、あのミレティ校長。俺大丈夫なんでもう授業に行って下さい」


 気が付くと、ミレティ校長が俺たちの話をゼロ距離で聞いている。

 可愛らしい耳がまるで、集音機のようにこちらを向いていた。

 俺の言葉に校長はにっこりと笑って言った。


「あら、わたくしに遠慮しないで下さい。うちの生徒たちは出来る子たちですから、少し遅れても大丈夫です。さあ心配しないで続けて下さい」


 さあって、あんた……

 どうやらミレティ校長の大好物は、饅頭だけでは無いようである。


「何ですか? 婚約って」


 エリーゼが不思議そうに首を傾げている。

 どうやら、エリーゼは何も聞かされていないようだ。

 エリザベスさんは、優しくエリーゼの髪を撫でながら言った。


「エリーゼは、母様のこと好きよね?」


「好きです!」


 エリーゼは嬉しそうに言って、エリザベスさんに抱きついた。

 エリザベスさんは頷いて続ける。


「お父様のことも大好きでしょう? ずっと一緒にいたいわよね」


「はい、大好きです! ずっと一緒にいたいです!」


 その言葉にラティウス公爵は、満面の笑みを浮かべる。

 軽く咳払いをしてエリザベスさんは言った。


「じゃあエルリット君は? エルリット君が、どこかに行ってしまったら悲しいでしょう?」


「エルリットどこかに行っちゃうんですか? 嫌です、エリーゼずっとエルリットと一緒にいたいです!」


 エリザベスさんは、にっこり笑うと言った。


「婚約したらずっと一緒よエルリット君と、将来は奥さんになるの。お父様と母様みたいになるのよ」


「分かりました、婚約します。そしたら、エルリットとずっと一緒にいられますもの」


 恐ろしい程の誘導尋問だ。

 エリーゼは、俺の手をギュっと握って嬉しそうに笑った。


「エリーゼはエルリットの奥さんです、それからお姉ちゃんです。ずっと一緒です」


(うむ……絶対分かってないなこれは)


 そりゃあ、エリーゼは将来絶対美人になるだろうし公爵家の令嬢だ。

 俺にとっては、高嶺の花もいいところだろう。

 だが、やっぱりこういうことは本人の意思が大事だ。


「あ、あのですね。大体まず、特別選抜クラスで一番になれるとは限りませんし。もし俺が一番になれたら、それから考えると言うことでどうですか?」


 俺の言葉に、エリザベスさんが目を輝かせた。


「まあ、なんて男らしいのエルリット君は! こう言いたいのね『俺はエリーゼの為に必ず一番になる』って」


「は……ははは。そうとも言えますかね」


 俺は逆らうのをやめた、エリザベスさんには勝ち目がない。

 エリーゼが俺に抱きついて言った。


「エリーゼも応援します! エルリットが一番になればずっと一緒です!」


(まあいいか、俺にとってはこれ以上ない話だもんな)


 ラティウス公爵が涙ぐんで、俺を睨みつけている。


「いいかエルリット君! 浮気だけは許さんぞ、もしエリーゼを悲しませるようなことがあれば、私の全政治力を使って君を抹殺するからな!!」


(この人、7歳児に真顔で何言ってんだ?)


 案の定、エリザベスさんに叱られて小さくなっていく。

 おおっぴらに立ち聞きをしていたミレティ校長が、何の違和感もなく話に入って来た。


「うふふ、良かったですわねエルリット。うちのクラスの子たちも、祝福してくれると思いますわよ、なにしろ噂でしたから。陛下のお気に入りで、公爵家の天使のように可愛い女の子が入学するって。いい話を聞いてしまいましたわ」


(やばい……絶対この人言いふらすよな)


 さっきの興味津々な顔といい、間違いなく井戸端会議が好きなタイプだ。

 口止めしないと俺は、知らないところで色んな奴から恨まれそうである。


「あのですねミレティ校長」


 俺がそう言いかけたときは、ミレティはもう校舎に入っていくところだった。

 風魔法でも使ったような素早さである。

 『風の魔女ミレティ』と呼ばれるだけあって、去り際は鮮やかだ。

 明日からは、廊下を歩く時は気を付けよう。





 俺たちはその後、王宮に向かった。

 エリーゼが士官学校に入学した祝いの宴を、国王が催すらしい。

 馬車の中でエリーゼは嬉しそうに足をパタパタさせると、俺の中から飛び出したバロと遊んでいる。


「へへ~エリーゼちゃんがエルリットと婚約するなら、俺もエリーゼちゃんと婚約するぜ!」


 どうやらここにも、良く分かってない奴がいるらしい。


「お人形さんともずっと一緒にいたいです。だから婚約してあげます」


 エリーゼにとっては今、婚約ブームのようだ。

 おままごとをしているようで微笑ましい。

 エリザベスさんは、俺にニッコリと微笑んで言った。


「陛下にはまだ内緒ですわよ、エルリット君。陛下の口癖ですから『エリーゼの夫となる男はワシが決める』というのが」


 公爵も頷く。


「うむ、陛下は『エリーゼと婚約する男は四大勇者を倒せる程の男ではないと駄目だ』と言っているからな」


 どこにいるんだよそんな奴、今まで会ってきた勇者の連中はみんな、化け物みたいな強さだったぞ。

 まあしかしあの国王ならでもそれぐらい言いそうだ、エリーゼを本当の孫娘のように可愛がってるからな。



 王宮に着くと、ギルバートさんとマシャリアが迎えてくれた。

 公爵夫妻やエリーゼと一緒に国王に挨拶した後、エリーゼの士官学校入学を祝う宴が始まる。

 暫く参加した後、マシャリアが国王の許しを得て宮廷の中庭で俺に剣の稽古をつけてくれた。

 実はあれから何度か宮殿に来るたびに、剣を教わっているのだ。

 さすがに多くの騎士たちを育てているだけあって、教え方は厳しいが的確だ。


「迷うなエルリット! 剣に迷いがあれば、相手に付け込まれる。自分を信じて剣を振れ!」


 俺の剣を軽々とさばきながら、美しい女エルフはそう言った。

 俺はじい様からもらった剣を、言われたように迷いなく振り切る。

 相手はマシャリアだ、俺がどんな攻撃をしてもどうせかすりもしないから安心して全力を出せるってもんだ。


 ヒュン!!


 と小気味の良い音がして鮮やかに俺の剣が縦に走る。

 いい感触だ。

 実はじい様の書庫に剣に関する本も沢山あったので、色んな流派の剣の型であるとか知識だけは結構ある。

 だが実際にこうやって対戦しながら使うとなると大違いだ。

 マシャリアは頷くと剣をおさめた。


「魔法の才能とは比較にならないが、中々筋がいいぞ。私も教えがいがある」


 剣の才能は女神がくれなかったからな、でも少しは才能があるみたいだ。

 少し休憩をしていると、ギルバートさんがこちらにやってきた。

 どうやらそろそろ宴が終わるので、俺たちを迎えに来たらしい。


「熱心ですね二人とも。そう言えばガレス様は槍の使い手なのに、エルリット君は何故槍を使わないんだい?」


 そう言えば、そうだな。

 でもじい様が俺にくれたのはこの剣だ。

 今思えばじい様が槍ではなく剣を俺に贈ったのは、多分都にマシャリアがいるからだろう。

 士官学校で腕をあげればいずれはミレティ校長からマシャリアの耳にも入るだろうからな、学校にじい様の孫がいるってことが。

 たまたま、その順序が逆になっただけだろう。


「都にはマシャリアさんがいるから、マシャリアさんに剣を教わる為に俺に剣をくれたんじゃないですかね多分」


「何! それは本当か!!」


 俺の言葉にマシャリアが食いついてきた。

 氷の女神のように整った美貌が、嬉しそうに赤く染まっている。


「そ、そうか! ガレスが私にお前を任せたんだな。あいつめ、そう言えば昔からそういう可愛いところもあった」


 ……あのジジイのどこに可愛い要素があるんだ?

 二百年以上生きてるエルフから見ると、そう見えるのだろうか?

 いや、とてもそうとは思えないが。

 マシャリアのその姿を見て、ギルバートさんがふうとため息をついた。


「全くガレス様のことになると、いつもマシャリア様はこうですから。もうふられたんですから前を向いて歩いて下さい」


 この人だけは……この間、甘ガミされた痛みをもう忘れたらしい。

 マシャリアが目に一杯涙を浮かべて、白い狼たちを召喚した。

 唇を噛んで、ぐっと涙をこらえている姿が可愛らしい。

 狼たちはひそひそと話をしている。


「ふぅ、どうします。今のはちょっと許せませんよね?」


「ええ、本当に。言って良いことと悪いことがあります!」


「ほんと、ギルバートは顔はいいのに残念ですわ」


「今日はちょっと甘ガミだけでは許せませんね」


「ええ」


「では、死なない程度にいきましょう」


「「「「「「ガブッ!!!」」」」」」


 さすがにこれは自業自得である。

 ギルバートさんの叫び声が中庭に響いたが、俺は聞かないふりをして王宮に戻ることにした。


 そして次の日。

 俺は自分の特別選抜クラスの中で、いや実質的には学校での自分の順位を決める為の試合に臨むことになった。

ご閲覧頂きましてありがとうございます。

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