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第十八話 ミレティの秘密

「いいんですか? 午後の授業に行かなくて」


 俺がそう言うと、ミレティ校長はニッコリと笑って俺を見つめる。


「ふふふ、少しぐらい遅れても大丈夫ですよ? どうせ通り道ですから一緒に行きましょう」


 新入生は帰ってもいいという話だったので俺は校舎の出口に向かっている。

 多分もうエリーゼ達は待っているだろう。

 ミレティ校長は、しっかりと俺の手を握って楽しそうな顔をしている。


「思い出しますわ。ガレスやロダルが貴方と同じ年頃の時、良くこうして手を繋いで歩いたものです。先生、先生って可愛かったんですよ」


 何? あの2人のジジイが可愛いかっただと……ありえん。

 いやそうか、それぐらい昔の話だってことだよな、こんな可愛らしい顔をしていても御歳七十……


「うふふ、エルリット。今何を考えてたのかしら?」


 俺の頬に精霊の鎌がすっと差し出される。


「は……ははは。誤解ですよ」


 いつの間にか美少女+5人の美女(精霊)に囲まれている。

 俺を切り刻む準備は完了だ。

 

 確かじい様の本で見た記憶がある。

 風の王の娘達、もちろん上級精霊だ。


「ねえねえミレティ、この子ガレス君じゃないの?」


「だよね? 小さい頃のガレス君そっくりだよ」


「まったく、貴方たち何を聞いてたの? この子はエルリット君、ガレス君の孫だよ」


「そうだよ、だからちっちゃいんだよ」


「ふふふ、かわぁいい~」


 マシャリアの精霊に比べて意外とフランクだ。

 鎌が美しい手に変わって、精霊達が俺を抱きしめる。

 これはやばい、至近距離で10の胸が俺の顔を交互に包み込んだ。

 まるで天国である。


「ぐふふ……そんなに可愛いですかね」


 やばい、ついまた地が出た。

 その瞬間、5体の精霊達は何かを感じたように距離を取った。

 美しい手がまた鎌に変わっている。


「邪悪だわ! 見た今の顔?」


「ええ、何か取り憑いているんじゃない?」


「ガレス君の孫とは思えない程、だらしない顔だったわ! まるであの魔王級のいやらしさだわ!」


「この鎌で一刀両断しましょう! せめて魂だけでも救われるかもしれないわ!」


「ええそうね!!」


 ミレティは精霊達をすっと戻すと、俺をジッと見ている。


「確かに、いやらしい目をしてましたね。」


「気のせいですよ、見て下さいこの澄んだ目を」


 ミレティは俺の瞳を覗き込んで首を傾げた。


「大丈夫ですね、何かに取り憑かれている目じゃありません。それなのにあんなにだらしない顔が出来るなんて不思議ですわね?」


 酷い言われようである。

 そうこうしている内に、校舎の入り口が見えてくる。

 先に今日の行事が全て終わったのだろう、公爵夫妻とエリーゼが俺を待っているのが見える。

 俺を見つけてエリーゼがパタパタと駆けてきた。


「エルリット!」


 そう言って俺に駆け寄ると、隣にいるミレティ校長を見て首を傾げる。


「エルリット。誰ですか……お友達ですか?」


 エリザベスさんがこちらに歩いてきて、エリーゼの髪を撫でる。

 そしてミレティ校長に挨拶をした。


「お元気ですか? ミレティ先生」


 ラティウス公爵もやってくると会釈をする。


「お久しぶりですミレティ校長先生」


「ふふふ、お元気そうですねふたりとも」


 どうやら二人とも、ミレティとは顔見知りのようだ。

 考えてみれば、二人だって士官学校には通っていたわけだから当然か。

 エリザベスさんが、ミレティ校長の手を握りながら言った。


「入学式の式典にいらっしゃらないので、心配致しましたわ」


「式典は全てロダルに任せてますから。何しろ今はこんな体ですから、事情を知らない方は驚かれますからね」


(ん? 今はってどういう事だ)


 不思議そうな顔をしている俺を見て、エリザベスさんが言った。


「あら? エルリット君は知らないのかしら。ほら見てご覧なさい」


 そう言ってエリザベスさんは、校舎の出口にある綺麗な中庭を指差した。

 そこには美しい髪をなびかせて、凛々しく杖を構える美女の彫像がある。

 締まるところは締まって、出るところは出てるナイスバディである。

 良く見ると、手にしている杖はミレティ校長が持っている杖にそっくりである。


「あの、まさか……」


「ええ、若かりし時のわたくしの姿ですわエルリット」


(いやいやいや! 若かりしって、今のほうが若いから! おかしいだろ!!)


「私が士官学校に通っていた頃は、もう今のお姿でしたからね。噂では、魔王との戦いで呪いをお受けになられたとか」


 ラティウス公爵がそう言うと、ミレティは可愛らしい顔でにっこりと微笑んだ。

 どんな呪いなのかは分からないが、校長はいたって健康そうである。

 あんなにパクパクと饅頭を食べてもケロッとしてるからな。

 むしろ、そっちが呪いじゃないかと思うぐらいだ。


「エルリット、そう言えば言い忘れてましたが。うちのクラスにはランキング制度がありますから、明日から暫くはクラスの皆と実戦形式で戦ってもらいます。貴方の順位を決めなくてはいけませんし」


 エリザベスさんが両手を胸に当てて声を上げる。


「エルリット君凄いわ! それじゃあ特別選抜クラスに入ったのね、ミレティ先生の! あそこで首席になれば王国から正式に爵位が与えられますわ、素晴らしい名誉ですのよ」


「エルリット凄いです!」


 エリーゼはそう言って俺に抱きついた。

 良く分かってないんだと思うが、大人の話に入りたかったのだろう。

 ラティウス公爵も頷いた。


「一代限りの爵位ではあるが、男爵に任じられる。それによって卒業後に選べる職も全く違ってくるからね。そこでの実績によっては、子供にも地位を受け継ぐ事が出来る世襲貴族になることもありえる」


 エリザベスさんが公爵の手を握って嬉しそうに笑っている。


「あなた、やっぱりわたくしの言った通りでしょう。エルリット君に爵位があればきっと陛下もお許し下さるわ」


「うむ、普通ならば一代男爵では身分が違いすぎると反対されるだろうが。エルリット君はあの炎の槍の勇者の孫でもあるからな」


(ん? 一体何の話だ?)


 俺は二人に訊ねた。


「あ、あのですね。何の話ですか?」


 エリザベスさんはにっこりと笑って俺に言った。


「何ってもちろん、うちのエリーゼとエルリット君の婚約の話に決まってますわ」

ご閲覧頂きましてありがとうございます!

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