第十六話 実家からの知らせ
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
突然叫び出した俺に、みんな驚いている。
「な! どうしたエルリット君、まさか……ご実家に何かあったのかね!!」
ラティウス公爵が心配そうに俺を見る。
「大変ですわ! エリルット君はもう家族同然よ! 何かあったのなら、遠慮無く言って頂戴!!」
エリザベスさんが、俺を抱きしめながらそう言った。
大きな胸が俺の顔を挟んで揺れている。
(うぉおおおおおおおおおおおおお!!)
こっちはこっちで、俺は心の中で叫んだ。
いや落ち着け、今はそれどころではない。
「す、すいません。実は母から手紙が来まして。どうやら、俺の妹か妹を妊娠したようだと!」
俺の護衛騎士の一人が突っ込みを入れる。
「エルリット様、そこは妹か弟ではないのですか?」
「弟だと? 何を言っているのかね君は、死にたいのかね?」
生まれてくるのは妹に決まっている!
俺の夢である『お兄ちゃん! 大好き(ハート)!!』と言って俺に抱きついてくれる、可愛い妹が生まれるはずだ!
手紙にはママンの字でこう書いてあった。
『ママの大事なエルリットへ
実は少し前から疑ってはいたのだけれど、どうやら貴方の弟か妹が出来たようです。
アレンたら大喜びで、直ぐにエルリットに伝えなさいって。
ママも頑張るから、エルリットも士官学校で頑張りなさい。
お休みには帰ってきてね。
いつもエルリットの幸せを祈っているママより』
俺は少しホロリと来た。
ママンの産んだ子ならもし弟でも俺は愛せるよ、とにかく無事に産んで欲しい。
ラティウス公爵も手紙を読んで、エリザベスさんの腰に手を回した。
「うむ、どうだエリザベス。うちもエリーゼに弟か妹を……」
「馬鹿な事言わないで下さい。あなたこんなところで」
と言いながら頬を染めるエリザベスさんも、満更では無いようだ。
何だかんだ言いながら、この二人は熱々だからな。
(ん?)
エリーゼが俺の方をジッと見ている。
「どうしたんだい、エリーゼ?」
俺がそう聞くと、エリーゼは少しだけ元気が無い声で言った。
「エルリット凄く嬉しそうです……良かったです」
そう言って、エリーゼはエリザベスさんに抱きついた。
エリザベスさんは、エリーゼの頭を撫でながら微笑んだ。
「ふふふ、ヤキモチを焼いているのよエルリット君があんまり嬉しそうだから。せっかく自分に素敵なお兄ちゃんが出来たと思ってたのにねエリーゼは」
「違います! エリーゼがお姉ちゃんです」
分かる気がする。
少し違うけど、前の世界で母さんが美貴を妊娠した時あんまり嬉しそうに話すから、生まれてくる前の美貴にヤキモチを焼いたものだ。
まだ小さかったから、母さんを取られたような気持ちになったんだよな。
俺はエリーゼの近くまで歩いていくと言った。
「エリーゼが俺のお姉ちゃんなら、俺の妹はエリーゼにとっても妹だろ?」
その言葉にエリーゼの顔がパッと明るくなる。
嬉しそうに俺に抱きつくと、天使のような笑顔で言った。
「ほんとですか? エリーゼ一杯可愛がります! 早く会いたいです」
俺も同感だが少し気が早い、まだ生まれてないからな。
バロが現れてエリーゼの肩に乗って偉そうに言う。
「へへへ、エリーゼちゃんの妹なら俺にとっても妹だぜ! なあエルリット!」
「いやいや、どう見てもお前はお兄ちゃんていうより弟だろ?」
それを聞いてエリーゼはクスクスと笑う。
バロは腰に手を当てて口を尖らせる。
「ひどいぜエリーゼちゃんまで。 ちぇっ!」
バロがヘソを曲げるのを見て俺達はみんなで笑った。
そして翌日、俺は士官学校に入学した。
俺の学園ライフが始まった訳である。
王国の士官学校だけあって、さすがに立派な建物だ。
入学式が終わると、さっそくクラス分けが始まった。
エリーゼは王族だから、王族専用の特別なクラスに入る事になる。
さっそく丁重な迎えがやってきて、エリーゼを連れて行く。
行き帰りは、エリザベスさんと俺の護衛騎士が迎えに来るので一緒だ。
王族以外の子供達は、その親の希望に応じてまずは魔道士コース、戦士コース、文官コースに分けられる。
親の地位や仕事によって、子供をどの道に進めたいのかは当然希望があるからな。
士官学校だけに、将来を見越しての現実的な振り分けがなされる訳だ。
どうしてもその道に才能がなければ、途中でコースを変える事も出来るらしい。
コースを選ぶと、次は簡単な筆記試験を受ける事になる。
まあ俺が選んだのは魔道士コースなので、テスト問題は目をつぶっていても出来るような内容だった。
ガキの頃から伊達に、じい様の本を読みまくってた訳じゃないからな。
その後の実技試験の時に、俺のペットの火トカゲを7匹出して見せたら試験官がひっくりかえって大騒ぎになった。
言っておくが俺が悪いんじゃない、強面の試験官が『腑抜けた顔をせずに、本気でやらんか!!』と怒鳴ったので、ほんの少しだけ精霊達をその男の周りで散歩させただけだ。
そのせいで今、魔道士コースの試験官達は、集まってヒソヒソと話をしてはこちらを見ている。
「……どうします? 入学式に一緒に来られたラティウス公爵様の奥様に確認したところ、彼あの炎の槍の勇者様の孫だっていう話ですよ」
「先日、陛下から名誉王国騎士の称号を授かったらしいぞ。ラティウス公爵様を襲った賊を一人で倒したらしい。7歳でもう俺より高給取りじゃねえかよ! くそ! 呪ってやる!!」
(おい……聞こえてるぞ)
「見ただろ? 上級精霊を呼び出すような相手だぞ、誰が教えるんだよそんなのを。逆に俺が教えて欲しいぐらいだぜ」
どうやら俺がじい様の孫で、国王から名誉王国騎士に任命された事をエリザベスさんから聞いたらしい。
「いっそのこと、高等部の特別選抜クラスはどうでしょうか?」
「え!? 7歳ですよ彼。幾らなんでもあそこは、我々教師でさえ足元にも及ばない子達ばかりですし」
「だからですよ、将来この国の魔道士のトップになるような子ばかりですからね。担任もあの方ですし、ほらエルリット君のおじいさまとも縁のある、あの四大勇者の一人ですから」
試験官の教師達は俺を見て若干引きつりながらも、ニッコリと笑った。
どうやら俺の行き先が決まったらしい。
そして程なく俺は、3人目の勇者と会う事になった。
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