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第十四話 国王への謁見

「エルリット、もう大丈夫なんですか?」


 エリーゼはよっぽど俺の事が心配なのだろう、ぎゅっと俺の手を握って放そうとしない。


「大丈夫だよエリーゼ、もう心配ないさ」


 一応回復魔法はかけたし、護衛騎士達の治療もした。

 まあ急所は外して攻撃されたからな、完全に手加減された訳だ。

 小人姿のバロが現れて、俺の肩に乗るとエリーゼに胸を張る。


「へへっ、エリーゼちゃん。俺かっこよかっただろ?」


 エリーゼは目を輝かせてバロに話しかける。


「お人形さんです! どうしたんですか、何でこんな所にいるんですか?」


 エリーゼは、あの火トカゲがバロだって知らないからな。

 俺がその辺りを説明すると、エリーゼは少し怯えたようにバロを見る。


「怖いです……」


「え! 怖くなんかないぜ、俺」 


 少し怯えた顔をするエリーゼを見て、バロがシュンとなる。

 エリーゼはそれを見てバロの頭を撫でると、天使のような笑顔で笑った。


「でもエルリットのお友達なら大丈夫です、エリーゼ怖くないです。 エリーゼともお友達です」


 エリーゼはバロに手を差し出すと、可愛らしい手のひらに乗せた。

 赤い髪の妖精は大声で飛び跳ねる。


「ヒャッホー! 友達だぜ!」


「可愛いです!!」


 飛び跳ねるバロを見てエリーゼはそう言うと、ちゅっとキスをした。


「ふひゅうう!!」


 またしても腑抜けた顔になってぐったりするバロを、兄弟達が回収していく。

 全く騒がしい。


 エリザベスさんも、俺をギュッと抱きしめる。

 大きく美しい胸が俺を蹂躙する。

 マシャリアも綺麗だったが、やっぱりエリザベスさんも負けない程の美人だ。


「素敵だったわよエルリット君、騎士達の名誉の為に戦う姿! まるで小さい頃、絵本で見たロイエールス伯爵様のようでしたわ、小さな勇者ねエルリット君は!」


「ぐふふ……そうですかねぇ」


 まさに、楽園である。

 ラティウス公爵が軽く咳払いをした。


「エルリット君、今から陛下にお会いするのだよ。忘れてないかね、私が陛下の甥……」


「あなた! 子供に一々ヤキモチを焼くのはやめて下さい! エルリット君がエルアンにいる間は、うちの子みたいなものですわ」


 エリザベスさんに叱られて、公爵はシュンとなっている。

 この人、どんだけエリザベスさんにべた惚れなんだよ。

 デレっとした俺の顔を見て、アーファルト伯爵が少し引いている様子だ。


「それにしてもエルリット君は凄いね、あのマシャリア様が戦いの最中に動揺するのを見たのは初めてだよ」


「いえ……まあ見ての通り、手も足も出なくてぶっ飛ばされただけですから、アーファルト伯爵」


 事実、マシャリアがその気なら死んでたからな俺は。

 伯爵は俺にひざまずくと、改めて頭を下げた。


「ロウエン達の事、何と礼を言えば良いのか。これからはどうかギルバートと呼んでくれないかエルリット君」


 そう言ってギルバートさんは、護衛騎士達にも深々と頭を下げる。

 騎士らしい生真面目な人だ。


(ギルバートさんとマシャリアは信頼出来そうだな)


 まだ、誰があの魔法陣を描いたのか分からない以上、慎重に周りの人間を見極めるしかないだろう。

 下手に打ち明ければかえって、公爵達を危険に晒すことになるかもしれない。


(二人はあの騎士達の死を心から悲しんでいたからな、敵じゃないと考えてもいいだろう)


「そろそろ参りましょう。皆様にお会いになるのを、陛下も首を長くしてお待ちでいらっしゃいます」


 ギルバートさんに促されて俺達は王宮の中を歩いていく。

 一際立派な彫像が左右に飾られた部屋の前には騎士団の兵士達が立っており、ギルバートさんが促すと大きな扉を開いた。


 玉座の間に着くと、何やら威厳のあるじいさんが座っている。

 一言で言うと渋くて、昔はイケメンだっただろうといった感じのじいさんだ。

 ブロンドの髪の上に王冠をかぶっている所を見ると、あれが国王だろう。


 ファルルアン7世、今のこの国の王である。


 側には、偉そうな格好の貴族が何人も立っている。

 ギルバートさんの話では、この国の大臣達らしい。

 国王を守るように騎士達が配備されており、国王の側にはマシャリアが立っている。



「大伯父様!!」


 そう言ってエリーゼが駆け出す。

 すると渋い顔をしていたじいさんは、角砂糖を10個同時に食ったぐらい甘い顔をしてエリーゼを抱きしめる。


「おお! おおエリーゼ! わしの可愛い姫はご機嫌かな?」


「ふふ……弟が出来たんです、連れて来ました! エリーゼとっても嬉しいです」


 エリーゼの言葉に国王はこちらを見ている。

 暫く俺を見て首をひねる。


「エリーゼの弟とな?」


「そうです! エルリットです!!」


 国王は、苦虫を噛み潰したような顔をして俺達の方に歩いてくると、ラティウス公爵に耳打ちした。


「この愚か者めが、隠し子を作るのであればもっと上手くやらぬか。そう言えば若い頃のお前ときたら……」


 そこまで言って国王の顔が凍りつく。

 エリザベスさんの氷の女神のような微笑を見たからだ


「ふふふ……陛下。そのお話、ゆっくりとこのエリザベスにお聞かせ頂けますわね?」



 ラティウス公爵には、踏んだり蹴ったりの会話の後

 俺の事をエリザベスさんが、国王にきちんと説明してくれた。

 じい様の孫でその五男坊の息子である事も。

 俺は深くお辞儀をして挨拶をした。


「お初にお目にかかります国王陛下、わたくしはエルリット・ロイエールスと申します」


 国王は大きく頷くと


「あのガレスの孫とな。成る程、いい面構えをしておる」


(嘘つけ、さっきは公爵の隠し子扱いしてたじゃねえか)


 マシャリアが国王に一礼すると言った。


「この者が、先ほど私が申した公爵家の皆様の命を救った者です」


「うむ、ならば褒美をやらねばなるまいな。エルリット、何が良い? 欲しいものを言ってみよ」


 護衛騎士の一人が俺の背中を突付いて言った。


「あまり、欲張らぬようになさいませ。これだけ多くの者が見ている前ですし、ガレス様の耳にも入るでしょうから」


 まあそうだな、あんたの甥を助けたから大金をくれなんて言われたら、国王もドン引きするだろう。

 もちろん、公爵家の3人は俺にとっても大切な人達だ、別に礼など欲しくは無い。

 強いて言うなら……


「そうですねそれでしたら、もし王宮に魔道書の書庫があればそこに入る許可を頂けますか?」


「ふむ、そんな事でよいのか? エルリットよ」


 俺は国王に頷いた。

 もちろん士官学校への入学が一番の目的だが、珍しい魔道書を探しに来たっていうのも都に来た理由の一つだからな。

 王宮の書庫なら、貴重な本が幾らでもありそうだ。

 国王は俺の言葉に頷くと、大臣が差し出した一枚の紙にサラサラとサインをして俺に渡す。



『エルリット・ロイエールス、この少年に全ての魔道書を閲覧する権限を与える 国王エドワーズ・ファルルアン』



「これがあれば、王宮だけではなく都の大図書館でも使えよう。これで良いか?」


(都の大図書館か、そんなものがあるとは楽しみだ)


「それからそなたを『名誉王国騎士』にも任じよう。わが甥とその妻、そして可愛い姫であるエリーゼの命を救った男に、そのような紙切れ一枚渡しただけでは国王としての面子が立たぬからな。聞けば伯爵家の5番目の息子の子であるとか、将来爵位を継ぐことも無かろう」


「はあ……」


 名誉とか腹の足しにもならないのでね……面倒な肩書きには興味が無い。

 俺の気の無い返事にギルバートさんが囁いた。


「エルリット君、これは名誉な事ですよ。『名誉王国騎士』とは貴族の爵位に次ぐ地位、国から給与も出ます。」



(給与だと? つまりマネーですよねそれ)



「ほう……ギルバートさん、それはいかほどですかね?」


「月にして金貨10枚だね」


(金貨10枚だと……ちょっと待てよ)


 もちろん単純に比較は出来ないが、このファルルアン王国では銅貨一枚が元の世界の百円程度の価値がある。

 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、つまり金貨一枚大体10万円程度の価値になる。

 だから金貨10枚って事は、月に……100万!? やべえよ! そんな大金見た事もねえ!!

 俺は背筋を伸ばして国王に敬礼をした。


「陛下、このエルリット・ロイエールス! 生涯、陛下に忠誠を誓わせて頂きます!!」


 俺の返事を聞いて、国王は疑いの眼差しを向けて言った。


「そなた、もっと金を出す奴がいれば簡単に余を裏切りそうだな」


「はは……ははは、何を仰るんですか。生まれつきの紳士ですよ、この僕は。裏切るなどとめっそうもない」


 ギルバートさんが言うには、名誉王国騎士とは普段は特に役目は無いのだが王国の危機が迫った時は、ファルルアンの為に戦う使命があるとの事だ。

 まあこの国には騎士団もあれば四大勇者もいる、好きこのんで攻めてくる馬鹿もいないだろう。


 長引けばボロが出るばかりなので俺はさっさと後ろに下がると、国王は公爵達と話を始める。

 国王に抱かれて嬉しそうに笑うエリーゼを見ると、さすがに例の件が国王の命令だとも思えない。

 エリーゼを見るその目は、本当の祖父の様にデレデレである。

 

 国王の命で公爵一家を歓迎する宴が催される、侍女たちが綺麗な器に入ったお菓子を持ってくるとエリーゼが目を輝かせた。

 公爵やエリゼべスさんは、大臣や国王の側にいる王族達に囲まれている。

 つもる話もあるのだろう。


 ふと俺は視線を感じた。

 俺はその視線の方向に目を向ける。


(なんだ、あいつ?)


 国王の側にいる騎士の一人が、俺と視線が合うと目を逸らす。

 俺の護衛騎士も気が付いた様子で、そっと俺に囁いた。


「エルリット様、気が付かぬ振りをなさいませ。あれは一介の騎士だけで出来る事ではありません。もしあの男が関わっているなら、直に飼い主の元に動き出すでしょう」


 俺はその言葉通り、暫く近くの貴族達と話をしながら時間を潰した。

 こんな時、じい様が有名人だと話題に事欠かない。


「エルリット様」


 俺の護衛騎士の一人が俺に耳打ちをする。

 先ほど、俺を見ていた騎士が静かにこの部屋を出て行くのが見える。

 俺達もそっと宴を抜け出すと後を追う。


 怪しい騎士をつけて行くと、廊下の突き当たりの大きな部屋の中に入っていく。

 俺はその部屋に向かって歩を進めた。


「何者だお前達は、私の部屋に何の用がある?」


 突然背後から声がする。

 俺はその声に振り返った。


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