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第百四十三話 都に立つ前に

「遠路よく参った。我が師、ミレティからの手紙は読んだ。早速詳しい話を聞かせてもらおうか? どうやらあの小僧も一枚噛んでおるようだからな」


「はい、ロイエールス伯!」


 ガレスの言葉に頷くリスティ。

 都での出来事を事細かくガレスに話して聞かせる。

 黙ってそれを聞いていた歴戦の勇者は思わず呻く。


「うぬぅ。まさか、そんなことがあろうとはな。あの時倒した悪魔が、真の魔王の尖兵に過ぎぬとは。そなたの話を聞いても未だ信じられぬ」


「ええ、私も驚きました。都の地下にあんな生き物が封じられているなんて。もしも、あれが地上に現れたとしたらどうなることか……」


 そう言ってリスティは唇を噛み締める。

 巨大な三つ首の狼の背に乗る女の姿。

 真の魔王という存在。

 ガレスは暫く考え込むとリスティに答える。


「まずは、タイアスを探し出すしかあるまい。タイアスが対魔王の為に作り出したそのホムンクルス、もしもその少女が全ての鍵を握るのだとしたらな」


「確かに、彼女に関してはタイアス様が誰よりもお詳しいでしょうから。ですが、もしかするとタイアス様は……」


 顔を曇らせるリスティ。

 だが、ガレスは力強く答える。


「タイアスが裏切ったと申すのか? ワシには信じられぬ。タイアスは真の強さが何かを知っている男だ。己の弱さを知り、それでもなお命を賭ける強さをな。もしも奴が敵に回ったとするならば、必ず訳がある。ワシはそれが知りたい」


 真の強さとは、共にかつて魔王と呼ばれた者に挑んだ日のことを言っているのだろう。

 その言葉にタイアスに対する絆の強さを感じる。

 それを聞いてリスティは楽し気に笑った。


「何が可笑しいのだ?」


「ふふ、やっぱりエルリット君のおじい様だなって。よく似ている気がして」


「なに!? ワシとあの小僧がか?」


(怒られるかしら、ガレス様に向かってこんなことを言って)


 少しだけ上目遣いでガレスを眺めるリスティ。

 目の前の男はやはり歴戦の大勇者、その存在感と雰囲気はド迫力である。

 だが──


「似ておるか。ふふ、ははは! そうかあの小僧め、都でもあの調子らしい! 我が師たちの呆れかえった顔が見えるようじゃわい!」


 心から愉快そうに笑うガレスを見て、リスティもつられて笑みを浮かべる。


(ふふ、ガレス様ったら。エルリット君のこと気に入っていらっしゃるのね)


 リスティの傍に立つガルオンが、呆れたようにリスティに言った。


「惚れた男は良く見えるものだな。あの小僧にはこの渋さのかけらもないぞ?」


「もう、ガルオンたら! だ、第一誰が惚れてるのよ」


 苦笑しながらも、リスティはエルリットの近況をガレスに伝えた。

 先程とは打って変わって鋭い眼差しになるガレス。


「ほう、あの小僧に四大勇者の代行をな。我が師ミレティも大きく出られたものだ」


「はい、マシャリア様も同意をされておられます」


「あの小僧にはまだ荷が重かろうが、事が急を要する今やむをえまい。あの二人が認めたと言うことは、それだけの力を身につけたのであろう。にわかには信じられぬが、あの小僧に限ってはあり得ぬとは言えぬ」


 リスティは頷くと言った。


「真の魔王の存在ももちろんですが、今一番問題なのは王妃陛下です。ディアナシア様が一体何を考えているのか。ミレティ様はエルリット君との御前試合で、王妃陛下が何かを仕掛けてくるのは間違いないと思っておられるようです。ミレティ様が黒い堕天使と呼んでいる少年を使って」


「先程そなたが話していた、四大勇者を越える存在として生み出されたホムンクルス。シファード家の嫡男か。ディアナシア王妃の傍にいる黒髪の武闘侍女の血を引くと聞いているが」


 ガレスの言葉にリスティは首を縦に振る。


「御前試合という公の場で、エルリット君だけではなくファルルアンのシンボルともいえる四大勇者を倒す。確かにそんなことになれば、この国は揺らぎますわ。そんな者が現れて、それも敵側に回るとしたら」


「王妃陛下らしい。混乱の中、配下の貴族たちを使ってファルルアンを内側から二分させ、外からは祖国であるランザスに攻め込ませるか」


「ええ。ミレティ様は仰られています、これはファルルアンを崩壊へと導く序曲だと」


 ガレスはリスティを眺める。


「話は相分かった。御前試合の前にあの小僧に会う必要がありそうだな。小僧には伝えるべき技もある。我が師が認めたと言うのであれば、使いこなせもしよう」


「本当ですか? ガレス様!」


 元来戦いが性に合っているリスティも、その言葉に思わず興味が沸く。

 ガルオンが思わずため息をついた。


「外見は淑やかになったが、中身は変わらぬのうリスティ」


「うるさわいね。ガルオン、貴方は興味が無いの? 炎の槍の勇者の技よ」


「ふふ、無いと言えば嘘になるかの。恐らくはかつて魔王と呼ばれた男を倒した技であろう」


 ガレスは立ち上がると身支度を始める。

 魔王を倒したと言う伝説の槍をその手に持つ。


「リスティよ。長旅でそなたも疲れておろうがそうもいってはおられぬ。暫し休息をとった後、共に都へ向かってもらうぞ」


「もちろんです! ガレス様、でもここを発つ前に一つお願いをしたいことがあって……」


 リスティの申し出にガレスは首を傾げる。


「願いじゃと?」


「はい! 都に立つ前に、ぜひ一度エルリット君のご両親にお会いしたいんです」

 いつもご覧頂きましてありがとうございます。


 新連載の『最強無双の大賢者』もよろしくお願いします。

 下に貼ったリンクから新作の作品ページに飛べますのでこちらもお読み頂ければ嬉しいです!

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