第百四十一話 伯爵邸の騎士
リスティが屋敷に近づいていくと、数名の騎士が屋敷の中から現れてリスティの前に立ちふさがる。
屋敷周りの警護をしている者達だろう。
隙のないその立ち居振る舞い。
「流石に鍛えられてるわね。伯爵家の警護をしているだけはあるわ」
聖獣であるガルオンの姿を見ても、恐れをなさないだけでも大したものである。
先頭に立つ騎士がリスティに尋ねる。
「何者だ? ここは我が主、ガレス・ロイエールス伯爵が屋敷。何用で参った?」
リスティはその騎士に頭を下げると答える。
「私はリスティ。風の魔女ミレティ様の使いでガレス様にお会いしたくてやって参りました」
その言葉を聞いて顔を見合わせる騎士たち。
「なんと! ミレティ様から、これは失礼いたした」
他の騎士たちもリスティとガルオンの姿を見て頷く。
「リスティ殿のことは我らも存じている」
「青い巨大な狼を友にする聖獣使い。ミレティ様の教え子で、凄腕の冒険者だと聞いているが」
リスティはそれを聞いて恥ずかしそうに笑う。
「恐縮ですわ」
何故か清楚な雰囲気を醸し出し恭しく頭を下げるリスティ。
微笑みながら思わず呟く。
「ふふ、エルリット君のご両親ともお会いするかもしれないんだもの。やっぱ第一印象が大事よね」
ガルオンがジト目でリスティを眺める。
「何を考えておるんじゃリスティ? 小僧とのこと、意外と本気なのだな」
「こ、こほん。そんなはずないでしょ、ガルオン。乙女の嗜みよ」
と、その時。
年若い女性騎士が、騎士たちの後ろから顔を出す。
そして、リスティを見ると嬉しそうに駆け寄った。
「番長じゃないですか! どうしたんですか? リスティ番長!!」
「は!? ……な、な、何言ってるんですか貴方は?」
「忘れちゃったんですか? 私ですよ番長!」
そう言うとその女性騎士は前髪を後ろに流すと、目つきを鋭くする。
「酷いぜ番長。まさか俺のこと忘れちまったんじゃないだろうな?」
「う……嘘でしょ。貴方もしかしてリリナ?」
「ふふ、正解です! 酷いなぁ、私は番長がそんなに清楚ぶっててもすぐ分かったのに。昔のド迫力の眼光はどこにいったんですか?」
そう言って小首をかしげるリリナの手をリスティは掴むと、少し離れた場所に連れて行く。
「あ、あのね、リリナ。私のこと番長って呼ぶのはやめてくれるかしら?」
「どうしてですか番長! 学生時代から番長は私の憧れの的なんですよ」
リリナの言葉にリスティは慌ててその口を手でふさぐ。
「黙りなさいリリナ。うふふ、殺すわよ」
「もご! そうです、その目です! やっぱリスティ番長は、そのやさぐれた目つきじゃないと!!」
(やさぐれた目って……この子、本当に殺してやろうかしら?)
「大体、貴方がどうしてここにいるのよ? リリナ」
「私も色々ありまして。何年か前にガレス様に拾って頂いたんです」
リスティは目の前にいる女性騎士を眺めながら溜め息をついた。
学生時代の後輩で、リスティに憧れて押しかけるようにして舎弟の一人になったリリナだ。
先程の騎士たちがすっかりドン引きしている。
「おい、リリナの奴、リスティ殿のことを番長だなどと……」
「そう言えば噂を聞いたことがある。士官学校当時は手の付けられない暴れん坊だったとか」
「いやいやまさか。先程のあいさつを見たか? あれ程淑やかな美女が」
ガルオンがふぅとため息をついてリスティに言った。
「小僧の両親に会う前にもう化けの皮が剥がれかけておるぞ、リスティ」
「……うるさいわよ」
思わず眉間に指をあてる獣人の美女の手をリリナが握る。
「ガレス様のところへだったら私が案内しますよ! リスティ番長!」
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