第百三十一話 褒美のリスト
「丁度いい。エルリット、お前に相談しておきたいことがある」
マシャリアのその言葉に、俺は首を傾げた。
「相談って何ですか? マシャリアさん」
「ああ、領地のことだ。実は陛下から、お前に伝えるように頼まれていてな」
ん? 領地って、貴族とかが治めるあの領地のことだよな。
待てよ、そう言えばミレティ先生もそんなことを言っていた気がする。
四大勇者になると月給が金貨200枚とかいうヤバい金額で、さらに伯爵の位と領地が貰えるってな。
ぐふふ……金貨200枚に領地か。
気が付くとマシャリアがまたジト目で俺を見つめている。
「エルリット……お前、笑い顔は本当にガレスに似ていないのだな」
「は、ははは。そうですかねぇ」
やばい、また地が出ていた。
しかし、金貨200枚って言えばおおよそ2000万円ぐらいだからな。
そんな大金、あっちの世界でもこっちの世界でも見たことないからな。
だらしない顔にもなろうというものである!
俺は軽く咳ばらいをすると、マシャリアに尋ねる。
「でもいいんですか? こんな時に領地の話なんて」
「何を言う、戦いの前だからこそだ。陛下も、それだけお前の働きに期待をしているということだ」
なるほどな。寧ろこんな時だからか。
これから始まる戦いは命懸けのものになる。
ニンジンをぶら下げるのに、これほど適したタイミングは無いだろう。
マシャリアは俺を見つめながら頷く。
「お前の活躍次第では、与えられる領地は大きくなるだろう。先に知っておいた方がよいと思ってな」
……国王の爺さんめ、分かってやがる。
戦いの後に褒美を並べるよりも、戦いの前に褒美を並べた方がやる気が出るからな。
マシャリアは俺に言った。
「後で私の部屋に来い。陛下から頂いている褒美のリストがある、お前が御前試合で見事大任を成し遂げた時に、どの土地が欲しいのか選べるようにな」
「マジですか?」
「ああ、こんなことを嘘で言うはずがあるまい? 本来なら陛下からお言葉を頂ける話だが、今回の件は御前試合まで公には出来ぬからな」
確かにそうだ、大っぴらに玉座の間で話せることじゃないからな。
それにしても今まで色んなカタログリストは見たことがあるが、領地のカタログ何てみたこともない。
俺の領地か……マジで興奮してきた!
一国一城の主となるのは、男のロマンだからな。
マシャリアの話では王家が持つ領地から、ある程度好きな土地を選べるらしい。
エリザベスさんがニッコリと笑うと。
「私も一緒に選んであげるわ。それに領地を運営する方法だって知らなければいけないだろうし」
「そ、そうですよね。でも、どうしたら……」
精々家を買うぐらいまでが俺の常識の範疇だ。
領主になって、民を導くなんて想像もつかない。
少し不安そうな俺を見て、エリザベスさんがそっと俺の肩の上に手を添えた。
「安心しなさい、私が色々教えてあげるわ」
「た、助かります、エリザベスさん!」
マシャリアが頷いた。
「ラティウス公爵家領は、実質エリザベスが取り仕切っていると聞くからな。有能な人材を揃えて、運営していると聞く」
「へえ、凄いな!」
公爵が頭が上がらないわけだ。
こんなに美人で賢い奥さんを貰えたんだから、尻に敷かれるぐらいは寧ろ幸せだと思って受け入れるべきだろう。
マシャリアも領地の運営は、信頼のできる家臣に任せているらしい。
「ミレティや私には都での仕事があるからな」
「確かにそうですよね」
夢が広がる話だ。
と、そんな時──
一人の兵士が、白い小さな竜を抱きかかえてやってくる。
その姿を見てエリーゼとフユが目を輝かせた。
「キュイちゃんです!」
「フユ~! キュイちゃん来たです! 遊ぶです!!」
駆け出すエリーゼと、その肩に乗るフユ。
「キュイキュイ!」
兵士に抱かれて少し緊張気味だったキュイが、エリーゼたちを見て嬉しそうに鳴いた。
そういえば、キュイたちをここに連れてくる約束だった。
騎士団の兵士が乗り、空を飛ぶラセルとアルサの姿が闘技場の上空に迫っている。
マシャリアはそれを見上げると。
「さて、約束通り飛竜を乗りこなす訓練をするか。すぐにでも必要になるかもしれないからな」
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