第百二十六話 七連式ドラゴニックバレット
「確かに子供だましですが、俺なりに少し工夫はしてありますよ!」
一見、氷の薔薇のつるに花が咲いたように見えるが双方は全くの別物だ。
氷のつるを作り出したのはフユ、そして真紅の薔薇を作り出したのは俺である。
その真紅の薔薇は輝きを増して、爆発する。
単純な火炎系の魔法だが、人目を引くには十分だっただろう。
マシャリアの声が響く。
「一体何のつもりだ、エルリット! この程度の攻撃が私に通じると思っているのか!?」
もちろん思ってはいない。
攻撃としては全くの無意味に近いだろう。
だが──
辺りには霧が立ち込めている。
マシャリアの冷気も味方して、一瞬にして水蒸気が冷やされて霧になっていく。
リスティとの戦いでは、氷の魔撃を使って霧を作り出したがマシャリアに同じことをしても恐らくはその前に距離を詰められる。
フユにあらかじめ術式を用意させ、いつでも発動させられるように仕込んでおいたのはその為だ。
そうすれば、俺はあの薔薇を作り出す事だけに集中できる。
ほんの一瞬の差ではあるが、相手が相手だけにそれが命取りになりかねない。
だがその霧は直ぐに消し飛ばされた。
まるでドレスのスカートを翻すように、マシャリアの九つの尾が回転し巻き起こる風が霧を吹き飛ばしたのだ。
「無意味なことを!」
マシャリアの瞳が霧の中を移動した俺を探し、直ぐにとらえる。
せっかく作り出した霧も稼げた時間は取るに足らない僅かな時間だ。
だが──
それだけの価値はある。
俺が両手で握りしめる火竜剣には、七連の魔法陣が生じている。
七首の大蛇。
俺の周囲には、黄金の光を帯びる七頭の竜が既にそのアギトを大きく開いていた。
「な! エルリットお前!!」
「悪いんですが、どう考えても長期戦は不利なんでね。これで一気にチェックメイトにさせてもらいますよ! マシャリアさん!!」
火竜剣に刻まれた魔法陣はいつものそれとは違う。
少しアレンジを加えたからだ。
ミレティ先生と戦った時に編み出した技。
それを、バロたちに作り出させる。
七つに分かれているだけに圧縮力には欠け威力は落ちるが、一発ではマシャリアにかわされる可能性が高い。
七頭の竜は、激しく咆哮を上げた。
圧縮された外殻を持つ魔撃がそのアギトから放たれる。
「おぉおおおおお!! 七連式ドラゴニックバレット!!」
最初の一撃がバロの口から放たれる。
マシャリアは、最初の一撃をかわしながら剣を一閃する。
その瞬間──
俺が作り上げた魔力の弾丸が、マシャリアが手にする剣を掠める。
ピシリとひびが入るマシャリアの魔氷剣。
「この魔力は! 小癪な!!」
なるほどな、只かわすだけではなくその威力を確かめたって訳だ。
相手の技の威力が分からなければ、対処のしようがないからな。
この辺りは実戦経験の豊富さが見て取れる。
だが──
その時には既に残りの黄金の竜のアギトが次々とドラゴニックバレット放っていた。
先程の一撃は囮だ。
かわされるのは想定済みである。
先程の弾丸をかわして、一瞬だが態勢を崩すマシャリア。
残りの弾丸はそこに襲い掛かる。
文字通りこれでチェックメイトのはずだ。
マシャリアの体から強烈な魔力が放出されるのを感じた。
それが俺が放った弾丸に激突して凄まじい衝撃音と砂煙を巻き上げる。
細かく、砕けた闘技場の石畳が舞い上がったのだろう。
マシャリアのことだ致命傷は避けただろうが、これで戦闘不能になったはずである。
治療は、青い癒しの女神フユちゃんに活躍してもらうとするか。
にしても、これでマシャリアとの戦歴は一勝一敗だな。
こんなだまし討ちが何度も通じるわけがないから、この一勝は貴重である。
ファルーガも俺に言った。
「小僧! やるではないか。相変わらずやり口は姑息だが、お主の戦いぶりには驚かされるわい!」
「はは、相変らず姑息って……ファルーガさん。俺も色々工夫してるんですよ。まともにやりやったら、ヤバい相手ですからね」
「確かにな、小僧……む?」
ファルーガがそう言った時には俺はもう身構えていた。
まさか……とは思ったが。
砂埃がゆっくりと晴れていく。
そこには一人の女が立っていた。
肩や、頬に浅い傷が刻まれているがとても戦闘不能の状態ではないのが一目瞭然だ。
「うっそだろ……」
マシャリアは俺を見つめていた。
「まさかこの状態の私に傷をつけるなんてね。この坊やを舐めていたみたいね、マシャリア」
その声はマシャリアのものであったが、そうではないことは明らかだった。
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