第百二十五話 咲き誇る薔薇
「エルリット、この姿で会うのは初めてだな」
マシャリアの言葉に俺は頷いた。
「ですね……」
九尾の狼、氷の女帝と融合したその姿。
これが四大勇者の一人である、氷の魔剣士マシャリアの戦闘モードか。
以前戦った時とはまるで違う。
全くの別人だと思った方がいいだろう。
エルフであり、氷の女帝の化身でもある。
その美しさと同時に、四大勇者に相応しい力が全身に満ち溢れている。
俺の肩の上にはファルーガが姿を現す。
「小僧、あの女は強いぞ。以前戦ったことがあるが、近接戦闘での強さは異常だ」
魔王、いやジークに使役されていた時の話をしているのだろう。
「ええ、ファルーガさん。特にあの九本の尾、あそこから感じられる魔力はヤバいですからね」
九尾の狐の話は聞いたことがあるが、九尾の狼って言うのは初めてだ。
俺の右手には火竜剣が握られている。
外見も既に大人モードである。
こちらも最初から本気モードでなければ、到底太刀打ちが出来る相手ではない。
自然に頬を流れていく冷たい汗が、そう俺に知らせている。
美しい九本の尾をまるでクジャクのように広げているエルフは、静かに剣を構える。
そして、口を開いた。
「かかっておいで、エルリット」
俺が本気モードになっても眉一つ動かさない。
それほどの自信があるのだろう。
どうする?
こっちからしかけるか……。
だが、こちらから仕掛けても勝てる未来が思いつかない。
ファルーガが言うように、接近戦は向こうの土俵だ。
初っ端からドラゴニックバレットを使うか?
だが、恐らくは素直に撃たせてはくれないだろう。
「小僧、どうするつもりじゃ?」
「はは、色々考えてるんですけどね」
じい様がバールダトス化したかつての魔王を倒した時の技は、どんな技かは知らないが大技だろう。
何しろあんな化け物を倒すぐらいだからな。
だとしたら、その大技を出すための時間を稼いでいた前衛が居たはずだ。
こうして対峙すると分かる。
その役をやったのがマシャリアに違いない。
短時間とはいえあんな化け物を正面切って戦える剣士がいるとしたら、そいつもつまり化け物だ。
接近戦では、今の俺には勝ち目がないな。
ならば……
「ファルーガさん、とりあえずは絡め手からいってみますよ。いいですか、実は……」
俺の囁きにファルーガも頷いた。
「良かろう、なるほどあの『チビ』の姿が見えぬはずだ」
動かない俺に対して、マシャリアの目が鋭く光る。
「こないのかい? なら、こっちから行くよ」
彼女の九つの尾が静かに揺れる。
凄まじい魔力だ。
その姿が霞むように消える。
凄まじい速さでこちらに向かって踏み込んだのだ。
ファルーガが火竜剣と同化しながら叫んだ。
「来るぞ! 小僧!!」
「ええ! 分かってます」
その時──
「フユ~!! いくですエルリット!」
俺の真後ろにいるフユがその手から氷の鞭を放つ。
フユは戦いが始まる前に魔力を抑えて、マシャリアと俺の一直線上になるように下がらせておいた。
凍り付く闘技場の床。
俺とマシャリアを隔てるように氷の薔薇のつるが壁を作る。
ラセアル先輩が使った、ローゼの技を応用して作り出したものだ。
「がっかりしたよ、エルリット! こんな子供騙しが私に通じると思っているのかい?」
マシャリアが剣を横に一閃する姿が、ファルーガと融合して黄金輝く俺の瞳に映る。
彼女のいう通りだろう。
氷の女帝と同化したマシャリアに、氷の薔薇の壁など何の意味も持たない。
だが、その瞬間──
氷の薔薇の蔓に一斉に赤いつぼみが生まれ直ぐに花開いた。
美しい薔薇の花々だ。
「何! これは!?」
銀色の蔓に咲く艶やかな花に一瞬気を取られるマシャリア。
と同時にそれは強い魔力を帯び真紅に輝いた。
「確かに子供だましですが、俺なりに少し工夫はしてありますよ!」
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