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第百十三話 光と影

いつもご覧頂きましてありがとうございます。

先日もご案内させて頂きましたが、この度この作品が書籍化されることになりました。

発売予定日は来週火曜日の5月29日、地域によっては店頭に並ぶまでに数日かかることもございます。

イラストレーターのox様には表紙や挿絵はもちろん、とっても素敵で可愛いカラー口絵も描いて頂きましたので、ぜひご覧頂ければ嬉しいです!

どうぞよろしくお願いします。

「ええ、ハヅキには他にやってもらいたいことがありましたから。もうその為に動いてますよ」


「他にやってもらいたいこと?」


 俺の問いにミレティ先生は答える。


「ハヅキの父親はエレルーシャ子爵。古流武術の使い手で陛下に仕える特殊部隊、『王影騎士団』の団長でもありますからね」


 そういえば、ギルドでハヅキさんのフルネームは聞いたな。

 ハヅキ・エレルーシャ、確かに父親が古流武術の使い手だっていってたっけ。

 そにしても──


「『王影騎士団』って何ですか? ギルバートさんの王国騎士団とは違うってことですかね」


「ええ、アーファルト伯の王国騎士団が光だとしたら、エレルーシャ子爵の王影騎士団は影。任務が違います、光が決して行えないことをこなす存在。王国の中でも選りすぐりの腕を持つ者達を集めた、特殊部隊です」


 ヤバそうな組織だな。

 つまりは、公には出来ない仕事をこなす特殊部隊ってことか?

 俺の表情を察したのか、ミレティ先生が言う。


「彼らは平時であれば動くことは無い。ですが、こうなった以上やむをえません。ことが始まれば、多くの命が失われる。誰かが手を汚さねばより多くの命が失われることが分かった時には、光が出来ない仕事をする影も必要なのです」


 王国騎士団が正面切って手を汚せば、ファルルアン側の大義が失われる。

 そんな時に、影で仕事をこなす部隊が必要になるってことか。

 国の裏側にはありがちな組織だな。


「つまりは、存在していないはずの騎士団ってことですね?」


「そうです『王影騎士団』の存在を知る者は少ない。そのメンバーの中には、死んだはずの者たちさえいますから」


 なるほど、死んでいる人間なら影になるのに最適だろう。

 まるで特殊な諜報員みたいな存在だな。


「メンバーは王国騎士団の中にもいますよ。普段はうだつの上がらない騎士に見えてその実、凄まじい腕を持つ者達もね。今頃は陛下にもそのメンバーの誰かから、今回の話の報告がいっているはずです。もちろん、マシャリアにもね」


「でもディアナシア王妃には手を出せないんじゃ?」


 ミレティ先生は頷いた。


「今のところ彼らに与える任務はマシャリアと協力しての陛下の護衛と、王妃の監視です。いざとなれば、王妃陛下を捕らえることもやむなしでしょう。ですが、そうなればランザスに王妃奪還という大義を与えての戦争に突入する。大切なのは時間を稼ぐことです。相手が持っているカードを知るためのね」


「確かに……」


 国力ではファルルアンが上だ。

 しかも四大勇者もいる。

 だがそれでも王妃が仕掛けてきたのであれば、それを覆すほどのカードを持っているからだろう。


「ミロルミオが切り札の一枚だとしても、カードはそれだけとは限らない。それを調べる為に、もう『王影騎士団』の人間は動いています」


 俺は、大樹に寄り掛かって幸せそうに眠っているエリーゼを眺める。

 そして、エリーゼの前でキュイキュイと鳴いていたじいさんの姿を思い出した。


「しかし、大丈夫ですかね。王妃に裏切られたって知ったらあのじいさ……こほん、陛下もショックなんじゃ」


「そんな甘い関係じゃありませんよ。大国の王族同士の婚姻など、互いの政略の為のものですからね。ましてや、それが国王ならば尚更です」


「はは……」


 王様になんてなるもんじゃねえな。

 ミレティ先生は俺をジッと見つめる。


「ですがエルリット。結局は貴方と私たちの任務が一番重要になる」


「俺たちの任務?」


 先生は頷くと答えた。


「御前試合において王妃陛下と国内のランザス派の前で、彼らのカードが無意味だと分からせること。そうなれば、彼らもランザスも引くしかない」


「確かに、それが出来ればそうなるでしょうね」


「王妃がわざわざ御前試合などというものを組んだのは、いわゆる前哨戦です。自信はあるのでしょうが、万が一にも負ける戦を始めれればランザスは終わりですから。戦を始める前に、勝利を確信しておきたいのでしょう」


 俺は溜め息をつく。

 御前試合で王妃が何をするつもりかは分からないが、それに対処しきれなければ戦争が始まるってことだ。


(はぁ~、まさかこんな面倒に巻き込まれるなんてな)


 だが、戦争になればママンやアレンにだって何が起きるか分からない。

 それにエリーゼやエリザベスさん、ついでにラティウス公爵にもな。

 こっちは世話になってる恩義もあるし、もう家族みたいなものだ。


(くそ、ごちゃごちゃ言ってられないな。やるしかないか)


 俺は先生に尋ねた。


「それで、とりあえず今、俺は何をしたらいいですか? ただ御前試合が始まるのを待っているのも、芸がないですし」


「単純ですよ、貴方には今以上に強くなってもらう。魔道は直接私が教えます、そして武術はマシャリア。ファルーガと融合した貴方になら、マシャリアも真の力を解放できるでしょうからね」


 真の力って……

 ミレティ先生と同じように、本気モードがあるのだろう。

 俺が出来る血と魂の盟約を、マシャリアさんが出来ないとは思えないからな。


「あの、それってヤバくないすかね? マシャリアさんの力って四大勇者でも最強だってさっき……」


「安心して下さい。それで貴方が死ぬようなら、そこまでの男だと言うことです。後は私たちでやりますから」


(安心できねえよ!!)


 スパルタ教育にも程があるだろ。

 にっこりと笑うミレティ先生。


「とにかく時間がありません。エルリット、今の貴方の限界が知りたい。悪いのですが、これからここで私と戦ってもらいます」


「ちょ! そんないきなり!!」


 目の前の大魔道士から立ち昇る、凄まじい魔力に俺の背筋は凍った。

 饅頭をもぐもぐ食ってる時とはまるで別人だ。


「さあ、本気を出さないと死にますよ。殺すつもりでいきますから」

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