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第十話 計画失敗

 馬車の中で、エリーゼは機嫌よく歌をうたっている。

 可愛らしい脚をパタパタと動かして、窓の外を見たり俺に話しかけたりして無邪気に笑う。


(あ~あ、こんな妹がいたら良かったのにな)


 今度生まれ変わったらかっこいい兄貴になりたくて、魔法の勉強だって結構頑張ったんだ。

 妹にさ、『お兄ちゃん凄い!』とか言って貰いたかったのにさ。

 そんな事を考えていると、エリーゼが俺を見てにっこりと笑った。


 その姿はまるで天使の様だ。

 

(待てよ、さっきはいきなり『お兄ちゃん大好き!』なんて言って貰おうとしたから駄目だったんじゃないか?)


「なあエリーゼ?」


「なんですか、エルリット」


 エリーゼはこっちを見て首を傾げる。


「ほら、俺って魔法も使えるし結構頼りになるだろ?」


「はい、凄かったですエルリット!」


(そうだろう、そうだろう……なんて素直で可愛いんだ!!)


「だからさ、遠慮しないで言ってもいいんだよ」


「何をです?」


 エリーゼが不思議そうにこちらを見つめている。

 俺は軽く咳払いをすると、最高に爽やかな笑顔で言った。


「だからさ、これからは遠慮なくエルリットお兄ちゃんって呼んでくれてもいいってことさ!」


 ふふふ、両親のギシアンの結果を待ってはや7年

 あれだけイチャラブしながら、俺の期待に答えてくれない両親を責めても始まらない。


 こうなったら、自力で妹を作ってやる。

 なんて俺は賢いんだ!!



「嫌です!!」



 俺の計画は、ガラガラと崩れ落ちた。


「エルリットの方が、エリーゼよりも子供っぽいです! エリーゼがお姉ちゃんです!」



 完全にいじけモードに突入した俺を見て、ラティウス公爵が話題を変えた。


「エルリット君はロイエールスと言ったね。もしかして、あの有名なガレス・ロイエールス伯爵と関係があるのかね?」


 あのじい様、やはり何処に行っても有名人のようだ。

 まあ魔王をぶっ殺した連中の1人だ、有名で当たり前か。


「まあ、一応孫です。五男坊の息子ですけどね」


 すると、意外な人物が食いついてきた。


 ラティウス公爵の奥方のエリザベスさんだ。

 俺の答えのどこにそんなに感激したのかと思うほど目を輝かせて、俺の手を握りしめる。


「まあ!! あの炎の槍の勇者様のお孫さんなのね、エルリット君は!!」


「あ、はい。勇者というか、頑固ジジイですけどね」


 エリザベスさんは、白くたおやかな両手を大きな胸の前で組んではぁとため息をつく。


「ロイエールス伯爵様、わたくしがエリーゼぐらいの頃によく勇者のお話を聞かされて憧れたものです。火炎の槍騎士、4勇者の本の挿絵で見た伯爵様の凛々しいお姿にみんな恋をしたものです。お会いした事はありませんが、わたくしにとっても初恋のお方ですわ」



「「けっ」」



 うっとりと話す美しい公爵夫人を見ながら、俺とラティウス公爵は軽く悪態をついた。


「あなた! 今何か言いませんでしたか!?」


 美人は怒らせると怖い、ラティウス公爵は夫人に睨まれて縮みあがっている。

 俺はそっとラティウス公爵の手を握ると頷いた。


「気が合いますなラティウス公爵」


「うむ、全くだなエルリット君」


 あんな頑固ジジイがこんな美人の初恋の相手とか、全く世の中どうかしている。

 確かに若い頃の肖像画を見ると、やばいぐらいのイケメンだが今はただの頑固ジジイである。

 エリザベスさんは、俺の腕をとると美しい顔でにっこり笑う。


「エルリット君、遠慮しなくていいのよ。ここにいらっしゃい」


「え?」


 エリザベスさんは俺を膝の上に招くと、自分の子供を抱っこするように座らせる。


「命の恩人ですものエルリット君は。そういえば、何処か伯爵様の面影がありますわ」


 そう言って俺の髪を撫でる。

 いやいやいや、7歳児を抱っこするのはちょっと……


 俺にも男のプライドと言うものがありまして……


 馬車が動く度に、俺の背中に公爵夫人の胸の弾力がもろに感じられる。

 それにやばいぐらい、いい匂いがする!!



 いいでしょう! プライドなど捨てましょう!



 俺はこの楽園に居座る事にした。

 エリーゼはそれを見て笑った。


「やっぱりエルリットの方が子供です。エリーゼは、もうお母様に抱っこはしてもらいませんもの」


 エリーゼ、違うのだよ。

 男には、男にしか分からぬ事情があるのだ。


 夫人の負担にならないように、風系の魔法で体重を軽くする。

 少しでも長く、このパラダイスに居座るための努力をおこたってはならない。


 今こそ、魔王級の才能が生きる時だ!


「あら、エルリット君って軽いのね。ふふふ、もうすぐ都よそれまではわたくしの膝の上にいてもいいのよ」


「ぐふふ……どうしましょうかねぇ」


 やばい、地の笑い方が出た。

 ラティウス公爵が俺を睨んでいる。


「短い同盟関係だったねエルリット君。忘れて無いかね? 私が公爵で国王の甥であると言う事を」


 子供に政治的プレッシャーを与えるとか、大人げないですぞ公爵。

 それを聞いて、エリザベスさんはピシャリと公爵に言った。


「あなた! 子供じゃあるまいし7歳の男の子にヤキモチを焼かないで下さい、みっともない」


「エ、エリザベス!!」


「お父様みっともないです。エルリットは今日からエリーゼの弟だからいいんです」


 どうやら、俺はエリーゼの中で弟扱いに決定したようだ。

 エリザベスさんは、それを聞いて目を輝かす。


「そうだわ!! エルリット君も士官学校に入学するのよね。だったらうちの都の屋敷から学校に通えばいいわ! ふふふ、わたくしこんな可愛い男の子が欲しかったんですもの!」


 さすが公爵家、自分の領地だけではなく都にも家があるようだ。

 俺はじい様の手配で、士官学校の寄宿舎に入れられる予定だったんだが。


「しかしエリザベス、エルリット君の都合もあるだろう。なあエルリット君!!!」


 公爵はアイコンタクトで、政治的圧力をかけてくる。

 俺はそれを見なかったことにして、可愛くエリザベスさんを見た。


「そんな、ご迷惑じゃ……でも嬉しいです。俺、両親も一緒に入学式に来てくれなくて、本当は凄く心細かったんです」


 まあ単純にあの頑固ジジイが反対したんだけどな、甘やかすなと。

 ものは言いようである。


 エリザベスさんが俺の体の向きを変えて、正面から抱きしめる。

 大きくいい匂いがする夫人の胸が、俺の顔を柔らかく直撃する!

 すごい破壊力である、鼻血が出そうだ。

 これが人妻の魅力か。


「ああ、そんな!! 何か事情があるのねエルリット君! 大丈夫よ、わたくしがエルリット君を守ってあげます!」


 エリザベスさんの鶴の一声で、俺の寄宿舎入りが無くなった丁度その時、俺たちが乗る馬車はエルアンの入口に到着した。


ご閲覧頂きましてありがとうございます!

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