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第九話 首の魔法陣

「いいんだ~どうせ俺なんて……せっかく助けてあげたのに『きゃあああ! お母様!!』って、はぁああ死にたい」


 俺がスネ始めて、すでに10分は経過しているだろう。


 3人の護衛騎士たちも、そろそろ呆れ顔である。


「エルリット様、いい加減になさいませ。あちらのお嬢様も、何度もお詫びになっているではありませんか。男らしくありませんぞ!」


 涙目になってじっと俺を見つめている少女を見て、俺はふうとため息をついた。


 近くで見ると、めちゃくちゃ可愛い女の子だ。

 大きな青い瞳とプラチナブロンドの髪

 そして小さく形の良い鼻梁に、花びらのような唇


 俺のため息を聞いて少女は少し怒り出した。

 可憐な瞳が俺を睨んでいる。


「いじわるです! もうエリーゼいっぱい謝りました!!」


 俺は慌てた、妹の美貴の時もそうだったがこの手の女の子に切れられると俺は弱い。


「ご、ごめん! もう言わないから!!」


「ほんとですか……?」


「うん」


 俺がしょぼくれてると少女は、はにかんだ笑顔で俺の手を握った。


「じゃあこれで、仲直りです。あ、あの?」

 

 そう言えばまだ自己紹介してなかったな。

 悲鳴を上げられたショックですっかり忘れていた。


「エルリットでいいよ」


 少女は嬉しそうに笑った。


「エルリット……エルリット。わたしもエリーゼでいいです」


 一生懸命繰り返して覚えようとする所が可愛らしい。 

 もし士官学校への入学者ならまだ7歳だもんな。

 その微笑ましい姿に、ついお兄ちゃん目線になってしまう。


 すっかりいじけていた俺の姿にドン引きしてたのか

 それともやっぱり盗賊どもにぶっ放した古代魔法がいけなかったのか、口数が少なかった貴族があらためて俺に言った。


「あ、危ないところを助けてもらい、本当に感謝する。わたしはラティウス公爵、こちらは妻のエリザベスだ」


 俺みたいなガキが、あんな魔法を使った事に戸惑いはあるようだが、命の恩人である俺に頭を下げる。


 公爵はいかにも育ちが良さそうな、ブロンドのイケメン。

 奥さんのエリザベスさんは、公爵夫人に相応しい気品漂うプラチナブロンドの美女だ。

 

(すげえ……綺麗な人だな)

 

 いい匂いがここまで漂ってくる。

 年齢は20代、どちらも俺の両親ぐらいだろう。


(公爵か。やばい、伯爵より偉いよな確か。しかも俺は五男坊の息子だし)


 俺の考えを察したのか、護衛騎士の一人が俺に言った。


「ラティウス様は、国王陛下の弟君のご子息です」


「それってつまり……」


「はい、国王陛下の甥ご様であられます」


(ちょっと待て! 国王の甥って!! 自己紹介なら最初にしろ!!)


 ていうことは、目の前のこの可愛い子も王様の親戚って訳だ。


「エリーゼ、大伯父様のこと大好きです。とってもエリーゼのこと可愛がってくれます、今度エルリットにも紹介したいです!」


 待て待て待て、おちつけ


 この国で一番偉い王様が可愛がってるお姫様に、俺はさっき散々駄々をこねてたのか?

 これはやばい、もしこんな事がじい様にばれたら殺されかねん。

 汚名を返上せねば。


 俺は軽く咳払いをして、目の前の少女にお辞儀をした。


「これは申し遅れました。我が名はエルリット・ロイエールス、エリーゼ姫にはご機嫌麗しく何よりでございます」


 決まった! 今度こそ決まったな!!

 今まで厨二病アニメを見てきた成果がここで出るとは。


(え? なんでだ……)


 俺の挨拶に、エリーゼは不機嫌そうな顔になる。


「嫌いです、エルリットまでそんな風にエリーゼを呼んで。それにエルリットにはそんな台詞似合いません!」


 ラティウス公爵の奥方であるエリザベスさんが、微笑みながら言った。


「エルリット様、どうかエリーゼと呼んであげてくれませんか? 大伯父が陛下だと言う事もあって、同じ年頃の友達は皆エリーゼに気を使って。それを嫌がるのですこの子は」


 俺はラティウス公爵を見る。


 この手の社交辞令にうまうまと乗かって、後で打ち首とかはごめんだ。


 公爵も頷いた。

 ようやく俺は一息つく。


「それにしても、公爵家の護衛にしてはお粗末ですね。傭兵くずれの連中だとは言え一流の騎士ならば、こうはなりますまい」


 俺の護衛をしている騎士の一人がそう言った。


 おい、あまりずけずけと物を言うな、主の俺の立場を考えろ。

 公爵は騎士に頷くと言った。


「それが妙なのだ。護衛の騎士達は、エリーゼを心配して陛下がつけて下さった聖騎士たち。あのような者どもに、おくれを取るはずがないのだが」


 公爵の言葉に俺たちは、その場に倒れて絶命している騎士たちの体を調べる。

 俺の護衛騎士の一人が囁くように言った。


「これは……剣で殺されたのではないですね。あの傭兵どもが殺したとしたら致命傷になる傷があっていいはずですが、斬りあった傷はあっても致命傷となるような太刀傷はありません」


「エルリット様……これをご覧ください」


 他の護衛騎士が俺に小声で言う、公爵たちを不安にさせない為だろう。


(これは……)


 騎士達の首筋に、小さな幾何学模様が浮き出している。


(普段は髪で隠れる場所だから、気が付かなかったのかお互いに)


 何かの魔法陣の様に見えるが、もうかなり薄くなっていて読むことが出来ない。


(術殺だなこれは)

 

 俺が読んだ魔導書の中にも、魔術で人を殺す方法が書いてある本があった。

 あらかじめ、どこかで術をかけられていたのだろう。

 術が発動するタイミングを見計らってあの傭兵どもに襲わせ、エリーゼを誘拐する予定だったに違いない。

 あの傭兵たちはただの駒に過ぎなかった訳だ、誰かが裏で糸を引いている。


「どうされますか? エルリット様」


 護衛騎士たちの言葉に俺は少し考えたが、ここまま放っておく訳にもいかないだろう。

 せめて都まで一緒に行けば相手は公爵だ、後は何とかするはずだ。


「どうするも何も、一緒に都に行くしかないだろ?」


 俺の言葉に騎士たちは満足そうに頷くと。

 

「さすがですな、伯爵様ならばやはりそうされるでしょう」


 じい様がどうするかは知らないが、俺がやれる事ぐらいはすべきだろう。




 エリーゼが不安そうにこちらを見ているので、俺は笑顔で答える。


「もうじき都だから、一緒に行こうエリーゼ。それなら安心だろ?」


 エリーゼの顔から不安が消えて、ぱっと明るくなる。


「エルリット大好き!!」


 俺の手をぎゅっと握って、大きな瞳でこちらを見つめている。

 ……相当萌えた。

 俺は思いついたようにエリーゼに頼んだ。


「あのさ、エルリットお兄ちゃん大好き! って言ってもらえないかな?」


 エリーゼが可愛らしい仕草で首をかしげる。


「どうしてですか? 嫌です、エリーゼはそんなに子供じゃないです。エルリットと変わりません!」


 護衛の騎士の一人が俺の肩を叩くと、ため息をついている。


「エルリット様。エルリット様がご両親の寝室に聞き耳を立てるほど、妹君を欲しがっているのは屋敷の皆が知っていますが、自分の趣味を押し付けるのはレディに対して失礼というものですよ」


「き、聞き耳? 何を言っているのかね君は。失礼じゃないか、僕みたいな紳士に」

 

 この野郎……後で丸焼きにしてやろうか。

 おかげでラティウス公爵も、その妻のエリザベスさんも完全に引いている。


「は、ははは。とにかく一緒に都に行きましょう、護衛は俺に任せて下さいラティウス公爵」


 そうして俺たちは、都に向かって馬車を走らせていく。

 暫くすると遠くに大きな都市が見える、あれが聖都エルアンだろう。


 それを眺めながら俺は、これから始まる新しい生活に思いをめぐらせていた。


ご閲覧頂きましてありがとうございます!

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