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プロローグ

「きゃあああ!!」


 妹がそう叫んだ時、俺は宙を舞っていた。

 

 言っておくが俺が体操選手で、妹が黄色い声援を送っているわけではない。

 宙は舞っているが、華麗とは程遠い飛ばされ方だ。



 そもそも、妹が俺に話しかけたのはこれが1週間ぶりだ。

 まあ、この叫び声が会話と呼べるのならだが……

 普段は完全に無視されているからな。

 25歳にもなる兄貴が、ニートで冴えないアニメオタクならそうなるのも仕方ない。


 7歳年下の妹は高校生である、つまりお年頃な訳だ。

 俺と並んで歩いて、知り合いに兄妹だと思われたくないのだろう。

 少し生意気で勝気な美貌は、俺から見てもまあ可愛いと言える。



 少し前にさかのぼるが、俺と妹の美貴はたまたま家の近くの交差点で出会って気まずい雰囲気になった。

 高校からの帰りだろう。

 よりにもよって、こういう時に限って赤信号だ。


「お……おう、美貴、お前も今帰りか?」

 

 偉そうにお前もなんて言っているが、俺は近くのコンビニに買い物に行っただけである。

 何しろニートなので、それぐらいしか出歩く理由が無い。


 俺はせめて兄の威厳を保とうと口を開いたが、相手は俺をチラ見して携帯取り出しいじりはじめる。

 しょうがないので俺も携帯をいじりはじめるが、悲しい事にリア友が少ない……いや正確に言うといないので直ぐにやることが無くなって余計に気まずくなる。


 ため息をついて周りを見ると、ふと通りを向こうからやってくる大きなトラックが目に付いた。


(なんだやたらと蛇行してるな……ん? うそだろちょっと待てよ!!)


 そのトラックは、猛烈な勢いで俺たちに向かってくる。

 美貴は、まだ携帯をいじりながらそれに気が付いていない。



「美貴!!!」



 俺は叫んだ。

 だが返って来たのは、いつもの冷たい視線である。


(くそが!!!)


 肉親と言うのは分からないものだ。

 これだけ嫌われていても、いざという時にどうするのかなんて自分でも予想できない。


 気が付くと俺は美貴を突き飛ばして、その代わりに豪快に宙を飛んでいた訳だ。



 軽く30m近くは飛ばされて、俺はアスファルトを転がる。

 トラックは近くのコンビニに突っ込んで、周りは凄い騒ぎになっている。


 少し離れた場所に美貴の姿が見える、どうやら生きているようだ。

 俺は急激に体の感覚が無くなっていくことに気が付いた。



(そうか……死ぬんだな……俺……)


 ああ……全く馬鹿げてる、あんな妹の為に死ぬなんて……


 本当に馬鹿だ……



 美貴がこっちに向かって走ってくる。

 

 そうさ……こいつだって昔は可愛かった、いつもちょこちょこ俺の後ろを追いかけてきて。

 歳が離れてたからさ、本当に可愛い妹だったんだ。


 ごめんな美貴……俺だってお前の自慢のお兄ちゃんでいたかったんだ、ごめんな。



 だからさ……もう泣くなって。


 俺を見つめる美貴の顔は、ぐしゃぐしゃに涙で濡れていた。

 それを見て俺は、少しだけ満足して目を閉じた。

 

 こうして、俺の25年の人生は終わった。

 

 もし今度生まれ変わる時は、妹に自慢されるようなかっこいい兄貴になりたい。

 せめてたまには「お兄ちゃん大好き!!」と言われるような自慢の兄貴に。


 そう強く願って。


皆様の応援のお蔭で、この度『転生チートは魔王級!!』が書籍化されることになりました。

発売予定日は来週火曜日の5月29日、地域によっては店頭に並ぶまでに数日かかることもございます。

書籍版ならではのお話も追加させて頂きまして、Web版をご覧の皆様にも楽しんで頂ける一冊に出来たかなと思います。

とても素敵なイラストもお描き頂きましたので、皆様にぜひご覧になって頂ければ嬉しいです!

どうぞよろしくお願いします。

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