ライン←→ライン 〈番外編〉初のクリスマス
これは私たちが付き合い出して初めて迎えたクリスマスのお話。
私─相楽一美と私の彼─三枝 彰が迎えた聖夜のお話。
「おっ、一美。待った?」
「ううん。今来たとこ」
「そっか! 良かった。じゃあ、行こうか」
「うん」
はう……。彰。マジ天使。いちいち笑いかけてくれて……。萌え死ぬわ。これは一時間前から待ってた甲斐があったってもんだよね。
「で? 彰。何処につれていってくれるの?」
「ん? 秘密」
「え~。教えてよ~~」
とか、そんなことはどうでもいい。 腕、腕組みたい。腕組みたいけど~~。彰、あんまりそうやって人前でいちゃいちゃするの嫌いだったらどうしようかな。嫌われちゃうかな。でも、組みたいよ~。結局、学校祭が終わってからお互い色々忙しくて、一回ぎこちないデートに行っただけだし……。
「あ、彰? その……。ちょっと寒いな……なんて」
「え? 大丈夫? そっか、じゃあ、俺の上着貸すよ。ほら」
そう言って、上着のコートを脱ぐと、私に差し出してくる。
「え、いいよ。悪いから」
「いいよ。寒いんでしょ?」
いや、そうじゃね~~~~よぉぉぉぉおぉおお。そうじゃないけど、そうじゃないんだけれども……。彰の臭いだぁぁぁぁぁあああ。って、これはこれ で……。って、チガウヨ! 腕だよ。腕。流石にコートなしじゃ彰も寒いよね? よ、よーーーし、やってやるぞ~。
「あ、彰? 流石に彰が寒くなっちゃうのは嫌だし、彰が風邪引いちゃったら元も子もないし、返すよ。コート」
「え? いいのに。ん~でも、そうやって心配してくれるのは、なんか嬉しいな」
そうやって私に笑いかけながら、彰はコートを羽織る。
「で、でも、やっぱり寒いから、こ、ここ、こうやって、う、腕。腕を組みたいな~。って」
そう言ってガシッと、彰の腕にしがみつく。あ、また彰の臭いだぁ~
「え、あ、うん。いいよ、いいけど……。ちょっと歩きにくいな」
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ヤバイ。俺顔真っ赤だ……。どうしよ。今まともに顔会わせられないよ。そ、その……。腕、腕組むとか、めっちゃリア充してるじゃないですか!
「え~と、じゃあ、先ずはご飯でも食べようか。クリスマスらしくはなんだけどさ、この店、大好きなんだ。おれ」
そう言って『トンカツ定食屋 オレキ』を指差す。
「ここ? へ~。こんな店があるの知らなかったな。まあ、確かにクリスマスらしくはないけど。彰がオススメしてくれるなら、私はどこでもいいよ」
「じゃあ、入ろっか」
中はよくある定食屋の様で、ちょっと古めかしい感じがする。
「なんか気を使わせちゃった?」
「ううん。大丈夫」
「そう? じゃあ、注文しようか」
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まあ、不満はないよ? 全くといって良いほど不満は無いんだよ? でも、なんだろう。この釈然としない感じ……。もうちょっとお洒落なとこが良かったな……。 そして出てきたのは普通のトンカツ定食だったんだけど……。
「ナニコレ。めっちゃ美味しい」
歯茎でもかみ切れそうな程柔らかい豚肉から、ジューシーな肉汁が湧き出てくる。自家製と思われるソースは、程よい酸味とスパイスが肉と合わさって何とも言えない二重奏を奏でている。
「でしょ? 良かった~。一美にも気に入ってもらえたようで」
「うん。うわ~本当に美味しいね~」
「で、でさ、一美?」
「ん? なに?」
「こ、この後なんだけど、もう少し良いかな?」
「いいよ。また移動? それとも近いの?」
「ちょ、ちょっと移動しなくちゃいけない……。かな?」
「う~ん。まあ、いいや。彰となら楽しいしね!」
彰と長く過ごせる。彰と長く過ごせる。彰と長く過ごせる。彰と長く過ごせる。彰と長く過ごせ……(以下略)
その後、お会計を済ますと、私たちは駅に向かった。
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今のところ計画通り……。今日のためにちょっとバイトのシフトをキツくしたんだから、頑張らなきゃ! 絶対最後まで成功させてやる!
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そして、長らく移動して着いたのは、名古屋駅。二本の高く屹立するタワービルのエレベーターに乗って、彰が押したのは、最上階のボタン。
「え? そこ、何かあるの?」
「へへ。もうちょっと秘密だよ」
「もー。何~?」
チン。とエレベーターの到着音が鳴る。
あ、着いた。
「二人で予約していた三枝ですけれど」
「三枝様。お待ちしておりました。こちらへ」
彰に連れられて、ちょっと高級そうな喫茶店に入る。
「これが見せたかったんだよ」
そう言って彰が指し示す窓の先には、きらびやかな夜景が広がっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああ。綺麗~~」
「あと、これ。メリークリスマス」
ウエイトレスさんがケーキと珈琲を2杯持ってきた。
「予約してたのって、これも含まれてたの?」
「うん」
「素敵。ありがとう。彰」
「それと、これも。安物なんだけど」
そう言って、ずいっと袋を差し出してくる。
「なに? これ」
「開けてみて」
「うん」
中から出てきたのは、ネックレス。それも、彰がここ最近気に入って着けていたものと同じもの。
「いや、この間興味示してくれたしさ……。一美さえ嫌じゃなかったら、その……。ぺ、ペアルック? 的な?」
「嬉しい。ありがとう! 私からは……これ!」
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そう言って一美が差し出してきたのは、一本の腕時計。
「男の子が好きなの物ってのが、分からなくて……。気に入ってくれた?」
俺のために悩んでくれたって事が、それだけでもう心が一杯になるほど嬉しかった。
「うん。気に入ったよ! ありがとう」
安直にペアルックなんて考えたのが、何か恥ずかしくなってきたぞ……。
「良かった~」
そう言うと、一美が体を預けてきた。心臓が荒れ狂う。一美がこちらを向く。目と目があう。一美の目に俺が写りこんでいる。顔が近い。近い? 近づいてくる。吐息がかかる距離。これは……。キキキキキキキキキキキキ……。
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キスしたい。彰。彰が欲しい。私だけを見ていて欲しい。私って、こんなに独占欲が強かったけ? これも聖夜の魔法なのかな……。
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ゆっくり唇と唇が触れそうになる。 そのときだった。
「げふん」
隣の空気が読めないババァがわざとらしく空咳を打ってきた。
俺と一美は寸前で我に帰った。
「わあ! いや、その」
「あ、えっと、これは……」
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うっわ最悪……。良い雰囲気だったのに……。チッ。 物足りない感じがする……。
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また一美が俺に体重を預けるようにもたれ掛かってくる。今回は窓の外を向いているが。
「彰。大好き。これからも宜しくね」
彼女は窓の外を見ながら、そうそっと口を開いた。
いきなりそんな事を言われると、にやけてしまうだろ。満更でもないけど。
「おう。俺も大好きだ。まだまだこれからだよな。もっと色んな事を、一緒にやろうぜ」
「うん」
「そうだなあ、来年の夏は海にでも行くか? その前にお花見も行きたいな」
「うん。でも、そういう特別なイベントじゃなくても良いから、こうやって会って、一緒に時を過ごすだけでも、私は幸せだよ」
「うん」
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聖夜の魔法。この瞬間がずっと続けば良いのに……。今日という日が終わるのがとてつもなく寂しい。いつもはこんな事ないのに……。なんでだろう。寂しい……。 地元の駅。彰に送ってもらい、家へ帰る。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「俺こそ楽しかったよ。またどっか行こうぜ」
「うん」
その日はそうやって別れた。
でも……。でも……。これで終わりじゃ、切ない……。寂しい……。
「待って、彰!」
「ん? うわ」
家から遠ざかりつつある彰を追いかけ、唇を半ば強引に奪う。
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一美が駆け寄ってきて、そして唇を奪われた。体が蕩けそうになる。キスって、こんな感じなんだな。よく甘酸っぱいとか言うけど、そんなことはない。激甘だ。だけど、胃にもたれる不快な感じはしない。体に染み渡っていくような、そんな心地の良い甘さ。
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どれだけの時間こうしていたのだろう。もしかしたら一瞬だっかもしれないし、一時間だったかもしれない。そんな永遠とも思われる時間が終わり、そっと彰から離れる。
「じゃ、今夜は帰るね」
「お、おう」
お互い、サンタもびっくりなほど赤くした顔をそらし、一瞬も顔を直視出来ないまま別れた。
でも、何故だろう。とてつもなく幸せだった。
To Be Continued?
どうも暴走紅茶です。
初めましての人は他の『ライン←→ライン』作品も読んでくれると嬉しいです。
えーと、何から話そうか。
先ず、断筆はほぼ詐欺でした。なんだかんだ今年2回目の投稿です。いやー受験って嫌になるね。たまには息抜きしたい! って事で、ネ友の誕生日を口実に短編を書きました。
次はこれからのこと。ここから来年の2月か3月頃まで、完全断筆に入ります。と言うか、PCを開く余裕が冗談抜きで無くなります。ツイッターのフォローとか、ここの感想への返信はその頃まで待って下さい!(とかいってもここ一年フォロワー増えてないけどねw)
と、言うことで。長々と喋りましたが、ここまで読んで下さった貴方! 本当にありがとうございます! ではまた来年!
ハッピーメリークリスマス! & 良いお年を!