イヌイットってか
大きな街に行く道を選んでしまったから長い道のりになってしまった。
だがそれだけ時間を掛ければ期待も増えるものだ。
待ち時間がこれ程までに尊いと思えるのは僕が犬だからだろうか?
「なぁデンバー、なんか腹減らね? 」
場が硬直した状態に友犬がよく言っていたのを思い出した。
「どこの世界も同じか、よし! 食べよう。」
僕は元気よくそう言った。
「どこの世界もそりゃ腹は減るって。」
ミカエルはそう言った。
こいつ本当に吟遊詩人の才能あるのか?
いや逆にこの素直さが良いのだろう。
花を花と思えるその素直さはきっと貴重な物だ。
そういう意味では彼は犬に似てるのかも知れいぬ。
なんつって。
「じゃあえっと乾パンを……ってしまった、食べきってた。」
それに対して思わずこういう言葉が口から出た。
「これが旅人暦幾年の吟遊詩人か。」
正直こういう食事とかの諸々の雑務は全て任せたいのだがそうはいかないようだ。
僕は鼻をなめて湿らせた。
なんて暑い日だ。
それをよほどお腹が減ってるのとミカエルは勘違いしてしまった。
「よーし ミカエル奮発して行商人のところへ行くぞー! 」
ミカエルはあたりを見回し小さな岩の上で、休憩している行商人を見つけた。
ところで察しのいい犬である僕は気づいているが、ミカエルは何と前に老人に財産を、ほとんどあげた時どうやら5ヘッド程は、自分で持ってたらしい。
いや懸命だと思うが、やはり若さのある度胸が足らないな。
もっとなんというか破天荒な感じじゃないと、芸は磨けないと思うのだ。
ミカエルはそそくさと行商人の所へ行った。
「いらっしゃい、買い物かい? それとも歌でも聞かせてくれのかな? 」
布切れで汗を拭きながら小太りの行商人は言った。
「歌もいいがお腹が空いている、パンと肉と水がほしい。 」
ミカエルは事前に決めていた台詞をスムーズに言えて満足感を得たようだった。
そういうところは詩人らしくて嫌いじゃない。
「はいはい、鹿肉なら安いよ、この暑さだからね。」
ミカエルは納得したのかお得な物を買い揃えてこちらに満足気に帰ってきた。
「いくらだったんだ?」
僕は聞いた、もちろんがめつい犬ではないが、この男の管理能力はさっきわかったからな。
「50ボトムだったよ、おつりが来た。」
そう言ってパンと肉を綺麗な紙切れを目の前に置いた後小さな木の皿を地面に置いた。
そしてそこへ出納に入っている水を少し注いだ。
「十分だ、肉はおいしそうだ。」
よだれが垂れて舌なめずりをした。
鼻水の味がするぜ。
僕は水を飲みそして呼吸をして地面にお腹をつけた。
そして食べ始めた。
まずは肉を被りつく、本能的にやはり優先順位はこっちだな。
僕は久しぶりの肉の味を堪能した。
鹿肉は非情に美味という程ではなかったが逆にこの大味さが空きっ腹と大きな街に行く前の余興には丁度よかった。
パンはやわらかく食べ易かった。
堅い方が好みではあるけども、こういう食感はなかなか味わえない。
そして水を少しずつのみ喉を潤した。
ミカエルの方はどうやらパンに肉を挟んだようだ。
僕からすれば邪道にすぎないね。
ただアレンジしたという満足感を得るに過ぎない。
ミカエル君、君は1つで2度おいしいと思ってるかもしれないが2つある食事を1つにしてしまってるのだよ。
僕はそう心の中で思いつつ風に吹かれた。
食後の風はどうしてこんなにも、涼しいのだろう。
子犬のグルメにしたかったけど年齢的に