異種交流と交流
マンドラゴラは、竜の山に群生している植物で回復薬の材料としても非常に重宝されている。
僕は、自分の新たな能力獲得のために動き出した。
だが竜の山というのは、それ程なまぬるい場所ではない。
僕たちは冒険者の活躍のおかげか道中まったく魔物の類を見なかったわけだが、それもここで終わるだろう。
腕利きの冒険者を探すのが筋だとは思う。
だが僕にそんな金はないし、そういう奴の懐を潤すのはなんというか、うらやまけしからん。
そんなわけで僕は、とりあえず森にいるゴブリンを観察してみようと考えたのであった。
竜の森と呼ばれるそこは、運がよければ、あるいは運が悪ければリザードと呼ばれる亜人竜に遭遇する場所だった。
もちろん安全か危険かで言われれば、危険な部類に入る、その森で初めてモンスターを見ようなんて馬鹿は僕くらいか。
森に着くとなにやら猿の叫び声が聞こえる。
緑色の毛のない猿の見た目はまさしくゴブリンの特徴を備えている。
骨格的にも前に研究者の青年の部屋で見た頭蓋骨とも一致している。
「キキー。」
という叫び声は若干僕にも驚きを与えた。
だがその程度では僕は逃げない。
僕はある程度観察してゴブリンとのコミュニケーションを図ろうと思った。
僕が考えるに、何でも暴力で解決するというのはむしすかないのである。
最終的に知識人ならばずるくても血を流さない方が良いと考えるのはいたって普通だ。
僕は少し観察した後吠えた。
ゴブリンはそれに気づいたのか茂みに隠れている僕に走ってきた。
ゴブリンの叫び声は僕の知る獣の言葉とは違っていた。
「キキー! 」
彼は何か驚いていたが僕はお腹を見せて敵意がないことをアピールした。
ゴブリンもちょっとビビリだったのか幸い攻撃はしてこなかった。
そしてだんだんゴブリンの持つ言葉の意味がわかってきた。
「ナニコレー! 」
頭の中でそのようなニュアンスで翻訳され始めている。
元々獣の言葉に近いからコツや独特の発声方法さえつかめば獣の言葉の改変に近い。
「マァ ワタシハ ユウシャヲメザス シガナイ イヌデ ゴザンス。」
そう僕は喋りかけた。
「ユウシャ!? テキダー! 」
勇者は確かにモンスターの敵なのでまずいとは思った。
「ユウシャ トイッテモ コロシハシナイヨ デンセツニナルダケサ。」
僕は自分の意思を伝えた。
まぁ殺しをしないのは、自分ができないのを知っているのもある。
が、何よりも血塗られた物語は、どうやってでもそれを嫌う人には染み付かない。
それに血塗られた物語は何かが強引なものが多い。
僕の知っている昔話も最終的に暴力で解決するのがほとんどだ。
それはいい、だがそれは勇者ではなく力のある凡人ではなかろうか? と。
ならば逆があってもいい、力はない勇者であっても人は助ければそれでいいのだから。
「トイウコトダ。」
ここまでの自分の意思を簡単にゴブリンの言葉は伝えることができた。
「よくわからないけどお前何しにきたんだ? 」
ゴブリンの言葉が流暢にわかるようになると彼の持つ性格が割と温厚なものであることがわかった。
「まぁ、なんというか自分の目標達成のために必要なものがある、それを取るには危険な山にいかなければなるまい。」
それに対してゴブリンは何か物語を感じているようだった。
「よくわからないけど、お前は俺たちに何をしてほしいんだ?」
彼は単刀直入に言った。
「危険な山の案内をしてくれれば十分だ、できれば魔物が良い、戦闘を避けれる。」
僕は言った。
同属感での戦闘は魔物は避ける傾向にある。
これは人間と魔物で勢力を均衡している状態のため、魔物同士の部族での均衡を避けるための野生のルールであった。
「なるほど、お前の言ってることはよくわかる、人間は考えすぎのばか者で嫌いだが、犬とは仲良く出来そうだ。」
彼はそう言うと村に案内してくれた。
小さな建物だらけのその集落は、人間にとってはただの小さなミニチュアにしか見えないだろう。
だが犬である僕にとっては十分にその様式や製法を感じ取ることが出来た。
木の枝の骨組みは適当な木の枝に小さい尖った木の枝を叩いて接着していた。
凹凸を使った様式も見られ資源が無くとも人間の持っている技術を応用、再現していた。
布や木の葉が被せてあり室内に雨漏りがしないようにハスの葉が屋根に使われていた。
「人間のように文明を持っているようだが、それならば仲良くできそうなものだが。」
僕はそうつぶやいた。
ゴブリンの商人や戦士などがいてゴブリンがゴブリンへ何かを教えているのも見えた。
「そうだが、我らは野蛮だ、人間はそこが気に食わないのだろう、だが人間は考えに縛られすぎて溺れて、自分たちの部族ですら対立が激しい。」
彼の冷静とも単純とも言える分析は僕にはよく分かった。
人間は知恵を持てる種族だが、同時に縛られる。
心が深い種族だが、同時に心に縛られる。
強さを持てる種族だが、同時に強さに縛られる。
何に対しても欠点は確かに目立つ。
だからゴブリンは、人間とは仲良くしないのだろう。
僕はこれについて仲良くさせようとは思わない。
なぜなら、それが彼らにとっては、新たな戦いの原因にもなるだろうし、人間の味方になっても必ず助けてはくれない。
人間とは多種多様な者がいてそういうものだ。
「よく分かるよ、彼らといると楽しいこともあるけどね。」
僕は言った。
だが僕の付き合ってる人間というのもまた、ミカエルくらいであって、ミカエルもまた単純な考え方を好む、ゴブリンや動物に似た人間であった。
「君達が決めたことだし、人間も自分達が決めたことに対しては考えを絡み合わせてめんどくさくして押し通す、そういうものだから君達が何か気にする必要は別段無いね。」
僕はそう彼らに言った。
僕は人間と共にいるが、人間に一方的に肩入れするつもりはない。
勇者ではあるが、僕は魔物にとっても人間にとっても勇者でありたいのだ。
そしてそれは、魔物にとっても人間にとっても邪魔者でもあるかもしれない。
「さて、名前は? 」
ゴブリンの彼はそう言って家に招いた。
家は小さなテントのような大きさで、背の高い人間だと入れないくらいだった。
「デンバーだ、僕が選んだ名だ。」
僕はそう言った。
「僕は、ドラムだ。」
ドラムという名前は楽器か何かが元だろうか?
ゴブリン達の文明の謎は深い。
そして彼らは歴史を残さない。
それが謎を深めている。
「あぁ、よろしく、この村にあの山の地理に詳しい人はいるかな? 」
僕は尋ねた。
ドラムは少し考えて、言った。
「別段詳しい人はいないけど、僕たちは大体知ってるよ。」
ふむ、ならばこのゴブリンのドラムに案内してもらうのも悪くない。
「じゃあ案内を頼みたい、そうだな、ロバは好きかい? 」
僕は尋ねた。
「たまに奪って食べたりするくらいかな。」
やはり野蛮だがそのニュアンスは人間が描いてるものではなかった。
「友達なんだが一緒に連れてくることは可能か? 」
僕は尋ねた。
ドラムはまったく拒否しなかった。
「じゃあさ、人間はどう? もちろん冒険者だけど、彼は戦わない。」
僕のこの発言に対してドラムは少し考えた。
「そいつは、魔物が嫌いか? 」
ドラムの質問はダイレクトだ。
ゴブリン達は人間にはない素直さがある。
だから僕もこの種族たちのあるがままの姿を納得したのかもしれない。
「別段嫌いとは聞いてない、それに彼は吟遊詩人だから武器は持ってない。」
それを聞いてドラムは安心したのか
「なら大丈夫、音楽好きな奴で戦わないなら全然大丈夫。」
ドラムはそう言ってテントの中の袋を探った。
「ドラゴンとか魔物に見つかったら、俺たちは戦わないけど、一応何かはあげてる。」
ドラムはそう言って干し肉らしきものを取り出した。
「魔物はこれ好きだ、俺らは何かの肉手に入れたら全部干してる。」
そう言って干し肉を小さな広げた布に置いた。
「確かによさそうだぞ。」
何の肉かわからなかったが、悪くないにおいだ。
動物の類の肉だろう。
魔物同士は殺し合いはしないらしいのだから。
「魔物同士は殺し合いなんてないんだよな? 」
僕は一応自分の知っている知識を過信しないようにした。
「賢くない奴らはその同盟には入れられてない、そいつらの肉とかも食べてる。」
ドラムはそう言った。
「なるほど、とにかく俺は狩猟はできるが、争いは好まないので頼んだぞ、もし戦うことになったら逃げる方向で。」
ドラムもそれについては了解してくれた。
改めてゴブリンというのはいい種族だと思った。
まぁたまに会うからいいのであって、普段はミカエルのような生ぬるい人間といるのが丁度いいかもしれないが。
僕はゴブリンが包みに武器を入れてないのを確認した。
彼らは約束を守るらしい。
「準備はできた、だけどもちろんタダじゃない、それ相応のモノを先にほしい。」
単刀直入な欲求に対して僕はもちろん返す言葉は持っている。
「分かってる、それを明日までに用意するから今日は村で働くなりなんなりしてくれ。」
ゴブリンは理解したのか、野菜の塩漬けを手伝いに行った。
僕はそう言って肉球の赴くまま街に行った。
まず行くべきは仲間に話す事だ。
ここまでは僕の独断でいけるはずだが、ここからはミカエル達の判断もあったほうがうまく運ぶだろう。
僕は、宿屋の前に立った。
別段確認しようとは思ってなかったが良く見ると雰囲気の良い場所ではある。
壁も少し古びているが汚くはなく清潔感はあった。
どことなくオシャレだがミカエルが選ぶだけあって、大衆的な雰囲気もある宿屋であった。
宿屋の中にはいるとミカエルが宿屋の酒場で少し料理を楽しんでいた。
アップルパイとコーヒーを飲みながら、リュートを時折ポロンと流す、彼は気分が良さそうだった。
彼もかなり人間の中で破天荒な部類に入るが、この街の優雅な雰囲気には負けてしまうのである。
だがそれでいい。
その感受性の高さが君の良さだよ。
だが僕は頭突きをした。
そして圧し掛かった。
「おおう! デンバーか、君はそんな挨拶の仕方しなくても良いだろう? 」
ミカエルは、現実に引き戻されたのか、冷めないようにと急いでアップルパイとコーヒーを掻きこんだ。
「面白い話だぞ、能力アップと偉大な発見の2大得点に加えて竜の山観光ツアーときてる。」
僕の話を聞いて、ミカエルは驚きと喜びの表情で圧し掛かった僕の腕をつかんで持ち上げた。
「本当か! よーし! 」
高い高いのようになってしまったが、まぁおろされた僕は一息をついて地面に座り込んだ。
宿屋の木の板は、お腹をつけると暖かくて心地が良い。
「ゴブリンが同行する、あと休んでるポピーももちろん行かせる。」
僕は言った。
「ゴブリンとは獣のよしみってわけか、だが竜の山は危険だな、もちろん道中の砂漠も死にそうになったが。」
ミカエルは少し考えると喋った。
「きっとお前は、大所帯で戦うって思ってるわけでもないよな? となるとゴブリンを連れて来たのは道案内と交渉役か。」
ミカエルはそう言って納得したのか手を置いてそっちの番だと目で合図をした。
「まぁ、交渉役に関しては、僕はもうゴブリンの言葉をマスターしたから、必要はないのだが、やはり道案内は必要でしょう。」
僕はそう言い放った。
「まぁ、犬っころが喋りだして殺さないデーといってもな。」
彼はそう言うと何かこの話に必要な部分に気づいた。
「ゴブリンがタダとは思えないな、何か約束しただろう。」
すると僕はにやりとわらった。
「ポピーを連れて行くのはそのためさ! 」
僕はにまーと笑った。
「おっおい……冗談はよせ。」
さすがにミカエルも驚いたのか汗をかく。
「もうお前を通訳に通して会話してる仲だからそれはきついぞ。」
ミカエルは弁解とばかりに言う。
「冗談だよ、さすがに俺はそんなことしないさ、友達だしな、ゴブリンが喜ぶ品を届ける、それも村単位で喜ぶものをな。」
僕は言った。
「なるほど、お前の目指すところは、ゴブリン村の勇者か、なら肉が一番手っ取り早いだろうな。」
ミカエルは言った。
「まぁこれだから、ポピーの生贄が変に現実味を帯びてしまうけど、やはり金で肉屋からいただくのがいいだろう。」
僕は言った。
「宿屋代と君の食費で2ヘッドしかない、ボトム換算すれば200ボトムだ。」
彼はそう言って金貨を鳴らした。
2枚しかないから心もとなく感じるが2ヘッドというと生活費にしては倹約家なら2週間は余裕なものだった。
まぁミカエルの使いっぷりから考えるとそう長くは持たないだろう。
「そんなわけだから、金が必要だ、それでいつまでにそれは用意するんだ? 」
ミカエルは尋ねる。
「明日だ、いつとは言ってないが昼くらいが適当だろう。」
僕は言った。
「ならば、しゃーねぇ! このリュート売るか。」
ミカエルはそう言って適当な吟遊詩人を探し始めた。
「いいのか? サーカス団の物で何かといいやつだろう? 」
僕は尋ねた。
「老人に全財産あげようと言ったお前だから、きっと俺への思いやりではなく、単純に興味だろうな、まぁなんというか、俺は安物の方があってるきがするんだ。」
そう言って彼は適当な吟遊詩人達の集まりに対して言った。
「これは、なかなかいいリュートだが、金が必要になったから、手放そうと思う、さあ張った張った。」
こうしてミカエルのリュートはいくらかの値がつけられ始めていく。
「んー10ヘッドから始まりだな! 」
ミカエルは、価値の分からないリュートにそこそこの値段からはじめた。
理由はゴブリン村のための肉の用意なら最低で10ヘッド程必要だからだ。
10ヘッドあれば安めの鹿肉などであれば十分な量買えるだろう。
「うーん。」
皆がざわざわと話し始める。
悪くないリュートに悪くない値段とは一押しに欠けるものだ。
そんな時ひとり吟遊詩人が立ち上がった。
いつぞやのヒゲの男だった。
「やぁ! ミカエル! いいリュートだね! 前のと変わってるけど売るのかい? そうだなぁ、僕の歌にはギターよりリュートだと思ってたんだ。」
そう言って彼はおもむろに10ヘッドをミカエルに握らせる。
「いいのを買おうと思ったが、友達のよしみで君から買おう! 10ヘッドきっかりだな。」
こういう転売は、多くの利益を出せることもあり、割高価格で買うことも多いが適正価格での取引を要求した。
これに対してミカエルは、快挙するしかないと思い交渉を成立させた。
なるほどこれが両方に得がある商売というやつか。
「じゃあ! 新しいリュートでイッツショウターイム! 」
彼の元気なリュート音は、たちまち人気を集めた。
「ふむ、やはり僕よりも誰が持つべきかは分かったな。」
ミカエルはそういうと店外へ出て肉屋を探そうと言った。
「ミカエル、お前という奴は、吟遊詩人にしてはなんか素朴だな。」
僕は彼を褒めるニュアンスを含めて言った。
「まぁね、僕は気が小さいのか、ああいう高価なものは使えないんだ。」
ミカエルはそう言うと詞のページを捲った。
「汝、楽器が無ければ、楽器になれ、金が無ければ、金になれって詞があってね」
その詞はきっと誰も知らないようなものだろう。
「まぁ、僕の友人の友人の友人くらいが考えた、マイナーな歌だったけど好きだよ? 続きがあったけど忘れたね、この本は出だししか載ってないんだ。」
そういって彼は、歩き出した。
食品通りと書かれたその場所は夜もおいしいにおいで溢れていた。
「なるほど、酒場に来るよりも、安くて飲み食いできるから人気なわけか。」
昼間露店で肉を売っていたりした商店街に椅子と机が置かれ鋼の通りの人などが酒を飲んで食べ物を楽しんでいた。
どうやら、成功者の付き添いやそのような雰囲気を好まないものがこの夜に飲み食いしてるらしい。
「なんか、どこでも僕のような人はいるんだなぁ。」
ミカエルはそう言った。
「ああいるともさ、貧乏性なんかじゃないぜ、君は普通のものでも高価なものと同じように良さを感じるから、君にとって高価なものはただ高価なだけなんだよ。」
僕はゴブリンに影響されたのか単純なことをいってみた。
「いいね、いい言葉だ、さて肉屋はどこかな。」
街中にはたいまつが吊るされてあってところどころには、火事防止のためかバケツに水が入っていた。
「いやいや、あんたの作品は師匠並だよ。」
「……ですから、私はこの街に来てまだ半月程で、」
「……飲んだくれだって? いやいや倹約家だよ、毎日ここに通うために削ることは削ってる、今朝なんか、朝食を削ったぞ! ぶったおれそうになったけどな。」
なにやら職人や若い人々の声で溢れていてついついそれに目が行って探索がとまってしまう。
「ああ、椅子が多くて分かりにくいけど、肉屋さんかな? 」
ミカエルは近くの肉を持ったコックに尋ねた。
「ははぁ、私は菓子専門だよ、まぁ菓子といってもそんな品のいいものじゃなくてアップルパイとかね。」
ミカエルはそれに軽い愛想笑いをすると尋ねた。
「肉屋は? 」
するとコックは親切に人の多い場所で肉をさばいては焼いている親父のいる場所を指をさした。
「はいはい、鹿肉ね! あんたそればっかりだな! 金欠ね、はいはい。」
忙しい合間にも客とのコミュニケーションを忘れてないようだった。
ミカエルは近くの椅子に座ると店長に向かっていった。
「明日の昼までに間に合えばいいから、急ぎではないんだが、10kg程肉が欲しい。」
それを聞くと店長はためらうこともなく言った。
「あんたそんなに買える金あるのかい? あるとして運べるのかい? 」
それに対して僕は言った。
「ロバの友人がいるのでね。」
それに対して店長は何か目的があることに納得したのか価格交渉へと入った。
「とにかく量なら鹿肉・イノシシ肉が100g 10ボトムだよ、1kgなら 1ヘッドだ。」
単純計算で10kgなら10ヘッド丁度ではあるが、日々の生活に少し余裕を持たせたい気もする。
「10kgだぞ? 」
ミカエルは何かを求めるように言った。
「君の言いたいことはわかるが長年かけてルートを確立した、ご奉仕メニューだからね。」
彼の言い様にミカエルは納得したのか考える。
「じゃあこうしよう、全部同じ肉じゃなくていいから10kg、食べれるなら部分は問わない。」
ミカエルの話を聞いた親父は少し考えて手を叩いた。
「なら、イノシシ肉、鹿肉、豚肉、鶏肉、トカゲ肉、魔物リス肉、魔物ウサギ肉混合だ! 」
本当に何でも混ぜてくるとは思わなかったが親父の店のポリシーなのか交渉には乗ってくれた。
「それでいくらになる? 」
ミカエルは問いかけた。
「んー、そうね、俺らが食べるマカナイ飯とおすそ分けがなくなるってだけだから、6ヘッドでいいよ、ただし! 」
確かに安いがただし、がミカエルを不安にさせた。
「今日1ヘッドくらいは食っていようや? もちろん鹿や豚なんてケチなこといわねーよな。」
親父はにまりと笑った。
「じゃあそれで! 」
まぁ元々ちょっと贅沢できる金が欲しかっただけの僕たちにとっては好都合だった。
牛肉は100g 20ボトムという値段だったが確かに美味だ。
ミカエルは、いつものきどったワインとは違いビールをガブリと飲んだ。
「うーん、こういうスタイルもいいよねぇ。」
ミカエルは珍しく豪快なノーマルスタイルの酔い方をしていた。
僕も牛肉のおいしさを体感した。
まぁいつも食べれるならそれが良いかもだが僕はパンでもいっこうに構わんよ。
といいつつ肉についつい口が伸びますな。
ミカエルは、食事が半ばに来ると眠り込んでしまった。
しょうがないので残り物の肉もついでに食べてやるとするか。
さて明日はポピー君に労働してもらうから、ちょっと僕はミカエルの財布からお金を取り出した。
「馬でも食べれる食べ物ってここらの店にある? 」
僕は肉屋の親父に聞いた。
「あるけど、パンとかよりもあいつらはそのままの野菜が好みだろうな。」
そう言って親父は、新米を呼び出すと何か指図をした。
新米は僕に近づいた。
「喋る犬かぁ~、あっえっとですね、ウマなら大好きなニンジンをぼくの牧場はよく仕入れてるんですよね。」
この青年は、なにやら若者めいた、新米な雰囲気を漂っているが彼の話しぶりを聞くとどうやらその若さで牧場の主らしい。
「ふむ、その若さで牧場持ちか! めでたいな。」
それを聞いて頭をかくと青年は話した。
「うちの親から引き継いだだけですが、あの親父さんとの縁もあって商売やらせてもらってます。」
彼の話し方は、若者風の丸みはあったが職人達の訛りがあった。
「面白いお客さんですし、余り物たくさん買ってくれたみたいなので、特別に売って差し上げますよ。」
そう言って街の中にある小さな牧場の倉庫に着くとなにやらよく育ったニンジンをバケツにつめた。
「バケツ込みこみで、20ボトムでいいですよ! 」
なるほど、ウマの食事としてはなかなか良いものを使ってるようだ。
「おつりはあるか? 」
僕は1ヘッド通貨をくわえて差し出した。
「えーと、80ボトムなら丁度もってるので、どうぞ。」
彼が10ボトム通貨を8枚取り出したが暗闇で手が滑ったのか2枚程地面に零れ落ちた。
「あっ。」
彼の緊張感のない叫びが聞こえる。
だが僕はふと手を伸ばし二枚のコインを指の間に挟んだ。
「わん……だふる。」
彼はそういうと残りのコインはバケツに入れて僕に渡した。
僕はコインをバケツの中に入れるとくわえた。
「じゃあ! 」
青年は、掃除を始めるのかそこに残った。
僕は街に戻ると、寝ているミカエルを引っ張った。
「おきろ。」
だがミカエルはおきなかった。
「優しく殺してぇ~。」
ミカエルの服を噛んで僕は宿屋の部屋まで引きずった。
次でやっと出発です。