夢は止めることができいぬ
肉球先生の大冒険が見れるのは勇者はいぬだけ!
というわけでお楽しみください。
「僕の夢は、勇者になることだ。」
そう僕は答えた。
「ふむなるほど・・・、えーとしかしこの運命表を見る限り、あなたの運命は、それじゃないから難しいと思いますが」
白髪で鼻の長い眼鏡を掛けた老人は、そう言った。
「不可能なんて無い、夢があれば! 」
僕は答えた。
この哀れな老人は、僕の言葉を聞いてきっと感激するだろう。
そして予想では、次の瞬間老人は、面白い!と叫び僕の冒険が始まる。
ついでに霜降り肉も空から降ってくるか?
「えーとでもあなた・・・。」
僕は期待を胸に吠えた。
そして尻尾を振った。
「やる気はあります。」
僕は胸を張って答えた。
「そうですか・・・、頑張ってください。」
老人はそういって志望職業、勇者と書類に書き込んだ。
「いいですか勇者のペットなら、可能かもしれませんよ? 」
老人は最後の忠告とばかりに、呟いた。
「いえ、勇者です! 」
僕はきっぱり答えた。
僕は、そう犬の世界から来た。
小さい頃から僕たち犬は、芸という技を使い生活をしてきた。
あるときは、野生動物から金品を巻き上げた。
そんな僕たちだがやはり安定した生活はつまらないもので、昔話の勇者に僕も例のごとく憧れたわけだ。
ところでこの目の前の猿は、偉そうだな。
「はいわかりました、ではサインどうぞ。」
老人は判子の朱肉と紙を床においた。
「いいでしょう。」
僕は前足を出し朱肉に力をいれ紙に押した、僕の短い前足は震えた。
これはきっと冒険にも震えているんだろう。
「ところであなたの種族は正確には、犬じゃなくてコーギーですか? 」
老人はいった。
「猿のなかにも色々種類があるのと同じです。」
僕は答えた。
僕の種族コーギーは、寒い地域にすんでいる種族だ。
戦闘能力は高いけども、病気になることが多く短命でも知られる。
「普通なら冒険者ギルドを、紹介するけどどうしましょう……。」
老人は頭を抱えながら言った。
「手続きができないのに、呼んだんですか? 」
僕は指摘した。
当然のことだ。
それくらいのジムショリというやつはしてほしいものだ。
「いえ・・・ただあなたの世界を支配している動物が、犬とは。」
老人は言った。
それに対して、僕は指摘した。
「戻すことはできるんじゃないんですか? もちろんその気はないので絶対にだめですけど。」
その時は、老人が目を見てきたので、喧嘩を売ろうとしてるのかと思った。
だがこの世界の猿は、目を見るのが礼儀らしい。
おかしな種族だ。
「いやええと・・・異世界から来た人を、戻す方法を探すためにいろんな世界から人を集めてるわけでしてね……。」
老人の言ったことに少しだけ納得した。
「本末転倒じゃないですか? 被害は最小限に、抑えるべきだ」
もう少しと、僕は指摘した。
「かないませんなぁ、ここだけの話権力者の中に、異世界への行き来を望む人がいるのですよ。」
老人は言った。
僕は納得して吠えた。
「ともかくあなたはボトム通りの倉庫の4番小屋が住居です、ギルドは紹介できませんが、幸いそこいらの人たちは親切です。」
老人の計らいに僕は感謝をして、その場を去った。
街に出るとそこは、猿でごった返していた。
街行く猿が買い物の帰りのようだった。
どうやら貨幣制度があるらしい。
僕たちの世界でもあったが、廃止された。
理由はくわえて持ち運びが面倒だからだ。
結局僕たちは相手に気に入られるとか、ブツブツ交換するとか、芸に対して報酬をもらうとか、が主な食べていく手段になっていた。
「見たことない犬だなぁ。」
町の人々は、僕を見て言った。
「ボトム通り4番の"家"を頼みます。」
僕はこういった。
「え?あそこは旅人さんが住んでるけどなにか用でも・・・ってかシャベッタァァァ! 」
猿は驚くと少し時間をおいて、落ち着きを取り戻した。
「まぁそういう生物もいるよね、うんうん、さてとりあえず連れていくね。」
猿は僕を持ち上げた。
持ち上げてもらっての移動は、初めてではない。
ワシやタカに頼んで移動することも、しばしばあった。
不器用な奴に当たると若干肉球が痛んだが。
「ついたよ! 楽しんで! 」
猿はどこかへ行った。
「ここが僕の家だと思うが、タビビトが住んでるとはなんだろう? 」
僕は呟いた。
すると中から猿が出てきた。
「なんだい君? 道でも迷ったのか? 野良かな? 」
三角帽子を被った詩人は、そう言った。
「ここは僕の家らしいんだが、先客がいるようだ。」
僕は答えた。
「あれ?しゃべる犬? ああ・・・お袋のプレゼントってこのことか。」
タビビトは、僕を中にいれると暖炉の近くのマットに、水をいれた皿とパンをおいた。
「不思議だなぁ……、まぁ詩人の俺にとっては伝説の剣なんかよりよっぽど良いね。」
詩人はそういってリュートを弾いた。
「僕は勇者になろうと思うんだが、どうすればいいと思う?」
僕は猿に言った。
きっとこいつも芸で食べている同類だから、あてにはならないが。
「ふむちょっと疲れてるのかもしれん……、なんてわけないよな、よーし不思議なものってのは、とことんそんなもんだ! ともかく勇者を目指す前に、冒険者でなくてはならない。」
詩人はリュートに、乗せて言った。
「なるほど、つまり功績をあげた冒険者が、勇者を呼ばれるのだな。」
僕は答えた。
「そうだ! 話がはやい! そして俺もまぁ冒険者だ、勇者を目指そうとは思ってはないが。」
詩人は答えた。
「わかった、だがこの世界は猿有利のようだ、きっと僕の使えるものは少ないだろう。」
僕は冷静に分析した。
「猿? 人のことか、人って呼んだ方がいい、肉球嫌いに見つかったら絨毯にされちまうぞ。」
詩人は冗談混じりでいった。
「人か、じゃあその人じゃなくても、冒険者になる現実的な方法を、考えたい」
僕は言った。
「なるほど……、お前賢いな、というか、名前聞いてなかったな、俺はミカエルだ。」
詩人の言葉を聞き僕は首をかしげた。
「名前? あんまりそういう風なものは、考えてなかったな、茶色い毛玉のホワイトティース、とはよく言われていた。」
僕は言った。
「茶色い毛玉のホワイトティース……、は長いな、じゃあこんな名前はどうだ。」
ミカエルは詞の書いた本をめくり、付箋の張ったページを見せた。
「ポピー! いいだろう。」
その名前の響きはちょっと勇者っぽくはないな。
僕はそれに対して吠えて意義を唱えた。
「わかった、じゃあ勇敢の歌の擬人名デンバーで行こう。」
僕はその名前を気に入った。
「じゃあそれで。」
名前なんかどうでもいいが、ともかく響きは悪くなかった。
「じゃあえっとデンバー、まずは君の寿命について考えたんだが。」
詩人は言った。
「大体15年くらいかな、今は6歳にもなる。」
僕は答えた。
「じゃあえっとまず寿命を伸ばすための、冒険をはじめないか?」
詩人の言う事は、最もだ。
寿命が2倍になれば単純に、チャンスも2倍になるわけだ。
「当てはあるのか?」
僕は言った。
「無いことはない、俺が追っている、この詞にかいてある生者の泉とは、まさにその効果があるだろう。」
ミカエルはそう言い詞を歌った。
「山の水は泉に流れ、流れは道となり大地に花が咲く、生者の息吹に溢れる泉を、目指して歩こう。」
ミカエルの歌は悪くなかった。
自然と尻尾が動いた。
「なにかの隠喩とも取れるけどこれが実在するのか?」
僕は指摘した。
「俺の親父もそういった! だけど……、俺はこの詞はつまりこの世界のはじまりを表してると思うんだ、世界は山の川から始まり泉に行き着くんだよ、きっと世界の果てにある」
ミカエルはこう言った。
僕はその夢に乗ってみることにした。
犬ってかわいいよね