さしずめピエロ
気晴らしに短編書いてみました!
ちなみに歴史研究部は、あんまり活動していません。
「振られたー、城山くん」
恵美子は歴史研究部の部室の机に突っ伏した。
「え? 君の好きな男の子、ええと、伯方くんだよね? 君と話しているとき楽しそうだったから、意外だなあ」
城山は目を丸くする。
「どんな状況だったの?」
「伯方くんに告白して、そしたら受験が終わったら付き合おうって返された」
「なにその予約!?」
「美容院だったら髪の毛地面についちゃうよねえ!」
「そこまで言ってないけど……受験って二年半後だよね」
城山は苦笑いを浮かべた。
「で、惚れた弱みで了承したんだけど、一週間後に「やっぱ恵美子さんとは友達でいたい」って言われた……」
「う、うん」
「人間不信で女の子を好きになるの、怖いんだとさ」
「恵美子ちゃんの前に好きだった人も、人間不信だったよねー」
城山は控えめに笑う。
「随分、似たような人を好きになる傾向があるんだね……」
「うっさい! 分析すんな」
憤る恵美子に、城山はスマホを取り出して言った。
「まあ、気持ちを切り替えて、部活中だけどこっそりテレビでも見ようよ。恵美子ちゃんの好きな韓流スター、出てるよ」
スマホの画面には、綺麗な顔をした青年が映っていた。
「きゃーー! あー!」
わかりやすく興奮する恵美子。
『いったんCM入りまーす!』と、司会者の声。
『は・か・た・の・塩!』
ブチッ!
城山はスマホのテレビ機能を素早く切った。
「…………」
お互いに気まずい空気になる。
「でもさ、女の子と上手く喋れないって言っているわりには、今日の日本史でも、隣の席の山田さんといっちゃいちゃしていたし」
「あー。僕も、伯方くんは山田さんのことが好きなのかと思ってた」
「付き合ってもいない女の子と目の前でいちゃいちゃされたら、なんで私、告白したんだろうって思うよねー」
「あんた、考えることが女子やね」
「うるっさいな。しかも山田さんと付き合ったら付き合ったで、女子を好きになるのが怖いんじゃなかったの? ってなるし」
恵美子の言葉に城山は爽やかに笑った。
「方便かもよ? 俺も中学の頃、告って来た女子を「ごめん、恋愛に興味ない」って振った二週間後にその女子の親友と付き合ったし。」
「最低だなお前! 空気読めよ!!」
恵美子は結構ねちっこい性格をしている。
やはり、すぐには立ち直れないのか、更に愚痴った。
「しかも午後三時に愚痴のメールが来て、夜の十一時まで続いたし」
「振った女に愚痴る男も珍しいよねー。他に愚痴れる人いないのかな?」
「私も気になって聞いたけど、五人くらいいるらしいよー」
「多っ! 幸せ者だな!? どんな内容?」
「自分はいい人ぶっているけど、すごく汚い人間で、それが嫌なんだって」
「世間的に見たら恵美子ちゃんよりも、良い子なのにねー」
「そうなんだよ! 『運動も勉強もできる優等生で良い家に住んでいるうえ人柄もいい』って言うのが彼のイメージじゃん? 逆に私は『がり勉の韓流オタク』じゃん! なんで? なんで? 妬ましい!」
「……伯方くんのほうが、素朴な顔立ちだからじゃない?」
そういう城山はかなりのイケメンである。ちなみに恵美子はキリッとしているが、そこそこ可愛い。
確かに外見では伯方は敵わないのだが、それだけじゃない。
普段の行いや、愛想などだ。結局モテるのは暗い可愛い子じゃなくて、明るいブスなわけだ。
伯方はよく笑う。面白くなくても微笑んでいる。
恵美子もよく笑うが、窓の外を見てにやにやしたり、校庭のアリを見て目を輝かせたりと、ちょっと変わっている。
顔が可愛くて、成績が良くて、言動が幼いのは、異性から見ると最高の女友達だが、同性から見ると最悪じゃないか。
やはり、どんなに振り方が不誠実でも、精神が病んでいても、少なくとも恵美子よりは、伯方は世間的に見て良い子なんじゃないかな、と思う。
その旨を伝える勇気が城山にはなかった。余計な一言だとわかっていたからだ。
「うんうん。そうだよねっ。スポーツ刈りでにこにこ笑う塩顔男子っていい人オーラ出ているしね!」
基本楽観的な恵美子は、城山の方便をすぐに信じた。
「でも、なんで彼、そんなに悩んでいるの? 控えめだけど明るい男子ってイメージだよ?」
城山の質問に、恵美子は溜息を吐いた。
「自分に自信がないらしい。だから、他人に優しくして、自分の代わりに自分を肯定してほしいんだって」
「恵美子ちゃんと真逆だねー」
恵美子は現在家庭が荒れている。冬休みには母が家出したというのだからシャレにならないレベルだ。
しかも、父が片手を麻痺して働けなくなってしまい、今まで頑張って来たのに大学すら危うい状況だったりする。
更に、能力が無い。何でも苦手だ。運動も、家事も、芸術系も、ロッカーに荷物をしまうというふとした動作でさえ、とろい。
だが、ガッツがある。
お台場で傷害事件に巻き込まれても、ネットで実名だされて悪口を書かれても、下駄箱に脅迫状が届いても、次の日にはきちんと学校に来る。
自己肯定感もあるし、根暗でなんでもそつなくこなす伯方とは真逆だ。
「一番傷ついたのは、君よりアイドルが好きって言われたことかな」
「そいつはやめとけ」
城山は言った。
「そんな風にアイドルと学校の女子を比べる時点で、そいつは恋愛できる精神状態じゃないよ。諦めなさい」
「そうだね……」
恵美子はしぶしぶ頷いた。
「本当にありがとう。城山さん」
恵美子は力なく笑った。
「慰め方もイケメンだね」
城山はニヒルに微笑んだ。
「俺、女だけどね」