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サクッと読めちゃうTANPEN!!

君のダンスを踊れ

作者: 提灯鮟鱇
掲載日:2014/12/19

 僕は歩いている。

 なんにも無くて、誰もいなくて、とてもつまらない道をずっと一人で歩いている。

 どこまでも続く一本道。

 それは果てしなく続くようで、でもすぐに終わってしまいそうな気もする。


 赤茶色の乾いた土がわだちを作って、ずっと続いてる。

 道の両脇はどこまでも果てしなく続くきれいな草原だ。

 でも僕は何故かそっちに行く気にはなれないんだ。

 この道をずっとずっと歩き続けてきたからか、それともただめんどくさいからかは僕にもわからない。

 ただ、このきれいな草原の向こうには何も無い気がする。


 僕は歩いている。

 途中でひゅうと風が吹くこともなく、ポツポツと雨が降ることもない。

 鳥が空を横切ることも、虫が歌を唄うこともない。

 何も変わらない道を、ただ歩いている。


 どうして僕はこの道を歩いているのか、自分でもわからない。

 この道を歩いている理由なんて、いつの間にか忘れちゃったよ。

 ただポケットの中には一枚、バスの切符がある。

 僕はきっとバスに乗ろうとしているんだろう。


 バス停はまだ見えてこない。

 もう少し歩こう。


 僕は歩いている。

 今ではお父さんの顔も、お母さんの顔も、王様の顔も、神様の顔も、誰の顔も思い出せない。

 思い出せるのは自分のことだけ。

 僕はダンスが好きだった。


 小さい頃から踊りが大好きで、寝てる間とご飯を食べている間以外は、ずっと踊っていたんだ。

 だって踊っている間は本当に楽しくて、本当の自分になれるんだから。

 僕は大きくなったら踊り子になりたかった。

 踊りが僕のすべてだったんだ。

 ダンスこそが僕の人生だったって言っても過言じゃないよ。


 だから僕は一生懸命練習したんだよ。

 雨の日も雪の日も雷の日も、毎日毎日練習したんだ。

 辛くは無かったよ。

 だって僕はダンスが大好きなんだもん。

 

 そして、ついに僕は国一番の踊り子になった。

 今は顔も思い出せないけど、お父さんもお母さんも大喜びだったな。

 僕のダンスを見て、王様もとても楽しんでくれた。

 手を叩いて「これは素晴らしい」って言っていた。

 お父さんもお母さんも「お前は私たちの誇りだ」って言ってくれたんだ。

 嬉しかったな。

 夜ご飯にお母さんが、いつもの豆のお粥にお肉を入れてくれた。

 王様から沢山もらったんだって。

 とってもあったかくって、とっても美味しかったよ。

 すごく幸せだったのを覚えているよ。



 遠くにバス停が見えてきた。

 もう少しだ。



 ある時を境に僕は踊りを楽しめなくなったんだ。

 だって僕が踊りたいステップは王様が踊らせてくれないんだ。

 いつもお願いされるのは、つまらないダンスばかり。

 なんでもそのダンスは神様に捧げる踊りなんだって。

 とても退屈だったのを覚えているよ。

 毎日毎日、踊りたくも無い踊りを踊らされるんだ。


 だから僕は、たまにちょっとだけステップを変えるんだ。

 ほんの少しだけね。

 でも、そうすると神官って呼ばれてる人たちに怒られるんだ。

 時には鞭で打たれたこともあったよ。

 とても痛いんだ。

 僕は「ごめんなさいごめんなさい」って謝るんだけど、王様も神官もおっかない顔をしながら怒鳴るんだ。

 ダンスが嫌いになったのはその頃からだ。


 それから僕は病気になって、王様も僕をいらなくなっちゃったんだ。

 だから僕は毎日家のベッドに横になっていたよ。

 僕が王様からもらってたお給料が無くなって、お家はビンボウになっちゃった。

 お父さんもお母さんも必死に働いて僕の薬を買ってきてくれた。


 でもね、僕は良くならなかった。

 咳をすると血が出て、歩くことも出来なくなっちゃったんだ。

 もうダンスを踊る元気もなかった。

 すごく苦しかったのを覚えているよ。


 毎日苦しくて、お父さんとお母さんが不安そうに僕を見るんだ。

 お母さんはだんだん痩せていった。

 僕にはタマゴとかゴマとか沢山買ってきてくれた。

 美味しく作ってくれるんだけど、なんでかな、僕は全然食べられないんだ。

 一口だけ頑張って食べて「ごちそうさま。美味しかったよ」って言うと、お母さんはとても悲しそうな顔をする。


 夜になると僕がいない所でお母さんは泣いていた。

 お父さんがその肩を支えてあげてるのが、ロウソクの影で見えるんだ。

「あの子はきっと助かる」ってお父さんはお母さんを励ますんだよ。

 でもね、お父さん、お母さん、ごめんね。

 きっと僕は助からないと思うんだ。

 言ってなかったけど、昨日から目も見えなくなってきちゃったんだもん。


 それでもお母さんもお父さんも優しくって、僕を必死で看病してくれたんだ。

 きっと治るから、また踊りを見せておくれって言うんだ。

 僕の前じゃ優しいお母さんも、強いお父さんも、僕のいない所で泣いてるのを僕は知ってるよ。

 僕にとって、それが何よりも辛かった。

 愛してくれて、ありがとう。



 病気はどんどん酷くなって、僕は日に日に細くなっていった。

 毎日苦しくて苦しくて仕方がなかった。

 それでも僕はまた自由に踊れたらいいなって思っていた。

 そしたら一番最初にお父さんとお母さんに、とびきりのステップを見せるんだ。

 誰も見たことのないような、すごい綺麗なステップを。

 そしたらどんな顔をするんだろうか。

 

 いつか見せてあげたいな。

 僕のとびきりのダンスを。



 そんなことを考えながら眠ったら、僕はいつの間にかここにいたんだ。


 何もない一本道。

 果てしなく続くようで、でもすぐに終わってしまいそうな気もするヘンテコな一本道。


 体は元通りになっているけど、頭の中からは色んなものが無くなっていた。

 そしてポケットにはバスの切符。

 この切符を頼りにして、僕はあてもなく歩きはじめたんだ。

 疲れては休んで、また歩いて。


 歩き始めてから、どのくらいたっただろう?

 一時間? 一日? 一年? 百年? いや、千年かな?

 わからないけど、もうどうでもいいや。


 もうバス停はすぐそこ。

 僕の長いようで短いような奇妙な旅はもう終わるんだ。


 バス停に着くと、男の人が一人座っていた。

 長いネズミ色のコートを着て、雨なんか降っていないのに傘を持っている。

 その男の人は僕を見ると、ぽかんとした顔で尋ねてきた。


「君はあっちから来たのかい?」


 なんとも要領を得ない質問だったけど、僕は頷いた。


「すごいなあ。よく頑張ったね」


 すごいのかな?

 僕はただ気ままに歩いてきただけだからわからない。


「すごいさ。君はきっと良いことを沢山してきたんだね」


 男の人はニコリと笑って僕の頭を撫でてきた。

 なんだかとても安心する声でそんなことを言われたものだから、僕はたまらなくなって泣いちゃった。

 お父さんが「男は泣いちゃいけないんだぞ」って言ってたけど、涙が勝手に出て来るんだ。

 男の人は何も言わずに、泣いてる間、僕の頭をずっと撫でてくれた。


「ほら、バスが来るよ」


 男の人が傘でさした方から、小さなバスがやってきた。

 とても小さなバスだ。

 僕は透明人間の車掌さんに切符を差し出してバスに乗り込む。

 誰も乗っていないガラガラの席に腰を掛けると、外では男の人が笑顔で手を振っている。

 彼もバスに乗るのかと思っていたけど、乗らないみたいだ。


「僕はまだここにいるよ。今度は幸せになってね」


 男の人が窓際の僕に言うと、バスがクラックションを二回鳴らして走り出す。


「今度こそ君の好きなダンスを踊るんだよ」


 走り出したバスに向かって男の人は大きめの声で言うのが、僕にはしっかり聞こえた。

 僕は男の人に手を振った。

 見えなくなるまで手を振った。


 さっきまでのバス停がすっかり見えなくなる頃、僕は何だかとても寂しくなって、とても嬉しくなって、心の中がぐちゃぐちゃになった。

 心の中がぐちゃぐちゃになると、バスの中がとても明るくなっていくような気がした。

 何だかとてもあたたかい。

 まるでお母さんに抱かれているような気分だな。


 そしたらなんだか泣き喚きたくなって、僕は赤ちゃんみたいに泣いたんだ。

 何かを求めるように「おぎゃあおぎゃあ」って。


 そして僕は薄れながらも浮いてくる意識の中で決心したんだ。


 今度こそ僕の好きな人生ダンスを踊ろうって。

読んでくださりありがとうございました。

また別の作品でお目にかかりましょう。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今ではお父さんの顔も、お母さんの顔も、王様の顔も、神様の顔も、誰の顔も思い出せない: この一文は何となく印象深い文章でした。何か好きです。 冒頭から『思い出せるのは自分のことだけ。僕はダ…
[良い点] 明確な表現でなくとも、何が起きてどうなったのかがよく伝わってきたよ。 それだけに雰囲気もしっかりあって、童話らしい作風に仕上がってると思う。 [気になる点] 西洋の、それも昔の時代にいた(…
2014/12/20 21:18 退会済み
管理
[良い点] 切なくて泣けました。主人公が密かに転生していますね、これ。 来世では素敵なダンスが踊れますように。 ちなみに、ネズミ色のコートを着ていた男は、一体何者なんでしょうかね? [一言] 素敵な童…
2014/12/20 08:35 退会済み
管理
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