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幼馴染とストーカーとワンコ

お気に入り件数とランキングがすごいことになって驚いています。

皆様のおかげです。ありがとうございます。今日は早めに投稿します。

 無事に入学式も終わった。

 代表挨拶も兄さんがキラキラした瞳で見つめていたから、たぶんうまくいったのだと思う。いや、兄さんの反応はあてにならないか。

 後は教室へ行って、自己紹介と軽いHRで本日は終了。

 所属する特進クラスの大半は小学生のころからの知り合いばかりで特に問題もない。兄さんが事前に吹聴してまわっていたお蔭で、私が海外から帰ってくることは皆知っていて、温かく迎えてくれた。

 小学生のころの知り合いは、すでに兄さん関連で何らかのどんぱちをやらかしている。私ではなく兄さんに報復された子たちは、それ以来私に何もしてこなくなった。別に私がお相手したのに。繰り返さないように悪の芽はきっちり摘むのが兄さんの主義らしい。

 危険なのは私がドイツへ行ってからこちらに入った子たちだ。きっとそのうち色々しかけてくるだろう。兄のみならず、誠司くんとの付き合いもある。婚約者だなんてばれた日にはもう……うん、色々対策はいるな。

 外部からの編入生も一人、このクラスにはいた。透き通るような容貌の男の子だ。今里悠斗くん。うまく女装でもさせれば、さぞかし美少女になるだろう。

 憂い顔の美少女。美味しすぎる。

 でも、外部編入生とはやるではないか。

 私が言うのもなんだが、高等部の編入試験はレベルがかなり高い。

 これは切磋琢磨し合えるライバルの予感。是非とも仲良くさせていただきたいと思う。

 しかしながら、と私は小さく溜息をついた。


 ――――どうして皆が皆、そろいもそろってイケメンなのか。


 兄しかり、誠司くんしかり。そして今里くんまで。

 なんだ、有能な人材っていうのは皆イケメンだと相場が決まっているのか。

 天は二物も三物も与えるのですか。

 いいや、前世の知り合いや友人たちはそんなことなかったように思うのだけど。世界が違えば常識も変わるということか。

 担任が普通のおじさんだったことだけが救いだ。この流れだと、下手すると担任もキラキライケメンか、とまで思っていたから正直ほっとした。

 そして安堵のあまり、話を聞いていなかった。先生の名前、なんだっけ。

 ……後で確認しよう。


 とにもかくにもつつがなくHRは終了した。教師がいなくなると途端ざわめき出すのは学生ならば当たり前。

 色々声をかけてみたい人もいるのだが、今日は色々あってとても疲れてしまった。嵯峨山さんは駐車場で待ってくれているだろうし、今日は早々に帰ってゆっくりしよう。新たな友との交流はまた明日以降だ。


 とにかく今日は疲れた……。


 そう思ってそそくさと教室をでようと思ったのに、見計らったかのように一人の男の子が背中から声をかけてきた。


「久しぶり。伊織ちゃん」

「え?」


 ……『ちゃん』だと?


 驚愕のあまり思いきり振り返ってしまった。

 そこに立っていたのは、程よく整った可愛い系の顔立ちの、青い髪の男の子だった。またも違う種類の、そうだな、あえて言うなら手が届きそうなイケメン。嬉しそうに浮かべる笑顔はさわやかで、何の含みもなさそう。いつも何かをたくらんでいそうな兄とは大違いだ。

 見覚えのなかった私は、そのままの流れで首をひねった。


「ええっと。……なんでしょう。初対面、ですよね。始めまして、鏑木伊織です。あなたは私を知っているようですが、あなたは?」


 いきなり人の名前を「ちゃん」付けするような男に、クラスメイトとしての会話をする気はない。

 思い切り他人行儀な話し方に、傷ついたといわんばかりの態度を見せる彼が本気でうっとうしい。


「なんで初めましてなの。伊織ちゃん、俺をわすれちゃった?」


 訂正する。

 見た目はさわやかイケメンだったが、なんだか面倒くさそうなオーラがびんびんにでている。しかも粘着っぽい。

 見た目と口調のギャップが激しくて、こちらの様子をうかがっていたクラスメイトたちも若干引き気味だった。


「すみません。覚えがありません。失礼します」


 関わりたくない。言外にそう告げれば、彼はあわてて自己紹介してきた。


「由良。由良総太朗ゆらそうたろうだよ! 伊織ちゃんの幼馴染の! さっきも自己紹介したじゃないか。まさか聞いてなかったの。本当に忘れているなんて。俺は忘れたことなんてなかったのに、ひどい!」

「あいにくとそのような名前の幼馴染はおりませんが」

「伊織ちゃん、本当にひどいよ! 昔隣の家に住んでいた仲なのに!」


 幼馴染とあえていうなら、誠司くんが一番近い。由良総太朗なんてやつ私は知らない。

 ……ん? でもまてよ、隣の家? 総太朗?


「……もしかして、総ちゃん?」

「伊織ちゃん!」


 たっぷり間をおいて尋ねてみれば、やっと思い出してくれたといわんばかりの幼馴染。

 あー、いたわ。確かにいた。

 昔父と二人で住んでいた家の、隣の家の髪の青い男の子。

 父が再婚するに当たって母の実家に引っ越したから、すっかり忘れていた。

 当時4歳。うんそう。総ちゃんって呼んでいた覚えがある。

 よくよく見れば面影があるような気もする。しかしよく私だって気づいたな。覚えていたとしてもわからんぞ、私なら。

 本当に知り合いだったらしいので、口調を元のものに戻した。


「ごめんね。すっかり見違えてしまって全然わからなかった。あんなに小さかったのに、大きくなったねえ」

「……伊織ちゃん、相変わらずおばちゃんみたいだね」

「失礼な」


 そういえば記憶を取り戻した当初、子供の振る舞い方について悩みすぎたあまりドツボにはまり、大人のような子供のような妙なキャラになっていたような気がする。その被害は当時よく遊んでいた総ちゃんに全面的にふりかかっていたような。そんな総ちゃんに「伊織ちゃんのしゃべり方、親戚のおばちゃんみたい」といわれ、いたく傷ついたのも今はいい思い出だ。

 ……って、そんなわけあるか。現在進行形で傷口に塩塗りこまれたわ。


「総ちゃんも相変わらず。でもよくわかったね。私が伊織だって。苗字も違うのに。言ってなかったよね」


 はははと笑うと、総ちゃんは真顔で言い立ててきた。

 立て板に水とはよく言ったものだ。


「どれだけ年が経ったって、俺が伊織ちゃんのことわからなくなるはずないから。だって約束したでしょ。また会おうって。引っ越すときお気に入りのリボンをくれたよね。伊織ちゃんだと思ってずっと大切にしてる。この学園だって、きっと伊織ちゃんがいると思ってわざわざ中等部から編入してきたのに、留学中でいないし。でもようやく会えた。こうやって再会して同じクラスになれたってことは、やっぱり運命だよね。うれしい」

「いや、運命とか違うと思う」


 速攻で否定した。

 怖い! 怖いよ! 

 運命って何? 10年以上前にもらったものをいまだに持っているとか意味がわからない。

 大体そのリボンだって今思い出したが、私が引っ越すことにごねまくった総ちゃんが、どうしても思い出の品がほしいと言い出して、ほとんど無理やりもぎとっていったものじゃないか。

 彼の記憶では「私だと思って持っていて」的なやりとりがあったものに書き換わっているようだが絶対に違う。

 えー、総ちゃんってこんな人だったっけ。

 いや、4歳児の性格なんて変わって当然だからあてにはならないのか。

 でもあのリボンをもぎとっていった総ちゃんと今の総ちゃんは確かにかぶるような気も……。

 中等部から在籍していたというが、クラスの誰も彼のこの顔を知らなかったのだろう。教室は静まり返り、もはやクラス中ドン引き状態だった。


 おまわりさん、すいません。ここにストーカー予備軍がいます!


「ねえ、今どこに住んでいるの? 一緒に帰ってもいいよね? 明日から迎えに行くから登下校、一緒にしよう?」

「い、いらない。明日からの送迎は車だし。今日もちょっと色々あって、車で来ているから」

「なら俺も一緒に行っていい? 伊織ちゃんと少しでも一緒にいたい」


 もじもじと照れているがそれどころではない。

 今、ストーカー予備軍が確実にストーカーに進化したぞ!!


 何だ、この電光石火。怖い。怖すぎる。

 久しぶりにあった幼馴染がいきなりストーカーに進化って、どんな展開だ。

 誰か何とかしてくれと周りに視線を向けたが、薄情なクラスメイト達はさっと目をそらした。

 ああそう、関わりたくないってか! 私もだよ!

 昔はどうやってやり過ごしていただろう。

 思い返せば、今みたいなことはよくあった。

 ただあの時は、いつも一緒にいたいという子供特有のわがままだと思ってたしなめていたような気がする。

 言い聞かせれば素直にいうことを聞く子だったから。

 それが、大人になるとこんなに恐怖をあおるものに変化するとは、年月って怖い。でも、そうか。

 私はよしと一つ頷き、総ちゃんに向き合った。


「総ちゃん、駄目だよ。登下校くらい一人でしないと。もう高校生だし、久しぶりだからっていつまでも私に甘えていたら駄目。そんなことしなくても、これからは毎日教室で会えるでしょ。おとなしく待っていて。ね」 


 目を合わせて言い聞かせるようにいう。

 総ちゃんはぱちぱちと目を瞬かせてから私を改めて見つめると、なんだかうっとりしたような表情を浮かべて、実にあっさりと頷いた。


「……うん。分かった。伊織ちゃんがいうならそうする」


 ……思い出した。そういえば、彼にはワンコ属性もあったな。


ありがとうございました。

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