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義兄視点 里織(リオ)その1


里織りお。伊織は何時ごろ到着するんだ?」


 早朝ともいえる時間。

 暁学園高等部教室棟の最上階にある生徒会室では私と幼馴染みが二人で一生懸命書類仕事を片付けていた。

 部屋には大きなマホガニー製の円卓が据え付けられており、大人数での会議も可能になっている。だが今はこの学園の高等部の生徒会長 神鳥かんどり 誠司せいじと私がいるだけ。

 誠司は溜息をつくと、円卓の上に突っ伏した。私の顔を見上げてくる。

 そんな彼にはっきりと告げた。


「君に教えることは何もないよ。特に伊織のことに関してはね。そんなことよりさっさと仕事を片付けてくれる? 早く帰りたいんだ」


 仕事が山積みだったお陰で昨日は泊まり込みだった。

 さっさと帰りたいと誠司を睨めば、彼はうっすらと笑って言い返してきた。


「もう終わった。なんならチェックしてみればいい。どうせお前だってとっくに終わっているのだろう?」


 机に伏せたまま、くくっとくぐもった笑いを零す無駄に優秀な幼馴染。ため息をつきたくなる。


 神鳥 誠司。


 日本有数の神鳥財閥の御曹司。人当たりは丁寧で見た目は抜群。柔らかな薄い金髪にエメラルドグリーンの瞳。

 身長は180㎝を超え、格闘技で鍛えた筋肉は引き締まり、外見だけならどこぞの国の王子様といっても納得されるだろう。

 皆が知らないだけで、中身が気難しい二重人格野郎だということさえ除けば。


 渡された書類をぱらぱらとめくってみる。確かにすべて終わっているようだった。


「はあ。……わかったよ。昨日の晩には家についているはずだし、伊織のことだからもしかしたらもう学園に来ているかもしれない」

「はりきっているだろうからな。なら仕事も終わったし、出迎えにでもいくか? オレも久しぶりだが、お前も正月以来会っていないのだろう?」


 誠司の言葉に頷いた。 


「まあね。春休みだったし、せっかくだからドイツまで迎えに行こうかっていったんだけど断られたんだ。私にも用事があるだろうからこっちのことは気にしないでって。伊織こそ、そんなこと気にしてくれなくていいのに」

「らしいな。それでお前がえらくへこんでいたとお前の父親から聞いた」


 すでに事情は筒抜けらしい。

 どうせ、私がひどいシスコンだのなんだのって話になったに決まっている。

 別に否定する気はないけれど。

 この話題を続ける気になれなくて、机の上に置いてある自分のスマホを手に取った。


「電話してみるよ。場所をきいて、迎えに行こうか」


 ――――まさかの、入学式の日取りの勘違いという事態に、目の前の誠司は大笑いだった。


◇◇◇


「くっ。伊織相変わらずだ。全然変わってないな。そうだとは思っていたが安心した」


 伊織との通話を終えて嘆息していると、誠司はそう言って大笑いした。


「まあ、さすがにそうくるとは私も思っていなかったけどね」


 自信満々に「入学式は明日でしょ?」といわれたときは本当にどうしようかと思った。


「嵯峨山に連絡をいれたから、着替えさせてそのままこっちにくるよ。1時間もかからないんじゃないかな」

「ああ、了解」


 笑いながら誠司は、今日はしなくてもいい書類を手に取った。伊織がくるまでの暇つぶしだろうが、そこで仕事を選ぶあたり真面目なのかそうでないのかわからないところだ。

 誠司を目の端でながめながら窓の外に意識を向ける。桜の花びらがきれいに舞っていた。

 暁学園の桜は必ず入学式の日に開花し、いっせいに満開を迎える。

 不思議な話だが、学園が開かれて以来ずっとこの不文律は守られ続けている。

 私の入学時も。そして伊織の入学する今年も。


 ……ああ、本当にもうすぐ伊織が帰ってくる。私の何よりも大切な義妹いもうとが。


 いつでも思い出はよみがえってくる。

 私はぼんやりと桜を眺めたまま、12年前義妹ができた日のことを思い出していた。


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