里織視点 妹
こんばんは。今日は短めですので2話投稿します
「……はあ、またあいつはややこしそうなのと一緒にいたな」
ため息交じりに呟く誠司にそうだね、と返した。あの子が、ややこしそうな子に好かれるのはもはや決まり事みたいなものだ。
伊織が呼出しにあったという連絡をうけ、誠司と二人駆けつけてきたものの、すでに大勢は決していた。
泣き崩れる女生徒たちを一瞥し、伊織とおそらく助けに入ってくれたであろう1年の男を先に帰す。
何をしたのか言ったのか、伊織たちは相当ダメージを与えたようで、追撃する気はすっかり失せてしまった。
……あの子は本当に私の予想の一歩斜め上を行く。
ただ、同じことをされてはかなわないので、その辺りはきっちり誠司と二人、釘をさしておくのは忘れない。
詳細は割愛するが、彼女たちもきっと分かってくれたことと思う。
そうやって、後始末をつけて生徒会室に戻ってきたのだ。
扉を開けても、伊織はいなかった。おそらく自分の教室へ戻ったのだろう。隣の誠司が目に見えてがっかりする。
本当に分かりやすい。
周りからは理想の王子様扱いされて、自分でもそう振舞っているくせに、伊織が相手になると、途端に年相応の恋に振り回される一人の男に成り下がってしまう。そこが面白くて、つい突いて遊びたくなってしまうのだ。
「何、誠司。またやきもちやいてるの?」
はっきり言ってみる。いつもなら即座に「そんなものやいてない!」と怒鳴り返してくるのに、今日の誠司は黙ったままだ。
「誠司?」
もう一度呼びかけてやれば、ああ、と声は返してくるもののいつもとは様子が違う。辛抱強く待ってみると、ようやく意を決したように誠司は口を開いた。
「里織……伊織に告白した」
「……そう。ついに言ったんだ」
あまりにストレートすぎて、それ以外に返答できなかった。
誠司は、それこそ幼いころから伊織に惚れていた。
周りの誰もが分かるような熱中ぶりで、伊織だってさすがに気が付いていたようだ。
ただ、伊織は応える気がないようで、誠司が告白しようとするたびに、うまく躱していた。それがあまりにもうまくかわすものだから、さすがに誠司が気の毒に思えてしまったことも何度かあった。
そんな誠司がついに伊織に告白した。多分、ゴールデンウィークの時だろう。誠司の家を訪ねる数日前、結婚を進めようとする誠司に対して伊織が非常に怒っていた。これは大ゲンカになるだろうなと思っていたのだが、誠司の家から帰ってきた伊織は思いの外おとなしく、これは何かあったなと推測していたのだ。
「で、私に報告してどうするつもり?」
本当は分かっているくせに、聞く私。心底意地が悪いと思う。
「里織には話しておかないと、とずっと思っていたからな」
「そう。伊織はなんて?」
そういうと、誠司は少し苦々しい表情を見せた。これはうまくいかなかったか?
「……一年で伊織を落とせなかったら、婚約は解消すると約束した」
「……君、何してるんだい?」
呆れてしまった。だが、誠司は誠司なりに必死だったらしい。
「伊織は俺を見てくれない。期間限定でもいいからと時間をもぎとった。その期間であいつを落とす」
「そうきたか……」
話を聞けば、確かに納得できる部分はあった。短期決戦の方が伊織相手にはいいのかもしれない。のんびりしたところのある子だから。
「里織」
やけに真剣な様子の誠司の呼び声に答える。
「なんだい?」
「俺は、本気で伊織を落とすつもりだ。いいんだな? 里織」
本当に誠司らしい。いちいち断ってくるのだから。
「私に許可を得る必要はないと思うよ。決めるのは伊織だ。好きにすればいい」
「だが……お前だって伊織を!」
言い募る誠司に苦笑する。
「それを君が言うかなあ」
「……すまん。だが、血は繋がっていないだろう。お前にだって機会は与えられるべきだ」
私に対して誠実であろうとする誠司にかなわないなと思う。私の事など気にせず進めてくれれば、こちらも遠慮する必要なんてなかったのに。
「私はいいんだ」
「里織」
兄妹になってから、それこそずっと伊織を見てきた。兄妹では感じるはずのない想いを確かに抱いたこともある。だけど。この一か月、久々に伊織と暮らして改めて思ったこと。
それは――――。
「多分、私も伊織も、最後の最後は家族であることを選ぶと思うよ」
出した結論がこれ。おそらくそういうことなのだ。
私は伊織の兄でありつづけ、伊織は私の妹であり続けるだろう。それ以外の選択はできないし、しない。
かといって、誠司を伊織の恋人として認めるかどうかと言えば話は別だが。
こうなれば兄として伊織の選ぶ男をしっかり見極めたいと最近では思っている。
どうもあの子は妙な男に好かれる傾向がある。危うくて、見ていてはらはらすることも多い。
大事な大事な、それこそ目の中に入れても痛くない可愛い妹。
だからこそ、半端な男になど伊織を任せられない。
この私の手から奪っていくのだから、中途半端な覚悟で伊織に手を出されてはかなわない。
それでも、だ。
「ねえ誠司、割と私は君の味方をしているつもりなのだけど、気づいてなかった?」
よく知りもしない男に伊織を託すよりは、この不器用ながらも自分の筋を通してくる親友を、少しばかりひいきしてやりたいとは思うのだ。
続けてどうぞ。




