共通イベント 救援 由良総太朗
こんばんは。今日は昨日のイベントの続きです。
よろしくお願いします。
「総ちゃん……」
いつの間にドアを開けたのか、教室後ろ側のドアにもたれかかって腕を組んでいる男は、間違いなく私のよく知る総ちゃんだった。
予期しなかった登場に、私の周りを囲む女生徒たちに動揺が走る。
私はといえば、妙に冷静に現状について考えていた。
そうか、総ちゃんが来たか。
このイベントは好感度の高いキャラが助けにくる。私のではなく、相手の好感度だ。真面目に考えて、来てくれるとすれば誠司くんだと思っていた。一応そう思って予防策も張っていたのだが。
そっか。今一番好感度高いのって総ちゃんなのか。
「大丈夫? 伊織ちゃん。昼休みから気になっていたんだ。尾行してみてよかった」
「尾行……」
……好感度関係なかった。これ総ちゃんのデフォだわ。そういえば、昼休みあんなことがあったにも関わらず、総ちゃんが妙におとなしいなと首をひねっていたのだ。どうやら気にしてくれていたらしいのだが、やり口が相変わらず過ぎる。
ドアから離れた総ちゃんは、全くいつものペースを崩さない。とことこと、何とも言えない顔をしている私の側にやってきた。そして他の女生徒たちが動揺しているうちに、私を輪の中から引っ張り出した。
「ありがとう」
助けられたのは事実なので礼をいう。総ちゃんはにっこり笑って首を横に振った。
「本当は困っている伊織ちゃんを颯爽と助ける予定だったんだ。余計なお世話だったみたいだけどね。このままじゃ俺の出番ないなと思ってつい、でてきちゃった」
……助けるタイミング計っていたとかいったかこの男。
一応浮かべた笑顔がぴしりと固まる。そんな私の心中など知らんふりで、総ちゃんは佐竹先輩たちの方を向いた。先輩達は、ようやく気持ちを立て直したのだろう。きつい眼差しで総ちゃんと私を睨みつけていた。
「部外者を呼ぶなんてずいぶん無粋なことをするのね。鏑木さん」
ここにきて、まだ私がターゲットらしい。隣にいる総ちゃんが、ぴくりと反応した。
「部外者? ふうん」
馬鹿にするような声音を隠すこともせず総ちゃんは
「部外者ね」ともう一度復唱した。
どうやら相手が先輩であることなど、気にも留めていないようだ。
「な、なによ。事実でしょう。用があったのは鏑木さんだけだもの。あなたは関係ないわ。さっさと出て行ってちょうだい」
総ちゃんの気迫に一歩後退しながらも佐竹先輩は強気に発言する。思ったより気概あるな、この人。
「会長、この一年……」
隣にいた一人の女生徒が佐竹先輩に何かを耳打ちした。彼女がそばを離れると佐竹先輩はやっぱりと言わんばかりに頷いて、総ちゃんにむかって言い放った。
「あなたも鏑木さんにたらしこまれた男の一人なのね」
「はあ?」
思わず声が出た。いや、私に言われたわけじゃないのは分かっている。しかし、あまりにも頓珍漢なことをいうので驚きのあまり声が出たのだ。
佐竹先輩は気にした様子もなく、総ちゃんに続ける。
「悪いことは言わないから、早く目を覚ました方がいいわ。この女はあなたの他にも、何人もの男に気のあるそぶりをみせるような悪女よ。鏑木様や、神鳥様にも馴れ馴れしくして、迷惑をかけているなど露ほども思いもしない最低な女。あなたが気にかけてあげるような価値はないわ」
見なかったことにしてあげるからお行きなさいという彼女を、目を丸くしてまじまじと見つめる。
私ってそういう風に見られていたんだ。
あまりの言い分に声を失っていた私だったが、ふと隣から冷気が漂っているような気配を感じた。
何事かとそちらをむけば、総ちゃんが冷やかに笑っていた。うわ。こわっ。
「言いたいことはそれだけ?」
「え?」
地を這うような低い声に、まだ何か言いたげだった先輩は言葉をとめて総ちゃんを見た。その表情にこおりつく。
総ちゃんは、笑っているのに笑っていなかった。
口元だけは笑みを浮かべたまま、怒りをあらわにし、一歩ずつ先輩の方に歩み寄っていく。
佐竹先輩も様子をみていた他の女生徒たちも恐怖のあまりじりじりと後退してしまう。
「俺、いい加減にしなよっていったよね。お前たちのくだらない妄想を聞くのはもううんざりなんだけど。いつになったら無駄口叩くの、やめてくれるのかな。いい加減本気で不愉快だ」
「な、私は妄想だなんて……」
「そ、そうよ」
佐竹先輩たちは後ずさりながらも自分の主張の正しさを訴えた。しかし、怒り狂った総ちゃんには火に油を注ぐみたいなもので。さらに間を詰めながらせせら笑う。
「妄想でなければ何。どちらが言い寄っているのかなんて、見ていれば誰でもわかるよ。一目瞭然でしょ。それともそんなこともわからないくらい馬鹿なの」
自分たちが認められないだけだろ。吐き捨てるように言う総ちゃんの口調が少し変わったことに驚く。
「……本当に馬鹿。どう見たって、伊織ちゃん、俺たちに言い寄られて困っているだけだろ。会長たちだってそうだ。構いたくて仕方がないのはあっちだろう。自分たちが相手にされないからって、その相手に矛先向けるのがお前らのやり方か? お門違いだってことすらわからないのか?」
呆気にとられた。こんな総ちゃん見たことない。
……そして、そんなことよりも総ちゃん……わかっていたんだ。
そう思った瞬間、いろんなものが腑に落ちた。ストーカー発言を繰り返す総ちゃんに、怖いと思いつつもどこか本気で拒否できなかったこと。ヤンデレのごとき執着を見せる彼に、最後通告をだせなかったこと。
――――そっか。
よく考えてみれば、総ちゃんはいつも最後の最後にはひいてくれていた。もうこれ以上は無理だと思う前で、いつもすっとひいてくれていたのだ。それは、彼にワンコ属性があるからだと単純に思っていたけれど、多分そうじゃなくて。
佐竹先輩たちを糾弾する彼を、知らない人を見るような気持ちでぼんやりと眺めた。
「お前ら、鬱陶しいんだよ。……なあ、あんまり伊織ちゃんの周りうろつくようなら……殺すよ?」
「ひいっ」
目障りな小蝿は始末したほうがいいよな、と笑う総ちゃんに顔を覗き込まれ、佐竹先輩は床に座り込んでしまった。がたがたと体が震えてしまっている。他の子たちも同様だ。中には泣き出してしまった子もいた。
そんな彼女たちを全く気にした様子のない総ちゃんの顔には、今や狂気の表情が浮かびあがっている。
今までの私なら一緒になって震えていたかもしれない。でも、さっき気が付いてしまった。
「総ちゃん、もういいよ」
できるだけ、軽く声を掛けた。私の声に振り向く総ちゃんの顔にはもう先ほどの狂気は見えない。
ああ、やっぱりそうなんだね。
「伊織ちゃん。……でも、こいつらちゃんと始末しとかないと、また同じことやるよ」
「始末って大げさな。大丈夫」
そう言って、私も先輩たちの方へ近づく。そうして
「これ、なあんだ」
自分のスマホを見せつけた。
「スマホ……? それが何?」
総ちゃんの恐怖が未だ消えない佐竹先輩は、それでも何とか私の示したものに反応を返した。
私は頷く。
「正解です。それでは次の質問。私はあなた方にこちらへ連れてこられる前、先約がある。そういったのを覚えていますか?」
戸惑いながらも頷く彼女たちに、話を続ける。
「それでは、私は一体誰と約束していたのでしょう。先輩方が、お名前を出しても構わないとおっしゃったので、遠慮なく出させていただきましたよ。『佐竹先輩方が、何かお話があるそうなので生徒会室に行くのが遅れます』って」
目を見開いて驚愕する彼女たちにスマホを振る。
ちなみに既読マークがついた後、即座に返信がきた。
『すぐにいく』
この5文字が全てを物語っているだろう。
「せめて先約は誰か聞けばよかったのに。ご存じだとは思いますが、私はこれでも生徒会役員です。放課後、生徒会室へ行くのは当然でしょう? 少しもその可能性を考えませんでしたか?」
「だ……誰に……」
まだ、信じたくないのだろう。INELの相手を聞く彼女に答えを返した。
「生徒会長と、副会長です。今日約束していたのはこの二人でしたから」
今日悠斗は病院の検査だったし、奏さんは婚約者との約束があった。特に強制力のある集まりではなかったのだ。単に朝方兄たちに約束させられただけ。暇だったので頷いただけなのだ。
「ちなみに今までの会話はすべて録音しています。後で兄さんたちに、遅刻した証拠の品として提出させてもらいますね?」
首をかしげてにっこり笑う。相当私もストレスがたまっていたみたいだ。やり口が兄に似てきた。いやだなあと思いながらもスマホをしまおうとすると、後ろからさっとそれを引き抜かれた。
「あれ」
「あれじゃないよ、伊織」
「お前は目を離すと、本当にろくなことをしないな」
場所を特定した兄と誠司くんが、いつの間にか私の後ろにいた。
慌てて奪われたスマホを取り返そうとするも、兄にしまいこまれてしまう。
証拠の品だからね、後で返すよと言われればそれ以上何も言えなかった。
誠司くんは少し怒ったように、こっちにこいと手招きしてきたが気が付かなかったふりをした。
「どうも、私の妹が世話になったようだね」
すでに総ちゃんにほとんど息の根を止められていた先輩達は、さらなる追撃に顔を青ざめさせる。自分たちが所属するファンクラブの、その本人からのまさかのお叱りだ。生きた心地もしないのだろう。誠司くんも怒りをあらわにして、兄の隣に並んだ。
そのままおしおきが始まるのかと思いきや、兄は振り返りもせずこういった。
「伊織、そこの彼と先に行っていなさい。私たちは、少し彼女たちに用があるから」
死刑宣告だ。そう思った私は素直にうなずいた。
「はい。兄さん」
自業自得。そのまま、総ちゃんの腕をつかんで外へ出る。総ちゃんは意外におとなしく、黙って私についてきてくれた。どこに行ったものやらと思いつつ、自分たちの教室に戻る。かなり時間が経っていたらしく私たち以外には誰もいなかった。
「ああ、疲れた」
自分の席に突っ伏してしまった私をみて総ちゃんが「大丈夫?」と聞いてきた。
それに片手をあげて答える。顔を上げ、総ちゃんに改めて礼を言った。
「来てくれてありがとう」
「……俺たちのせいで伊織ちゃんがひどい目にあうのはおかしいから」
ふいっと視線をそらしてしまう。よく見ると耳が赤い。照れているのか。
しばらく無言になってしまった。それでも居心地の悪さは感じない。窓から入ってくる風が心地よい。まさか、総ちゃんがそばにいて、そんな風に思えるとは思わなかった。
総ちゃんを横目で伺う。彼はじっと空を見つめ、考え事をしているようだった。そうやっていると、ゲームでみた幼馴染の彼そのものだ。
彼は、総太朗は面倒見のいいやさしいお兄ちゃんだった。最初から主人公のことが好きで、好きな子の力になりたいと一生懸命な男の子だった。
そういえば、さっきの総ちゃんの口調はゲームの総太朗のものと似ていたような気がする。そんなことを思い出した。
……そっか。彼もここにいるんだ。
総ちゃんをみていると、自然とそう思えた。
先ほどの件を考えても、彼はおそらく自らやっていることをきちんと理解している。
だからこそ、言葉だけで実行しなかったり、ぎりぎりで止めてくれたりするのだ。
……そう、まだ踏みとどまれる。
怖い怖いと思いつつも、私が本気で逃げなかったのはそのせいだ。
本物とは違う。考えてみればそうだ。
もし総ちゃんが本物なら、あんなもので止まるわけがない。私は本物(前の夫)を知っているではないか。彼は分かっていても止まらなかったし、止まれなかった。
とっくの昔にブレーキが壊れてしまっている彼と、踏みとどまれる総ちゃんとでは、比べものにならない。
だから、多分だけど総ちゃんは戻れる。
どうやったら戻れるのかはまだわからないけど、それならブレーキが壊れてしまう前に協力してあげたいと思う。
「総ちゃん」
声を掛ければ、考え事をやめてこちらを振り返る。
「一緒に頑張ろうね」
そう声を掛けると、何のことか分からないという顔をしながらも「そうだね」と頷いてくれた。
その後、いつものヤンデレストーカー発言が飛び出した彼に、やはり矯正は無理なのかもしれないと一瞬諦めそうになってしまったのは、まあお約束である。
なんというかまあ、今の総ちゃんは基本こういう人だから。
ありがとうございました。




