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5月GW 政略結婚の是非

こんばんはー。今日もよろしくお願いしますー。

昨日とは逆で今日は少し長めです。でもきるところがなかった……。

今夜のターンは誠司くん。彼の存在も思いだしてあげてください。

 もうすぐゴールデンウィークに入る。珍しく家族4人そろった食卓で、私たちはそれぞれの予定を話していた。


「父様たちは、仕事?」

「ああ、ロスの方にな。伊織の予定は?」


 当然、母も連れて行くらしい。仲が良くて結構なことだ。


「んー、私は誠司くんの家に行く予定が一日だけ。後はピアノ弾いて、勉強しているつもり。兄さんの予定は?」


 婚約者の義務というやつだ。定期的に顔をださねばならない。


「私は、音楽科全員参加の合宿だね。といっても二泊三日ほどだからそう長いわけでもないけど。暇なら伊織もくるかい?」

「音楽科じゃないし。行かない。全員ということは、奏さんも行くの?」


 せっかくの兄の誘いだが断る。奏さんは、実は兄と同じ音楽科。楽器はハープをやっている。

 興味ないわけではないが、合宿は確か固定イベントの一つだった。誰が行くか。


「勿論。生徒会からは、私と奏だね。あとディアス先生が監督者としていらっしゃるよ」

「……そうなんだ」


 やっぱり行かなくて正解。私の知る限り、ディアスは10キロを関係なく行き来できるみたいだ。本当にいったいどうなっているのか、聞いてみたいけど絶対聞けない。


「ディアス先生というのは、理事長先生のことかしら?」


 気になったのか母が声を掛けてきた。


「うん。そうだけど。知ってるの?」

「有名な先生よ。校長も兼任されてて、できないことはないって言われているの」


 まあ、そうだろうな。


「ふうん」


 どうでもよさげに答える私に、母は逆に興味がわいたらしい。


「あら、興味なさそうね。先生は男前でしょう?」

「確かに好みの顔だけど。興味はないよ」


 そういうと、今度は兄が話題に乗っかってきた。


「伊織はああいう顔が好みなのかい? てっきり今里くんがお気に入りだと思っていたんだけど」

「あら、伊織にはすでにそういう人がいたのね」


 素敵。と目をきらきら輝かせる母。兄が余計なことをいうから面倒くさいことになった。


「違うから! 兄さんまで変なこと言わないで。本当に興味ないって。悠斗は単なる友人。それだけ。見ていればわかるでしょうに」


 声を張り上げて主張すると、兄はいじわるく笑った。


「ま、そうだろうとは思っていたけどね。勘違いするバカもいるから一応確認」


 兄の言うバカは一人しかいない。

 え、なんであれで勘違いできるの。そんな風に見える?

 でも兄がそういうと母はますます嬉しそうになった。


「誠司くんよね。伊織、本当にあなたは愛されているわね。先日も早く結婚したいから、伊織が16歳になったら先に籍だけでも入れていいかって聞いてきたわよ!」

「はあ?」


 誠司くん、私に黙って一体何してくれているの。

 確かにこのままでは、外堀から埋められてしまいそうだとはおもっていたけれど。

 今、私は15歳。誠司くんは夏で18歳になる。私の誕生日が3月だから……約一年後!?


「母様! 勿論断ってくれたよね!」


 必死に、訴える私に母はのんびりしたものだ。


「あら? 伊織は誠司くんとの結婚はいや?」

「当たり前! 知っているでしょ。婚約だって話の流れ上、仕方なくしただけだし。なんでこんなことになっているの」

「伊織が愛されているからじゃないのか?」


 いいじゃないかと口を挟んでくる父に殺意を覚える。


「父様まで! 何言っているの!」


 どこまで根回し済ませているの! 誠司くん!

 本気で怒った私に、さすがにこれ以上はまずいと思った母は落ち着けとばかりに口を開いた。


「大丈夫よ、伊織。ちゃんと、せめて伊織の卒業までは待ってあげてねって言っておいたから」

「全然大丈夫じゃない! 執行猶予がついただけじゃないの!」


 全く分かってないじゃないか!


「そんなにいやなら、伊織も恋人の一人でも作ればいいのよ」


 何でもない事のようにいう母。そんなことできるわけがない。いろんな意味で高校在学中に恋人など作る気は毛頭ない。


「そんな予定全くないし」

「なら、自分でなんとかしなさい」


 言われて黙り込む。誠司くんに諦めてもらうには母の言う通り、恋人を作ってしまうのが一番だ。それは分かっている。きっと私に相手ができないから向こうも引くに引けないんだと思うから。


「どうしたらいいの」


 うなだれる私に兄は一言。


「伊織は誠司を甘やかしすぎだよ」


 だから、つけあがる。

 嫌ならもっと毅然とした態度で接しなさいと、全くもってもっともなことを兄は言った。


◇◇◇


 そうこうしているうちに、ゴールデンウィークに突入した。

 父たちは、今朝方出張にでてしまったし、兄は合宿へ行ってしまった。

 私はといえば、ひたすら勉強に励み、ピアノを弾くという毎日を送っている。

 今日は午後から誠司くんの家に行く予定がある。そろそろ用意しなくてはと、数学の問題集を閉じ立ち上がった。

 ――――今日は、誠司くんを甘やかさない。

 先日、兄にたしなめられたことを受け、私なりに考えてみた。

 確かに私は誠司くんには甘いところがある。それがいらぬ誤解を生む要因の一つになっている可能性も否めない。ならば、やはりそれなりの対応をするようにしなければならないのだ。

 決してないがしろにするつもりはない。誠司くんならきっと私の意図するところに気付いてくれるはずだ。恐ろしく勘のいい男だから。

 お気に入りのワンピースをクローゼットから取り出す。Aラインの薄いブルーのワンピースはドイツにいた時に一目ぼれして衝動買いしたものだ。シルエットがすっきりしていてとても気に入っている。

 後は、軽くメイクして終了。

 さっさと用意をして時間をみると、まだ余裕があるようだった。もう一問くらい、問題解けたなと残念に思いながら仕方なく部屋を後にした。

 誠司くんの家は、近所にある。私たちの住んでいる地域一帯は、いわゆる富裕層が集まっていて、実は奏さんも、悠斗もご近所さんだったりする。

 歩いていっても問題はないのだが、犯罪などを考慮して車で行くように、とあらかじめ兄に念押しされていたので、嵯峨山さんに車をだしてもらった。

 

「伊織」


 車を降りたところで声がかかる。そちらの方を向くと、誠司くんが玄関先まで迎えに来てくれたようだった。「よくきたな」と笑顔で手を差し伸べる。


「こんにちは。誠司くん。お邪魔します」


 挨拶して、その手をとる。

 そのワンピース、よく似合っている、といわれて嬉しくなるがここでほだされてはいけない。

 今すぐにでも、先日聞いた結婚の話をしてやりたいが、今ここでするべき話題ではないことくらいは分かっている。後で絶対に問い詰めてやるという気持ちはとりあえずしまっておいて、おとなしくエスコートされることにした。

 いつものリビングに通される。


「伊織さん、いらっしゃい」

「よくきてくれたね」


 今日ばかりは、誠司くんの両親も揃っていた。息子の婚約者の久方ぶりの訪問ともあって、重い腰をあげたらしい。私と誠司くんが結婚することをこの二人は昔から強く望んでおり、そのために不本意ながらも互いに協力しているようだ。

 鏑木といっても、私連れ子だからあまり価値はないと思うのだけれど。

 こちらの夫婦仲は変わらずブリザード状態。誠司くんに対する無関心さも一時ほどではないが、あまり変わっていない。それでも、それを私が知っているかどうかは置いておいたとしても、一応こういう場では取り繕うくらいはするようだ。

 

「こんにちは、おじさま。おばさま。ご無沙汰しています」


 挨拶と社交辞令のやりとりをお互い交わす。となりにいる誠司くんをちらりと観察すれば、見事なくらいの無表情が出来上がっていた。怖い。

 誠司くんがこんな様子なので会話の主導権は期待できそうにないなと、しばらくドイツでの話や学園の様子などを話す。

 おじさま方は何度も満足そうにうなずいた。どうやら合格点をいただけたようだ。そうして、お茶菓子をいただき、紅茶を飲み一息ついたところで、おじさまは誠司くんに向かって、まるでついでのように爆弾を落としていった。


「誠司。式はいつごろを予定している」


 思わず、飲んだ紅茶を吹き出しそうになった。


「伊織さんの卒業を待ってすぐ、と考えております」


 誠司くんも何でもない事のように答える。


「そうか。入籍は?」

「はい。僕としては、入籍だけでも早めに済ませたいと思ったのですが、あちらのご両親にそれは少し待つようにと言われました」


 残念そうにいう誠司くんに、あごに手をやり少し考える仕草をみせたおじさまは頷いた。


「ふむ。分かった。こちらもそのように予定しておこう」

「時期が早まれば、また改めて連絡いたします」

「そうしてくれ。お前の手腕を期待している」


 親子とも思えない会話が淡々と続いていく。

 私はと言えばあっけにとられて何も口をはさめず、ただただ驚きのあまり固まるだけ。え? その話、そちらのご両親も了解済みな話だったの?

 あとで、怒鳴りつけてやろうと意気込んでいた私の気も知らず、さらに話は進んでいく。

 その後、いくつかの話が父親と息子の間で交わされ、機嫌よさ気におじさまたちは退席していった。

 リビングに二人残される。

 先ほどからずっと、膝に両手を置き、うつむいたままの私に誠司くんが話しかけてきた。


「伊織。俺の部屋に行こう。ここは息が詰まる」


 きっちり上まで止めていたシャツのボタンを二つほど外し、わずらわしげに言う。

 どうやら、先ほどから無言のままだった私の怒りに気付いていないようだ。いや、この男の場合気が付いて無視をしているという可能性もある。


「……」


 無視なんてさせるものか。立ち上がる気配のない私に誠司くんが、もう一度声を掛ける。


「伊織?」

「……どういうこと」


 かつてないくらい低い声が出たと思う。伏せていた顔を上げて、ぎろりと誠司くんを睨みつける。


「さっきの話はどういうこと? うちの親に言ったことも。ちゃんと説明してくれるんでしょうね」

「わかったから、落ち着け。まずは俺の部屋へ行こう。話ならそこで聞いてやる」


 ここでは話す気がないという誠司くんの態度にイラつきながら、仕方なく立ち上がる。今日は絶対にひかないと思いを新たにして彼の部屋に向かった。


◇◇◇


「で、私に何の話もなく、なんでこんな急な話になっているの?」


 部屋につくなり、詰問口調でつめよる私に誠司くんは何でもない事のように言った。


「急な話でもないだろう。元々俺たちの婚約は高校卒業と同時に結婚という形でされていたものだ。むしろそろそろ、そういう話が出るのが当然だと思うが」


 しれっという彼にイライラは頂点に達していた。言いたくなかったが、これは本当にはっきり言わないとわからないのかもしれない。


「……そういうことじゃない。私は誠司くんと結婚する気はない。そんなこと、誠司くんはとっくにわかっていたでしょう」

「家同士の結婚がどういうものなのか、ということもお前は知っていると思ったが」

「それを一番嫌っていたのは誠司くんじゃない!」


 感情が爆発した。両親の政略結婚の結果、一番傷ついたのは彼だった。そんな彼が政略結婚を肯定するような発言をしたことが信じられなかった。


「落ち着け、伊織」

「うるさい! 誰のせいよ!」


 冷静になだめてくる彼の態度にも腹がたつ。癇癪をおこしている自覚はあったがとめられなかった。


「別に俺は政略結婚でもいいと思っている」

「なんで! あんなに傷ついたのに!」


 誠司くんのセリフが信じられない。睨みつけながら言うと、誠司くんはそこに初めて感情らしきものをにじませた。


「……相手がお前ならな」

「え……?」

「他の誰が相手でも絶対にしないが、お前が手に入るのなら政略結婚も悪くない。むしろ労せず確実に手に入るのだから大歓迎だ」

 

 目元がやさしくにじむ。薄く笑って、動けない私を引き寄せた。


「好きだ。伊織」


 耳元でささやくように言う。


「ずっと言いたかった。お前はずるくて、絶対に言わせてくれないから。でももう時間切れだ。お前の周りに俺以外の男がいることに俺が耐えられない。俺のモノだと、安心させてくれ」

「あ……」


 ……ついに言われてしまった。

 断らないと。そう思って口を開こうとするがなぜか言葉がでない。

 誠司くんの気持ちは嬉しい。そこまで私を思ってくれたこともすごく有難いと思う。でも、駄目なのだ。

 ありったけの気力を振り絞って声を出した。


「……ごめん。無理だよ」


 言葉と同時に強く抱きしめられる。痛い、と訴えたが無視された。拘束力はより強くなる。


「別に今俺を愛してくれとは言わない。いつか必ず俺を好きだと言わせてやる。だから……」

 

 懇願する響きに泣きそうになる。どうしてそこまで。


「なんで。なんで私なの」


 腕の中で首をふる私の後頭部を、誠司くんの右手がやさしくなでた。


「心を閉ざしていた俺を、助けてしまったのはお前だろう。助けたのなら最後まで責任とって一緒にいてくれ。今更、俺からお前を奪おうとしないでくれ」

「あんなこと、私じゃなくたって」


 できた。私である必要はなかったはず。ただ、私がおせっかいだっただけ。


「……お前じゃないと無理だった。お前だから俺は救われたんだ。伊織、あの時からずっとお前だけを想ってきた。頼む。俺を否定しないでくれ」

「私、誠司くんに対してそういう気持ちは持っていない。誠司くんもわかっていたでしょう?」

 

 悄然として言えば、誠司くんは頷いた。


「わかっていたさ。でも、どうしようもない。相手が自分を好きじゃなかったら、それで諦められるのか? そんなものは、好きとは言わない」


 そのとおりだ。誠司くんが正しい。


「伊織、俺にチャンスをくれ」


 真剣な声が頭上で響く。


「今まで俺は、お前に好きだということすら許されなかった。だから、チャンスが欲しい。次のお前の誕生日までに、俺がお前に好きだといわせることができなかったら、婚約は解消すると約束する。だから、それまでは婚約者のままでいてくれ。俺にお前を口説く時間をくれ」


 頼む、と消えるような声が彼の本気を感じさせ、涙がにじんだ。

 ……私は彼にずいぶんとひどいことをしてきた。

 告白してくれればいいのにと言いながら、告白させる機会さえ与えなかったのは、私だ。ここまで彼を追い詰めてしまったのは、多分私なのだ。

 彼の本気をあしらい続けてきた、これが結果なのだろう。


「……わかった」


 それでも、卒業までといわず約一年という期間にしてくれた。婚約解消という私の願いを残してくれた。そんな彼に、少しでも応えてあげることができるとすれば、それは黙って頷くことだけ。


「ありがとう」


 ほっとしたような声。緊張していたのだろう。私を抱きしめる腕はわずかに震えていた。


「……お互い様だよ。今までごめんね。誠司くん」

「今、伊織がチャンスをくれたから大丈夫だ。伊織、愛している。絶対に俺を好きだと言わせてやるからな」 

 

 早くも通常状態に戻った誠司くんに苦笑する。


「今だからいうけど、私の理想は『普通の人』だよ。誠司くんに叶えられるとも思えないけど」

「なんだそれは。普通ってどういう状態だ?」

 

 理解できないというふうに首をかしげる誠司くんに説明する。


「具体的にいうと、良くも悪くもない容姿に、適度に良い頭脳。職は公務員を希望って感じかな。性格は真面目で穏やか。一途な人がいい」

 

 初めて明かした私の理想に、誠司くんは眉をひそめて考え込んだ。


「お前は、そんなつまらない男が好きなのか?」

「失礼な。人の好みにケチつけないで」


 むっとしていうとぽんぽんと頭をたたかれた。痛くないけど、それよりそろそろ抱きしめている腕を離してくれないかな。


「だが、そうなると今里やディアス先生なんかは範疇外か?」

「あ、それ。兄さんから聞いたんだけど、悠斗のこと誤解してたんだって?」


 そうそう。それも聞こうと思っていたんだった。


「あんな見せつけられたら誰だってそう思うだろう。何をするにも一緒に行動して。腹立たしい」


 だから牽制した。という誠司くん。

 悠斗に対する態度の変化はそれか、と納得すると同時にやっぱり勘違いしていたんだなと思う。


「悠斗はただの友達」


 はっきりいうと、むすっとしながらも頷いた。


「みたいだな。里織が何も言わないからおかしいと思ってはいたんだ」

「前に話したけど、兄さんは分かっていたよ。聞いた時はまさかと思ったけど、本当に勘違いしていたなんて」


 余裕がなかったんだという誠司くんに、くすりと笑う。なんだろう、このやり取り。

 駆け引きなく、自然体で話せることがすごく楽しいし、嬉しい。


「今回の件を進めることになった要因の一つではあったな。まあ誤解だったのならいい。結果として、俺はお前を口説く権利を手に入れたわけだしな」


 そう言って、さっきから逃げようともがいていた私を抱えなおした。

 そのまま自然に頭に口づけられる。


「なっ……なっ……」


 言葉にならない私に意地悪く笑う誠司くん。


「大丈夫だ、伊織。理想と現実は違うってことを俺が一年かけてじっくり教えてやるから」


 楽しみに待っておけ。


 にやりと笑みを浮かべる誠司くんに、少しでも仕返ししてやりたいと思った私は、その隙をついて思いきり膝蹴りを叩き込んでやった。

 予想外だったのだろう。悶絶してうずくまる誠司くんを尻目に、じゃあねと鼻息も荒く部屋をでた私は、それでも決して悪い気分ではなく、多分笑っていたと思う。


「ばかだなあ」


 彼も、そして私も。

 色々変わってしまったからわからないけど、でもきっとこれはイベントなんかじゃない。そんな約束されたものじゃない。彼が自力で引き寄せたものだ。

 だから私はそんな彼に応えるために、これから3月までという期間、真剣に誠司くんと向き合ってみようと思った。







ありがとうございました。


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