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伊織と悠斗

本日更新分です。いつもありがとうございます。



作者は大阪生まれの大阪育ちです。(しかも汚い言葉と有名な方)

ゆえに悠斗の関西弁に対する、「この言葉はおかしい」等々のご指導は総スルーいたします。……完全に地元の言葉です。

予め、ご了承ください。でも、読みにくかったらゴメンナサイ。

 


 自分が転生者であるという告白をした私を、今里くんは凝視してきた。

 そして確認するかのように聞いてきた。

 

「転生者? あんたも?」

「うん、そう。今里くんもだよね。……冗談みたいな話だけど、私がここがゲームの世界だって気が付いたのは二日前なんだ」

「二日前……って入学式かよ。何がきっかけだ? あれか、オープニングスチル。確か校門に桜吹雪のスチルがあっただろ」


 彼の言葉に入学式の日の事を思い出しつつ頷いた。 


「ああ、あの既視感はそれか。気づかなかった。うん。オープニングスチルであってるよ。でも、私の場合は真相ルートのスチルだったけどね」


 あっはっはと遠い目をして笑うと、今里くんは思い切り目を丸くした。


「は? 真相ルートって……もしかしてあんたディアスと会ったんか!? なんでや。あれは、中庭で歌わないとルート分岐せんやろ?」

「今里くん……言葉」

「ああ?」


 どうも彼は興奮すると関西弁がでるらしい。指摘してみるもののあっさりスルーされた。


「そんなんどうでもええ。どういうことや」

「えーと……」


 説明しろと詰め寄られ、私の方がたじろいだ。

 あれ? 今まで私が怒っていた筈では?

 それでも不穏なオーラを醸し出しはじめた彼の質問に、私は簡潔に答えた。


「……いや、まあ、歌ったから?」

「だからなんでやねん」


 今里くんの追及の手は緩まない。

 私は真顔で更に言った。


「そこにピアノがなかったから?」

「意味がわからん!」


 頭をかきむしって机につっぷす彼に、私はピアノ留学をしていたくだりを説明した。彼ははーっと大きく溜息を吐く。


「それでなんで代わりに歌おうと思ったのかがわからんわ……」


 疲れたようにいう彼に「なんとなくかな」と答えると更に盛大なため息をつかれた。


「よりによって、真相ルートのフラグたてるとか。……まあでもええわ。それならヒロインのあんたに聞きたいことがあってん。まさか転生者と思ってなかったから、直接聞くわけにはいかんと思ってたんやけど……」

「ん?」


 言葉を切ってこちらを真剣な顔で見つめてくる。


「何?」

「あんたは誰のルートを攻略しようとしてんの?」


 やっぱりディアスルートなん? そういわれ、ぶんぶんと思い切り首を振った。


「そんなわけない! これは不可抗力だってば! ……大体私、誰を攻略しようとか思ってないよ。私の目標は成人後、フツメンと恋愛結婚することだもの!」

「……あのさ、俺、真面目な話してんやけど」

「私もだって!」


 じと目で睨まれたが、私は何時だって真剣だ。


「冗談にしか聞こえんねんけど。……じゃあ、逆ハーとかも狙ってへんねんな?」

「勿論。それに――――」


 確認されて頷くも、私は首を傾げた。


「このゲームに、逆ハールートなんて存在しないよ?」


 知らないの? そういえば思い切り驚かれた。


「ほ、ほんまか?」

「うん。嘘吐いても仕方ないでしょう」

「そ、そらそうやけど……じゃあ俺、姉ちゃんにだまされとったんか……」


 俺の長年の苦労はいったい……。とうつろに呟く今里くん。

 今里くんは改めて私を見つめてきた。


「なあ? ならあんたは別に、俺の今里悠斗ルートを攻略しようとか思ってへんって、そう思っててええねんな?」

「え? うん。考えたこともないけど」


 興味もないよ。そう答えると、今里くんは「はー」と盛大に息を吐きだし、力のない笑みを浮かべた。


「そっか。なら、完全に俺の杞憂やったってわけか。……あのさ、俺のルートってエンディングが二種類あったやろ。手術して長年患っていた病が完治する恋愛エンドと……手術失敗で死ぬデッドエンドが」

「あ、ああー」


 彼に言われて思い出した。そういえばあった。薄幸の美少年、今里悠斗のルート。

 彼は生まれた時から病に苦しめられている。

 長年海外を転々として手術をいくつもうけてきた彼は、その最後の手術を日本で受けることになっている。そのために帰ってきたのだ。

 彼のルートは主人公と彼が苦しみを分かち合い、支えあい最後の手術に挑むという話だった。

 好感度が一定以上であれば手術は成功。彼は健康を取り戻し、主人公と共に生きていくことを誓う。これが恋愛エンドだ。だが好感度が足りないと手術は失敗。

 術中に死亡というデッドエンドになる。

 このゲーム、ディアスルート以外の唯一のデッドエンドだった。


「あ、もしかして、デッドエンドを回避したかった……とか?」


 恐る恐る尋ねると今里くんは重々しく頷いた。


「そう。俺は生まれた時からこの記憶があったからな。絶望したでー。転生してきたはええものの、何を間違ったか乙女ゲーの攻略キャラやし、病弱でろくに動くこともできひんし。うまく生き延びられたとしても、ここへきて攻略失敗になったら死ぬとか。なんの冗談かと思ったわ」


 うん、確かに。真顔で同意するように肯く。今里くんはちらりと私に視線を向け、話を続けた。


「ルートに入らんのならええと思ってた。他のどのキャラ攻略しても悠斗が死んだ記述がなかったからな」

「ああ、そういえばそうだね」


 気にしたこともなかった。

 少し気まずいなと思っていると、彼はずばり言った。


「考えたこともなかったって顔してんな」

「う」

「気にしてへん。まあ、実際そんなもんやろしな」


 軽く流しながら、今里君は何かを思い出すような目をした。


「俺だってそうや。けど死にたくなかったから必死で思い出した。攻略キャラに選ばれたらどうしようって、毎日びくびくしてた」


 それがはなから色々違ってたから驚いた、という彼に苦笑いした。それは多分に私のせいだ。


「どのルートでも悠斗が総代のはずやのに、壇上にはあんたが立って挨拶してるし。攻略キャラたちはことごとく性格が違うし、何がおこってるんやと思った。これは他に誰かがいて、何かやってるなって思ってめちゃくちゃ焦った」

「ごめんね。総代になれたのは、必死で勉強したからなんだ」

「そうなんか?」

「うん」


 後悔したくないからとはいえ、本当に頑張ったと思う。

 今里くんは不可解だと言わんばかりに首を傾げた。


「勉強したって言うたって、入試はかなりのレベルやったやろ。俺だってこうなるとわかってたから、スペック追いつかせなって思って、かなり勉強してきたんやで?」

「ごめん。それは前世からのずるかな。私は土台があったから」

「土台ってなんや?」


 前世で卒業した私大の名前を言うと、驚いた目を向けてきた。


「めっちゃ頭ええやん。それでさらに勉強て……頭ええやつが努力するとか、勝てるわけないやん」


 はあーとうなだれる彼に嬉しくなった。


「ありがとう」

「は? なんで」

「だって、私が努力したって認めてくれたんでしょ。嬉しい」

「――――っっ! うるさいわ。…………ああそういや聞きたかったんやけど、なんであんた鏑木なん。たしか小鳥遊ちゃうかった?」


 にっこり笑えば、焦ったように話題を変えてきた。


「簡潔に言うと、私のせいで再婚時期が早まったから」

「どういうことや?」


 父と母の再婚の経緯を説明するとかなり驚かれた。

 ぶつぶつと呟く。


「つまり固定フラグは存在しないって考えてええわけか。元の流れに戻る強制力が、特に働いているようでもないみたいやし……だから大幅に話がかわったと……あーそうか」


 ……強制力がなかったから、私は今歌えないんだけどね。

 とりあえず、つっこまれるまでは黙っておこう。


「ねえ、私からも質問いい?」


 一人考え出した彼に、手をあげていう。

 うなずいた彼にずっと疑問に思っていたことを投げかけてみた。


「今里くんは、どうしてキャラが違うの?」


 知っている流れにたどり着きたかったのなら、できるだけその通りにしようとするはずなのに。今里くんは気まずげに頬をかいた。


「あー、それはなーっていうか、転生者同士、仲間やろ……悠斗でええよ。俺も伊織って呼んでええかな?」


 呼び名のことをいわれ、頷いた。続きをうながす。


「キャラはな……俺も聞きたかったんやけど……やっぱかなりちゃうか?」

「……どこのだれかと思った」


 正直に答えると、やっぱりかーとうなだれた。


「……俺な。悠斗ルート、実はやってへんねん。姉ちゃんからルートの話は聞いてたから、流れは知ってるんやけど……個別ルートやってへんから、悠斗のキャラがつかめんままやってん」


 だから、どうにもならんかったという悠斗に首をかしげる。


「え? でも真相ルート知っていたよね。あれって全キャラクリアが条件だよ?」


 そういえば、視線をそらして言いづらそうに告白してきた。


「すまん、姉ちゃんのコンプデータ使った」

「はあ!? ふざけてんの!?」


 思わず詰め寄った。


「何やってるの、あんた。制作会社に謝れ! そんなずるしてゲームしただなんて! 私がどんな苦労して全ルートクリアしたと思っているのよ!」


 ぎりっと睨み付けると、悠斗は視線を更に逸らしながら言った。


「そういわれると思ったから、いいたくなかった」

「信じられない!」


 怒り狂う私に、ばつの悪そうな顔をする悠斗。

 くそう、もっと言ってやりたいけど、今は情報収集が先だ!


「……とりあえず、今はいい。他にやってないルートは?」

「とりあえずって……。えーと、一応悠斗以外は恋愛エンドだけさらっと通した。あと、実はディアスルートも途中までしかやってへん。途中で俺、死んでもうたから。話は姉ちゃんから聞いて知ってるから支障はないはず。……逆ハールートは端からやる気なかったし」

「だから、逆ハーなんてないから!」


 噛みつくようにいう。


「大体どうして、そんな勘違いしたの」


 悠斗はハイと神妙に片手を挙げた。


「姉ちゃんが、同人作家。自分の書いた逆ハー漫画とか読ませてくるから……。今考えたら、あの逆ハー設定って姉ちゃんの創作やったんやな。逆ハールートでも下手をすれば悠斗は死ぬ。みたいなこと真面目に言ってたから、思い出して焦ってたのに」


 遠い目をする彼に、なんとなく彼が姉からどんな被害を受けたのか想像できてしまった。


「このゲームも無理やり……。コンプデータやるから、話だけでも一回通せって言われて」


 誤解がないようにいっておくが、俺はギャルゲー派やからな、という彼はきれいに無視する。心底どうでもいい。


「で? その関西弁は?」

「単純に関西出身。なおしたつもりやねんけど、どうしても興奮すると出てきてまう。……ってごほん。……まあ、そういうことだ」


 今更のように言葉を戻してきた。


「じゃあ、本題。ディアスの正体も当然知っているよね? ならどうしてさっきあんなことしようとしたの」

「……いや、あの、混乱のあまりつい。……確かに考えなしだった。止めてくれて助かった。ありがとう」

「まあ……反省しているならいいけど」


 素直に言われるとこれ以上は言い辛い。

 でも、と私は言った。


「本当に気を付けて。なんか全然ゲームの話と違っているから」

「……気をつけてってさ、それ半分以上自業自得じゃないのか?」


 目をそらした。

 それをいわれると弱い。軽く咳払いしてごまかす。


「……と、ともかく! 私が偶然ディアスと出会ってしまったため、ディアスルートにつながる可能性があります! 目下私の目標は、それを回避しつつ誰ともエンドをむかえないこと! 分かった?」

「偶然じゃなくて、あんたが歌ったからだろ」

「そこ、終わったことを蒸し返さない! 過去は変えられない、変えられるのは未来だけなの!」

「うまいこと言った、みたいな顔をするな」

 

 びしっと指を突きつけると肩をすくめてきた。だいぶ理性が戻ってきているようだ。


「と、とにかくこうなったからには協力して。本当に誰のルートも攻略する気はないの。私は、平和に人生過ごしたいだけなんだから」


 悠斗は片手で頭をかきながら、仕方ないかという表情を浮かべた。


「……まあ、せっかく死なずに済みそうなのに、間違って世界崩壊エンドなんかに行って巻き添えで死亡とか、ごめんだしな」

「桜エンドだってごめんだよ……協力してくれる?」


 そういえば、悠斗は立ち上がり、手を差し出してきた。

 とまどう私に、にっと笑って頷く。


「いいぜ。さっき助けてもらったしな。できる範囲でよければ手伝ってやるよ、伊織」

「ありがとう! 悠斗!」


 差し出された手を、両手でぎゅっと握ってぶんぶん振った。

 全力で喜ぶ私を見て、悠斗はちょっと困ったように言った。


「そんなに喜ばれても困るというか。俺、結構ボロだすかもしれないから、そっちのフォローはよろしく頼むな」


 それには否定のしようがなかった。


「……今日もあっちこっちでボロ出しまくって、いつつっこみをいれてしまうか自分で自分が心配だったよ」

「悪いな」


 悠斗の残念さを思い出して、急にテンションが下がった。

 ……これ、もしかしたらフォローの方が大変かも。

 私の気も知らず、悠斗はすっかり打ち解けた様子で笑いかけてきた。


「じゃあ早速、生徒会室に戻るか。……ああ、そういえばねえちゃんが

『この話は結局ディアス様の為の話かー!』って叫んでいた時期があったんだけど、意味、わかるか?」

「……いや、知らない。お姉さん、他に何か言っていなかった?」

「いや、俺も何の事だかわからなかったから。ただ、公式見解がどうとか言っていたような気がする」

「公式見解……」


 聞き覚えがある言葉。頭の片隅に妙にひっかかる。

 だが、どうしてもそれ以上は思い出せない。

 何かきっかけがあれば思い出せそうな気もするが、とりあえず置いておくしかない。

 大体生徒会室を逃げ出してから、そろそろ三十分以上が過ぎている。あまり遅くなって保健室に迎えにでもこられた日には、いない事がばれてしまう。


「……気にはなるけど、一旦それは置いておこう。今は生徒会室に戻って言い訳しないと」


 そういえば、悠斗も同意した。


「そうだな。急ごう」


 鍵を開け、共に生徒会室に向かう。

 とにもかくにも私には、共に戦う同志が出来たようだ。嬉しい。

 ……いつの間にか、重かった私の気持ちは、すっかり軽くなっていた。


◇◇◇


『……あーあ。結局仲間に引き込んじゃうんだ。困るなあ。じゃあ、こっちも相応の対策をとらないと……ね』




ここで二人のすりあわせをしときたかったので、少し長めになりましたが入れてしまいました。新事実というほどのものはほとんどありませんでしたが。

でも、これでようやく前置きが終わり話を始められます。な、長かった・・・・・・

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