関西弁が気になる
いつもありがとうございます。
少し早目ですが更新します。
「ああ、放課後が憂鬱」
靴を履き替え、教室に向かうも足取りは重い。絶対に面倒事を抱え込むことになると分かっていて行きたいとは思えなかった。
生徒会へのお誘いとかいらないフラグだよ。なんとかして断れないだろうか。
考えれば考えるほど、気分が滅入ってしまう。ため息をついて教室へ入ったが、
「伊織ちゃん!」
すっかり性格の歪んでしまった粘着な幼馴染が嬉しそうに話しかけてきて、更にブルーな気持ちになった。
「……総ちゃん、おはよう。早いね」
「少しでも早く伊織ちゃんに会いたくて待っていたからね。おはよう。伊織ちゃん。今日もあえて嬉しい」
……おい、待っていたとかいったかこの男。
「……えっと、何時から待っていたの」
「ん? 伊織ちゃんが何時くるか分からないから、7時過ぎにはきていたよ?」
それがどうかした? と首をかしげる総ちゃんの行動がすこぶるつきで重い。
昨日、やさしくしてあげようと思っていた気持ちがあっという間に遥か彼方に飛んでいってしまった。
「……私は8時過ぎにしかこないから、総ちゃんもそれくらいに来てくれる?」
「そうなんだ。うん、わかった」
昨日聞いておけばよかったねとのんびり笑う幼馴染は、言う事を聞いてくれるだけ対処は楽だ。でも、疲れる。そのまま話を終わりにして自席につこうとすると、何故か総ちゃんはとことこと着いてきた。
「えっと、何?」
「んーん。少しでも一緒にいたいから」
照れたようにいう総ちゃんだが、まったくもって可愛くない。はっきりいって邪魔だ。先生がくるまで、読書でもしていようと思っていた予定が、がらがらと音を立てて崩れていったのが分かった。
昨日とかわらないテンションの総ちゃんをみて、クラスメイトたちは係らない方向で統一したらしい。私だってできることならそうしたい。
見て見ぬ振り、スルースキル発動とかすごく辛いんですけど。
だれか助けて。
あははと遠い目でたそがれていたが、総ちゃんが突然私の後ろから覆いかぶさるように腕をまわしてきた。
「うわっ!」
咄嗟に席を飛び離れた。ぎっと総ちゃんを睨むと、彼は不思議そうな顔をした。
「なんでよけるの? ちょっと後ろから抱きしめようとしただけだよ」
「だから避けたの! 朝から何してくれてるの。こういうこと、本当やめて」
強めの口調で訴えたが、総ちゃんは気にした様子もなくにっこりと微笑んだ。
ああもう全然かわいくない。
「やだ」
「やだ、じゃないよ」
「あ、そうだ、伊織ちゃん。INELのIDを教えて。伊織ちゃんも使っているんだよね? やっぱりお互い連絡とれる手段がないと困るし。俺、伊織ちゃんと日常のやりとりして……あ、あとスタンプいっぱい使いたい」
話が変わった! しかも余計な方向へ。
私は決然と告げた。
「INEL。使ってないから」
嘘である。しかし総ちゃんは引かなかった。
「ええー、じゃあメルアドでいいよ。メルアド教えて」
「い、嫌だ」
「どうして! 大切幼馴染と連絡をとりたいと思って何が悪いの」
詰め寄ってくる総ちゃんが、ものすごく怖い。
私はぶるぶると首を横に振った。
「だって総ちゃん、なんか怖いもの。絶対いや」
心からの叫びを訴える。
その時、突然教室中に『どん!』という音が響き渡った。クラス中が静まり返る。
「うるさい! いちゃつくなら別のところでやれ! 迷惑なんや!」
誰かが立ち上がり、手を机にたたきつけた音だった。
いちゃついていたという言葉には是非とも反論したいところだが、うるさいという指摘には全くの同感。あわてて私は頭を下げた。
「ご、ごめんなさ……」
「なんで伊織ちゃんが謝らないといけないわけ」
眉を吊り上げて怒り狂う幼馴染が、その彼に詰め寄っていた。慌てて私も総ちゃんを追う。
「一体誰の許可を得て、俺の伊織ちゃんに怒鳴っているわけ? お前、何様のつもり? 死にたいの?」
『ばかなの? 死ぬの?』……それはお前だ!
言われた男の子はといえば口元を引きつらせている。
当たり前だ。心底同情する。
「総ちゃん。今のは私たちが悪いから。お願いだから余計なことはいわないで!」
「えー」
「お願い!」
総ちゃんの上着を引っ張り、はっきりと告げる。
それでも総ちゃんは引かなかった。
「いくら伊織ちゃんの頼みでもなあ。だってこいつ俺たちの邪魔したんだよ。そのお礼は、しっかりしとかないといけないよね」
真顔で笑う姿が怖い。
昨日はさわやかだと感じた表情が、今はうすら寒く感じる。
もう、頼むからやめてくれ。
こうなったら、先に謝ってしまおう。
私は総ちゃんの上着をそのままぐいっとひっぱり、その代わりに前へでた。お世辞にも好印象とは言えない私を睨みつけてくる彼は、今里 悠斗くん。
昨日、女装させたら美少女! と思っていた彼。
目をつけていた私的勉強のライバルだ。できれば仲良くしたいと思っていたんだけどな。この分では無理だろう。
思い出したから気付いたけど、彼もゲームの攻略キャラ。でも、ちょっと覚えている性格とは違うようだ。
「すみませんでした。今里くん。反省しています。」
少し長めに深々と頭を下げる。
相手の視線をひしひし感じたが、私は動かなかった。
後ろで「何で俺の伊織ちゃんが……」という言葉と不満げなオーラが揺れた気がしたが構わなかった。
「……わかったなら、いい。次から気を付けてくれ。……こっちも怒鳴って悪かった」
息を吐き出す音と言葉が聞こえて、私は頭をあげた。怒りはなりをひそめ、今里くんは少し困ったようにこちらをみている。ほっとしてもう一度頭を下げた。
「本当にすみませんでした」
「もう、いいって」
手をひらひらふりながら、ぶっきらぼうに答える彼に好感を持った。
でも、やっぱりゲームとは性格が違う……。彼はこんな普通の少年のような話し方ではなかった。もっと見た目通りのやさしげな、はかない雰囲気の話し方だったはずなのに。それにさっき……。
「そういえば今里くんは、関西の方のご出身なのですか?」
「え!」
ぎょっとしたようにこちらを凝視してくる彼に、素朴な疑問をぶつけてみる。今は普通に話しているがさっき切れていたとき、確かに関西弁だったような気がする。
今里くんは焦ったように言った。
「い……いや、違う。俺はずっと海外暮らしだし、関西に行ったことなんてない」
ものすごく挙動不審だ。
確かにゲームでは、難病を抱えていた彼はずっと海外の病院にいた為、日本にはいなかったのだ。
だから関西にいたなんていう設定はなかったと思う。じっと彼を見つめていると、今里くんは居心地悪そうな表情を浮かべた。
……うーん、これ以上追及しない方がいいのかな。
「そうでしたか。それは失礼しました。申し遅れました。私、鏑木伊織と申します。今後はクラスメイトとしてよろしくお願いしますね」
私もいい年をした大人。一応空気を読んだつもりだ。だが、
「……あんたの方が変だろ。なんで特進クラスにいるんだよ」
思わずこぼれてしまったような独り言が聞こえ、私は固まった。
……振り返ってはいけない。多分彼は私には聞こえていないと思っている。そのまま何気ない風を装って自席に戻ったが、心臓はうるさいほど鼓動を打っていた。
――――ナゼ トクシン ニ イル
彼は、はっきりそういった。
私が、特進クラスにいることを疑問に思えるということは。つまり。
……そうだ、彼も転生者、なのだ。
ありがとうございました。また、次話もよろしくお願いします。




