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鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
1章
7/32

追うもの、追われるもの

グロテスク&生理的な表現があります。

お食事前後の方などは特にご注意ください。


 どろり ぴちゃり ぼとり ぬちゃ ぶちゅり。


 背後から、湿った音と重たい物が落下する音とが混じって聞こる。

 大型犬のような、でも決してそうではない生物が全身に茶褐色をした泥状の物を纏い、腐臭を放って追ってきているのだ。

 ソレは身体を揺らす度に泥をまき散らし身を削る。

 ちらちらと覗く変色した骨肉―――。


 咆哮するでもなく、襲いかかってくるわけでもない。

 ドロドロ犬は獣に似た姿に反し移動速度も遅い。

―――だが、ただひたすら追ってくる。


 50メートル12秒以上という壊滅的運動音痴のわたしの超鈍足で逃げても余裕で撒けるのだが、視界から消えて「もう大丈夫」と安心した頃にまた姿を現す―――その繰り返しが30分程続いている。


 も、もうイヤぁぁあぁぁぁ!! 精神的に辛すぎる!!!!

 生命の危機は感じないが、とにかくグロい!!!

 ここ1週間で見た化け物の中でダントツのグロさだ。




「ほら、早く強請ねだれ。葵の熱い身体は、もう俺が欲しくて限界なのだろう……?」

 唇を寄せた美しい男に甘やかに耳元で囁かれ、まったく不本意ながらぴくりと身体が跳ねる。

 飛び出すかと思うほど勢いよく暴れる心臓。


「どんだけ卑猥なんじゃぁぁぁあぁッ!」

 無駄だと分かっていつつも、隣の男に顔面ストレートパンチを放った。


 わたしがひぃひぃと息をあげながら山道を逃げ回っているというのに、エロオヤジ(空耶)はわたしのパンチを「愛情の裏返しというやつだな」と笑顔で受け止めながら軽やかに余裕でぴたりとついてくる。

 この涼しげな美形が憎たらしくてならない!


 後ろを振り返るとドロ犬の姿はない。どうやらまた撒けたようだ。

「はぁぁ……」

「おぉ、熱い溜息がこぼれる程に俺の愛が欲しいのか!」

「…………」

 堂々たる体躯を上質なブラックスーツに包んだ、見た目だけは超一流だが頭の中が腐りきった男の脛を蹴りつけた。




 1週間前、エロオヤジと王珠ちゃんの住む家からなんとか無事自宅に帰還したわたしは、以降毎日のように魑魅すだまに追われるようになった。

 魑魅というのは妖怪とか幽霊とか神様とか、とにかく人外のヒトたちの総称だ。


 28年間、霊や怪奇現象なんかとは全く無関係に過ごしてきたわたしが何故こんな目に遭っているのかというと―――。



 魑魅とは「より強くなりたい」という欲望を生まれながらに持っていると言う。

 そのためには「自分より強い力を持つモノ」を喰うなり合体するなり融合するなり、どうにかして体内に取り込むのが一番てっとり早いらしい。

 いわゆる下剋上という奴だろう。

 

 もともとわたしは極微少な妖力を持っていたらしい(霊能力者などはその力が多いそうだ)。

 それはホントに極僅かな力だから普通はスルーされるらしいが、たまたまその力の質が蛇神の沼木田さんの好みにドンピシャだったとか。


 それだけなら沼木田さん以外とは関わらずに生きていけたはずなのに―――なのに、あのエロオヤジのせいで!!


 空耶はその魑魅たちのボスなワケだから当然強い力を持っているそうで、その妖力をわたしは無理矢理体内に取り込まされてしまっている―――唾液という体液によって。


 つまり、わたしは【か弱い普通の人間なのに強そうなニオイがする超オイシい物件】になっているのです。


 はた迷惑この上ない。

 おっさんのソレを腹下しや嘔吐で無理矢理体内リセットで排出してやろうかと思ったが、そういう問題ではなく、第六感的な嗅覚に似た部分でニオイとして嗅ぎ取るものだからどうしようもないらしい。


 今回のドロ犬なら逃げ回っていればどうにかやり過ごせそうな気はするものの、突然噛みつこうとするものや、鋭利な爪で引き裂こうとしたものもいる。


 なのに無事で居られるのは、こうなった原因を作った本人のおかげ。

 出会った日以来、空耶はわたしに付き纏って助けてくれる。

 ある程度知能のある魑魅の場合は、空耶の姿を見たとたんに頭を下げて逃げ出しはするのだが……。




「葵、またヤツが来たぞ」

 どこか楽しげな空耶の声。振り返らずともドロ犬がやってきたことは異臭で分かった。

「…………もう無理」

 普段から運動なんてまったくしないから、30分以上も走り回って脚が限界だ。

「それはお強請りだな?」

 にやり、空耶は口角をあげた。


 もともと空耶が引き起こした状況だというのに、ヤツはわたしを守る代償にキスを要求してくる。

 とは言え、唾液の問題があるので「絶対に触れるだけ」という条件はつけてあるが、どうにも不条理でならない。


「ああ、そうですよ! 早くやっちゃって!!」

 ヤケクソで怒鳴るように返事をすると、フ、という微かな笑いと共にとろけるような瞳が近付いてくる。

 その色気ダダ漏れの綺麗な顔を直視出来ず、思わず目を瞑ってしまう。

 と、下唇がとろりとなぞられる感触に目の前が真っ白に―――。


「な、舐めた!? ちょ、誰が舐めて良いって言った!?」

「葵が可愛い過ぎて我慢出来なかった」

「っ!!!!!!!!!」

 血が上った顔が熱くて、どうしようもなく俯いてしまう。


 ああ、もう。ホント勘弁して欲しい……。

お気に入りありがとうございます! 多謝!!

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