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鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
1章
6/32

本気

「ぶハハ、本気で面白過ぎる!! ぐハハハハハハ!」

 突然現れた女の子は身体をくの字に曲げて笑い転げている。


 背格好からして五、六歳くらいだろうか。

 緩くウェーブした栗色のポニーテールと赤いワンピースがいかにも可愛らしいが、しかし豪快な笑い方だ。

 ひとしきり笑ってようやく顔を上げた女の子は、少しつり目の華やかで大人びた顔立ちをしていた。


「性格なら補正出来るかもしれないけどさー、ぷ、顔がイヤだなんてキッパリ言われたら、ぷぷ、どうしようもないよ、ぷぷぷ、諦めな~?」

 堪えきれないように時々吹き出しながらも、大人びた口調でおっさんを諭す。

「そ、そんな事はない! 今から整形外科に行ってくる! どんな顔が好みなんだ?」

「………………、いや、そこまでしなくても」

 むしろそのままのが良いでしょ(世間一般的には)。


 真下から冷ややかな目で見上げると、おっさんはウググと唸る。

「ならばどうしろと言うんだぁぁ!!」

 おぉ、キョドってるおっさんはちょっと可愛いぞ。……ほんのちょっとね。


 大の男がオタオタする様を見かねたのか、溜息混じりに寄ってきた女の子はおっさんの肩を宥めるように叩いた。

「少し落ち着きなよ、空耶くうや


「―――くう、や……?」


 ん、なんだろ。何か引っかかった。

 まぁ、よくある名前―――ではないよなぁ?

……昔ハマったアニメの登場人物と同じ名前とかかな、うん。


「このヒト、隠塚おぬづか空耶っていうの。アタシは王珠おうじゅ

 にっこり自己紹介してくれる王珠ちゃんは文句なしに可愛い。いいよね、女の子!

 つられてこちらまで笑顔になってしまう。

「わたしは河原崎かわらざき葵。よろしくね、王珠ちゃん」

 真上からボソリと「俺と態度が違う」と拗ねたような聞こえてきたが無視した。

 いい歳したおっさんが拗ねるなぁっ!





 おっさんは王珠ちゃんの勧めでコーヒーを飲みに部屋を出ていった。

 ああ、ようやく解放されたよ!

 扉の向こうから何かブツブツ聞こえてくるが気にしない気にしない。



「空耶が馬鹿な真似してごめんね。いつもはもうちょっとマシなんだけど。まーったく、泣く妖怪も黙る鬼ボスが聞いて呆れるわ~」

 王珠ちゃんはわたしが寝かされていたベッドに腰掛けると、苦笑しながらもどこか温かな表情で話してくれた。

 しかし飛び出す単語は穏やかではない。

……そう言えばあの巨大な白蛇、沼木田さんだっけ?も、ボスって呼んでいたような。


「空耶はね、この辺り一帯の妖怪とか半妖とか半獣とか、そーゆー純粋じゃない【ヒト】たちを取り締まるボスをしてるんだ」

「ヘエー。スゴインダネー。」

……しまった、思わず棒読みになった。

 今日は理解や常識を超える事ばかりで脳がキャパオーバー。

 もう思考ストップなんです(考えるのが面倒くさくなっただけでしょ?とか言わない!)。


 まあ、実際に蛇神様に襲われた身としては「妖怪とか居るわけないじゃん!」とも言えず。

 エロオヤジに入れられた舌のねっとりした感触とかがリアル過ぎて夢オチってのもないだろう、と思う。

 何せファーストキスだし……(ココ大事!!)。


 しかしあのおっさんがそんな凄い人だとは思えない。蛇神様相手にドス効かせてたのは覚えてるけど。……ま、わたしには関係ないけどね。



 そんなわたしのお気楽な考えを見透かしたように、不意に王珠ちゃんがひどく真剣な顔で私を見据えた。

「空耶があなたを見つけてしまった以上、生半可な態度では逃げられないわ。ふざけてるようにしか見えないかもしれないけど、あれで本気なのよ。だから本当に嫌なら今ここですっぱりフッてあげて欲しいの」


 強い眼差しに、わたしの喉がごくりと鳴る。

「本気」って、つまり本当にわたしと結婚したいって思ってるって意味……?


 王珠ちゃんには悪いけど、にわかには信じられない。

 だって、知り合ったばかりでおバカな遣り取り以外にまともな会話もしていないのに。

 おっさんは一目惚れされる事は多そうだけど、わたし相手にそれもあり得ないし。


「なんであの人が本気だって思うの? 王珠ちゃんの勘違いじゃない??」

「それはないわよ。だって葵ちゃんは―――」

「王珠」


 ぞくりとする低い声。

 部屋の入り口で、おっさんがこちらを睨みつけている。

 今の、明らかに会話を遮ったよね……。


「あー、ハイハイ。分かったわ、何も言わないわよ」

 王珠ちゃんがヤレヤレと両手をあげると、おっさんから不穏な空気が消えた。

 やっぱりこの人、ただの変態じゃないんだな……。


*空耶と王珠という名は当「鬼と私」シリーズ1部の「紅の絆」に出ております。

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