手順が大事
本日二度目の更新です。
「おお、目が覚めたか! さあ結婚しよう!!!」
「……………………」
どゲし!
目覚めの一番に迫られ、無言のまま綺麗な顔にストレートパンチを食らわしてやった。
するとおっさんは顔面で受け止めたままのわたしの拳を、やわやわと撫でさすり出す。
……諦めた。
なんか殴るのさえ(わたしの手が)勿体ない。
うっとりしている変態は無視し、身体を起こして辺りを見回す。
少々古めかしい印象を受ける、マホガニーの落ち着いたインテリアで統一された室内だ。
わたしはふかふかのベッドに寝かされていて、室内にはおっさんと二人きりのようだ。
「えーと……あの蛇は?」
「おまえに手を出した罪で締めておいた。俺としても消し去ってしまいたいのは山々だが、アレでも神の一員で、消滅させるのは無理だ。すまん」
はぁ、蛇神様なんですか。
それにしては、このおっさんに対してえらく腰が低かった気がするけど……。
まぁ生身の蛇じゃなくて良かった。あんな巨大な蛇がこの日本に居たらわたしの常識が砕け散る。
……どっちにしても非科学的ではあるけども。
「よく分からないけど、助けてくれたらしいのは感謝します。ありがとうございました」
さあ、礼は言った。もう用はない。早々に立ち去ろう。
ベッドから立ち上がろうとしたわたしは、何故かそのまま再びベッドに倒れ込んだ。いや、違った。押し倒された。
片手でわたしの両手首を押さえ込み、ギラギラと光る漆黒の瞳で射るように見下ろす男。
……これは、普通なら「きゃー、どうしよー!」って言うところなのか? だがわたしには効かぬわー!
「どこへ行く?」
「家に帰る」
「今日からここがおまえの家だ。結婚するのだから」
やっぱり頭がおかしい。
あーあ、こんなイケメンなのに勿体ないね!
まともならどんな美女も選び放題だろうに。
「あのさぁ、なんでわたしみたいなちんちくりんを相手にするワケ? 結婚なんかするわけないでしょ! いいからとっとと帰らせろぉぉーー!」
「―――な、なぜだ……?」
あ、あらら? さっきまでえらく強引だったおっさんが、急に捨てられた子犬みたいにオロオロし出した。
そんな顔されたら、わたしの方が悪人みたいじゃないか!
「何故って、え、えーと……まず、結婚てのはそれなりのプロセスを経てからするものかと」
「では、しよう!」
「は?? え、何を?」
「それなりのプロセスというやつだ!」
「嫌ッ! 無理ッ!!」
「な、なぜ……?」
「アンタの顔が嫌いだから!!!」
「そ、そんなっ…………」
切れ長の漆黒の瞳を大きく目を見開いて、固まるおっさん。
いきなり見知らぬ相手にキスする変態だから―――とか非常識過ぎるから―――とかはこの際置いておくとして、根本的にわたしはイケメンという生物が大っ嫌いだ。
「……ぶふっ。あハハハ!!!」
部屋の中で、第三者の笑い声がした。
今にも泣き出しそうなおっさんに押し倒されているという情けない格好のまま、声を頼りにそちらへ顔を向けると……部屋の入り口で、小さな女の子がお腹を抱えて笑っていた。