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鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
4章
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愚者

 夜も更けてきた。何時間悩んだところで解決法は見つかりそうにない。


 実は、恋愛ごとに関しては王珠に聞くのがもっとも正しい。

 何しろあいつの本体であるナギの木は、古来より縁結びやら夫婦円満の力やらを持つとされ、今では推定樹齢800年だとかで神木として崇められ、散々その手の願いを叶えてきたのだから。


 だが、あの笑い上戸は俺の悩みなど「バカねぇ」と腹を抱えて笑うに決まっている。

 どうも昔から王珠にだけは頭が上がらない。木の頃はもっと柔らかな人格(木格か?)だったと思うのだが……こんなことなら人間の姿になりたいという願いなど叶えてやらなければ良かった。


 はぁ、と盛大な溜息をついたところでベンチ横の街灯が黒い影を作り、甘ったるい香りが鼻をついた。

「おっに~ぃさん、何してるのー?」

 派手に着飾って化粧をした見知らぬ女だ。軽い口調で話しかけながら俺の顔を覗き込むと大袈裟に驚いてみせる。

「うっわー、近くで見るとますますイケメン! ねえ、一緒にゴハンでも行かない~?」

「……五月蠅い。俺は忙しいんだ」

「えー、だいぶ前からじっとしてるのに? 私、ずっと見てたんだよー」

……ずっと見ていただと? 考え込んでいたとは言え、視線などまるで感じなかった。不覚だ。


 女に少し興味を覚え顔を見ると、目元の辺りが葵に似ている気がする。年頃も同じ位だろうか。

「…………」

「なぁに、難しい顔しちゃってさー。悩み事? よーし、この美弥ちゃんが相談に乗っちゃおう!」

 普段であればこの手の誘いは一刀両断することにしている。

 葵が嫌いだと言い張る俺のこの顔は、一般的な人間からは魅力的に映るようで誘いの手は多い。まったく皮肉なことだ。


 鬼だった頃は菊だけ、人間になってからは葵だけ。他の女などみな同じにしか見えず、いくら誘われようとも気が向くことはない。

 王珠からは肉体的に健康な成人男性として異常だと言われるが知った事ではない。大きなお世話だ。


 だが、この女はあまり頭が良さそうには見えないものの葵と同じ人間、同じ年頃、しかも女だ。

……ふむ、悪くない。何かしら得る情報もあるかもしれない。




 女に連れられ、すぐ近くの飲食店に入った。

 田舎とは言え、駅前だけあって繁盛している。一歩入ると威勢の良い店員の声と酒と煙草の匂いに迎えられ、男性店員にカウンター席に案内された。


「おい、美耶子とやら。先に断っておくが、俺は酒は呑まないからな」

「えー、なんで?」

「…………俺は酒癖が悪いらしい。自分では分からんが」

 弱点を晒したくはないが事実なので仕方なく不機嫌に言い放つが、美耶子はかえって嬉しそうに。

「へぇ~、そんな事言われると酔わせてみたくなっちゃうなー」

 洒落にならんらしいから止めておけと釘をさした上で、注文は美耶子に任せる事にした。


 鬼や妖怪は酒に強いという童話をよく見かけるがいい迷惑だ。俺は鬼の頃からずっと酒に強かった試しがない。

 ウワバミという言葉があるが、神の方が余程大酒呑みだ。あいつらは普段から神酒ばかり呑んでいるではないか!

 これに関しては酷い偏見だと俺は常々思っている(断じて「酒に弱い魑魅の首領」という劣等感からではない!)。



「で、好きな子に無視されてるんだよね? どんな子なの?」

「そうだな……外見的には男子学生のようで、性格的にも女らしくはないな。

 いつも素気ない上に俺に対しては攻撃的だ。この顔が徹底的に嫌いらしい」

「えー、なにそれー。すっごい嫌われてるじゃん!」

「…………嫌われている、だと!? そんな……! いや、まさか…………」


 だが、言われてみれば思い当たる節がある。いや、あるどころではない。嫌われているとしか思えないような気さえしてきた。

 好かれる要素があったとすれば、沼木田から救ったこと位だろうか。

 他は何からナニまで嫌われて当然の行動をとってきたような―――なんということだ!!


 自分の愚かさに愕然とした俺は喉の渇きを覚え、いつの間にか運ばれていた飲み物を一気に煽った。

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