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鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
3章
24/32

紅の絆

 早めにお風呂をいただいて、堅いボディタオルでいつもより念入りに身体を洗った。

 それでもまだ魑魅憑き男の骨ばった手と、空耶の大きな熱い手の感触が残っているような気がして肌が赤くなるまでゴシゴシ擦ってしまった。

 うっすら血が滲むのを目にして、せっかく手当してくれた焔星くんに申し訳がなくなってそれ以上洗うのをやめた。


 お風呂に浸かっていると、あの時の様子が鮮明にフラッシュバックした。

 生理的な嫌悪感はもちろんのこと、怒り、恐怖、不快さなどが入り交じる。

 身体も心もクタクタで、激しい虚脱感がわたしを襲っている。

 もう何も考えずに寝てしまいたいというのに、このままじゃいけないと心のどこかが主張している。


「…………やっぱり、はっきりさせよう」

 うやむやにしといたら、後悔するような気がする。

 そうと決まれば即行動!

 急いで風呂を出てパジャマに着替えると、今夜も酒盛りしているお父さんに会いに行った。



「あのさ、わたしが小さい頃によく鬼の話をしてくれたでしょ。あれ、もう一度詳しく教えてくれないかな」

「ああ~、んー、えー……………………。なんだっけか? あー、母さん、頼む」

 酔っているせいなのか、忘れてしまったのか、近くにいたばあちゃんにバトンタッチするお父さん。

 こういう人だから角をくれた時にも説明がなかったのも仕方ないのかも……。


「なんだい、忘れちゃいけないって何遍も話してやったのに……仕方ない子だねえ。葵、ちょっと待ってな」

 じいちゃんにひとつ酌をしてから立ち上がったばあちゃんは、箪笥でごそごそ始めた。

 やがて引き出しから古ぼけて擦り切れたノートを一冊持って来て、わたしに手渡す。


「ばあちゃんが子供の頃な、母さん……つまり葵の曾祖母さんから、忘れちゃいけない大事な昔話だって何度も何度も聞かされたもんだ。その時の真剣な母さんの顔が今でも忘れられなくてねぇ。

 まあ『これがその角だよ』って見せられても、そんな御伽話あたしは信じちゃいなかったんだけどね。

 でも何十年か前にふと思い立って、ここに書き留めておいたんだ。

 うちの直系は、今は葵以外に居ないからね。角もおまえが持ってるんだろう? これもあげるから、大事に持っていきな」


 ノートは傷み黄ばんでいて、端には繰り返し読み返したと思える癖がついている。

 ばあちゃんは信じていなかったとは言うが、それでもこの話を気に入っていたのか、若くして亡くなったという曾祖母ちゃんとの思い出だからなのか―――それは分からないけれど、これがばあちゃんにとって大事なノートだということは分かる。

 わたしはお礼を言ってその場で読ませてもらうことにした。



 昔の字体自体が読み辛い上にインクの掠れもあり、そもそもの言い回しが難しかったりで、半分位解読不可能だった。

 正直、直接話して聞かせてくれた方が早かったけど……ばあちゃんに頼りながらなんとか読破。

 大まかな流れは、王珠ちゃんに聞いたものと同じだった。


   孤児だった少女の菊が、空耶という名の鬼と出会い食糧の支援を受ける事になる。

   その見返りとして菊は血を提供し続けていたが、二人の仲は親密だった。

   しかしある時、瀕死状態の菊を身を挺して救った空耶は亡くなってしまう。

   残された1対の角は空耶の遺言により、一つをとある大樹の根本に植え、もう一つは菊の宝物になった。

   やがて菊は村の男と結婚し、子をもうけた。

   以降、その直系の女子に角は受け継がれている。


 王珠ちゃんの話を信じなかったわけではないけれど、これでやっと実話だったと思うことが出来た。

 ただ、どうしても「血を提供」ってところが腑に落ちない。

 頼りない記憶を手繰ると、たしか王珠ちゃんは400年以上前に少女の姿になったと焔星くんが言っていた。

 木から人間への変身出来たのは角の力なのだから、菊さんが存在したのもその辺りだと言うことになる。そんな昔に輸血の技術はなかっただろう。



 とすると―――さっき空耶がしたように傷を作って吸血、ということだろうか。

 爪で傷を広げたり歯を立てて舐めとったりということを、空耶は菊さんに対して常習的に行っていたと仮定して、その行為自体に悦びがあったのだとすれば、自制が利かなかったという空耶の言い分も納得は出来る。

 けれど、理解はできない。

 あの時の空耶は恐ろしかった……まさしく鬼だと思った。

 どうしてあんな行為を続けながら二人は仲良くやっていけたんだろう。


 ただ、断じて認めたくはないが恐怖や痛みと共に一種の快感があったのは事実。

 断っておくけど、わたしは痛いのは大嫌い。未だに注射だって泣きたいぐらいイヤ。

 あんなの、気持ち良いわけがないはずなんだ。

 その、性的な意味でマゾヒストか否か?と聞かれたら経験がない以上分からないんだだけど……そんな特殊は趣味はないって信じたい……いや、信じてる!!


 で、結局、そういう感覚をもたらしているのは鬼の能力なんじゃないかなと思うことにした。

 痛みをコントロールする力があるのだとすれば菊さんと空耶の関係も頷けるわけだ。

 空耶も焔星くんも、なんでもアリな感じだし!

 わたしも自分の趣味を疑わないで済むしね!!(これが一番重要)


ばあちゃんのノートには血の提供方法や、二人がどう親密だったのかなどは一切記されていません。

そのあらましだけが代々伝えられてきました。

菊さんも血を吸われる事が快感だったなんて、旦那や子供には言えなかったでしょう(笑)

(空耶と菊のストーリーは本シリーズ第一部「紅の絆」で描いておりますが、読まれなくても今後の展開にはまったく支障ありません)

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