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鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
3章
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昔話

 どうにか身体が動くようになり、焔星くんに手を借りてベッドのヘッドレストに凭れるように起き上がる。

 足下に上着を掛けてくれたりもして。

 うーん、ジェントルマンだね!


 だいぶ頭もスッキリしてきて、それらの症状が魑魅に取り憑かれた男(壁際で気絶したままだ)に薬を盛られたせいだと分かった。

 さっき焔星くんが手当と一緒に毒抜きもしてくれたのだそうだ。

 そんな事まで判別させた上に、的確な処理が可能な能力の高さと気遣いとに感激しちゃうね!


「それが仕事だから」と照れたように謙遜しながら教えてくれた話によると、焔星くんは魑魅憑きの人間が起こす重犯罪を食い止め、その被害者のフォローをするために地獄から来ているのだという。

 人に憑いた魑魅を制裁するのは、本来は各地域の魑魅の頭領の仕事であるはずなのだが、空耶はそれを放置するどころか推奨さえしていた節があったのだとか―――。



 話を聞いている限り「焔星くんステキ! 空耶ダメ過ぎ!」っていう感想しか出てこない……。あーぁ。

 その空耶はというと、埃の積もる床に膝をつき黙りこくったまま、すがるように上目遣いでジッとわたしを見上げている。

 その唇が心持ち尖っている……。子供か!

 分かりやす過ぎて、イラっとするよりも「可哀想な子」にしか見えない。

 でもわたしにはハッキリさせなければならない事がある。もうこれ以上流されるわけにはいかない。

 さあ、尋問開始!!



「どうして空耶はここに居るの?」

「…………葵から目を離したくなくて追ってきた」

 ストーカーかッ!

 魑魅に襲われるかもしれないから「目を離せなくて」ならまだ分かるのに!!

(ちなみに今回の魑魅憑き男はわたしのニオイを嗅ぎ付けて狙ったわけではなく、嗜虐的な欲望を満たすための無差別な犯行だったようだ。つくづく運がない。)


「なんでそんなにわたしに拘るわけ?」

「好きだから」

「い、いや。だから何で好きなのかってこと」

「可愛いし良い匂いだし甘いし美味しいし」

 え、何ソレ。食糧的なアレですか?

 獣でいうところの「このニク、ウマい! 大好き!」みたいなノリ?

……いやいや、違う。そうじゃないハズ。だって……。


「菊って人が関係してるんじゃないの?

 それに、わたしは空耶にとって意味があるような事を王珠ちゃんが言ってたし……」

「そ、それは―――」


「ああ。それねー、単純な話なのよ」

―――え!?

 聞き覚えのある、大人びた口調の少女は―――王珠ちゃん。

 いつの間に!? いつから居たの!?!?

 夕焼け空の映る窓ガラスに腰掛けて、栗色の髪が真っ赤に染まっている。

 そんな所に座ったら危ないと思ってしまうのだけれど、魑魅だから大丈夫なのかな……?


「空耶は恥ずかしいから話したくないだけなの。

 でも黙ってたら葵ちゃんが誤解するだけだから、アタシから説明するわね」

 腑抜けた様子の空耶をチラリと横目で確認しつつ言葉を紡ぐ王珠ちゃん。

 空耶は話を遮るつもりはないらしいが、不本意だというオーラが漂ってきて鬱陶しい事この上ない。


「空耶が人間なのに力が使えるのは、アタシが力を貸してるからだって事は聞いてるでしょ。

 昔、鬼としての生涯を終えた空耶はその力が宿る1対の角をアタシと菊ちゃんに託したの。

 ただの木だったアタシは、角の力を貰ってこうやってナギの木の精として具現化したわ」

 静まりかえった室内で王珠ちゃんのよく通る透明な声を聞きながらも、わたしは何かひっかかりを覚える。

 何かを忘れている気がしてならない―――。


「それでね、菊ちゃんも角を持っていたけど、彼女は普通の人間だから能力に目覚めるとかいうことはなかった。

 けれど、角はその子孫に代々受け継がれているはずなの」


 !!!!!! そうだ! そうだよ、思い出した!

 幼い頃、お父さんからそんな感じの昔話を聞いた事があった。

 桃太郎や一寸法師のように鬼の出てくる一般的な童話だと思っていたけど、実話だったってことか……。


 それと、わたしが10歳の誕生日にもらったペンダント―――。

 革紐に巻かれた象牙色のペンダントヘッドを見て、サメか恐竜の牙だって思って疑っていなかったけどもしかしなくてもアレがソレだよね?


 もーー! そういうことはちゃんと説明してよー!

 そんな家宝よろしく受け継がれている大層かつ物騒な物を、他のオモチャと一緒に引き出しの中にぐちゃぐちゃに突っ込んであるよ…………。

 しかも、クレヨンで落書きしたようなしてないような。あはは。



 この時ばかりは心の中で空耶に謝ることにした。

 ごめんよ。

王珠が語る昔話の詳細が、当シリーズ第一部の「紅の絆」に該当します。

ようやく話を繋げる事が出来ました。

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