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鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
1章
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迷子と天使

 てわけで! 仕事情報をゲットしに、チャリで町へ行きました。

 その帰り道、真っ青で気持ちの良い空に誘われて爽やかにサイクリングを楽しんでいたら、見事な迷子になっちゃってました。えへへ。


 ……なんて余裕ぶってるけど。

 海と山に囲まれたこの田舎町。ちょっと迷うと、とたんに人気がなくなって正直不安……。


 まあ、まだ陽も高いし大丈夫でしょ! と、不安を誤魔化すために鼻歌交じりで山道を走っていると、高い石垣でぐるりと囲まれた公園を見つけた。


 人が二人通れる程度の狭い石垣の切れ目、つまり入り口には【尾丹山公園】と書かれている。

 鬱蒼とした木々の向こうには石橋の架かった池や、木製のベンチが配置されていて、その奥にも延々と道が続いている。


 なんで今まで知らなかったんだろ、ってくらい大きくて立派な公園―――だけど、なんか変だ。

 こんな良い天気の土曜日だっていうのに、人の姿がまるで見当たらない。

 そもそも人口の少ない町だけど、それでもワイワイ騒いでる子供の一人や二人居ても良さそうなのに……。


 とりあえず折角だし入ってみようかと、陽射を遮る青々とした木々に誘われるように、狭い入り口を苦労して自転車で押し入った。


 太陽を反射して煌めく水面に誘われて自転車を停める。

 思ったより透明度が高くて綺麗な池だ。


 膝を折って覗き込めば、色とりどりの鯉がわらわらと寄ってきた。

「わ、可愛い~。餌でも貰えると思ってるのかな?」

 人差し指を水面すれすれでヒラヒラさせると、争うように身を寄せた鯉たちが大きな口をパクパクさせてる。


「Hello!」

「どぅわわわわっ!?!?」


 あ、あっぶなー!! あと3センチで池にダイブするとこだった!!

 誰も居ないと思っていた公園で、気配もなく不意に背後から降ってきた声に驚かないはずがない。

 しかも、ひょっとしなくても今の英語だし!?



 バクバクする胸を抑えながら振り返ると―――

 ぬわぁぁ!!! なんていう超絶美少年!!


 白く透き通るような肌に、はちみつ色したフワフワの髪、それにダークブルーの瞳。

 白シャツに青チェックのタイと、黒いパンツっていうシンプルなスタイルが凄く似合ってる。

 身長153センチのわたしの目線に鎖骨があるから、そんなに背は高くないんだろうけど、それがまた可愛い!

 外国の人の年齢ってよく分からないけど、中高校生くらいかな?


「へ、へ、へろぅ―――?」

 思わず疑問系にしちゃったよ! わたし英語全然ダメだし!

 どうしよう?? と、とりあえず頭でも下げとこう! ぺこり!!


 すると可愛らしい薄桃色の唇から少年らしいアルトが飛び出した。

「あは、ソーリー。コンニチハ! びっくりさせちゃった?」

 おおお、普通に聞き取れる日本語だわ! 良かった~。


「ここの鯉、よく慣れてるデショ? ボクが毎日餌を遣ってるんだ。良かったらおネエさんもどうぞ?」

 小首を傾げる美少年。……ヤバい、鼻血でちゃう! おネエさんを悶え殺す気か!

 あわあわしながら半透明のポリエチレン袋いっぱいに詰まったパンの耳を一つ受け取る。


「あ、アリガトウ! いただーきマ~ス!」

 なぜか片言で返事してしまった。美少年を前に緊張しすぎだ、わたし。


 パンの耳はパンの耳でも、美少年がくれたパンの耳。

 鼻を寄せれば、ほんわりと小麦の甘い香りが漂う。

 縦十センチ横二センチ程のそれを、一口でパクリと頬張った。

 よく咀嚼して味わえば、想像通りの甘みに顔が綻ぶ。


 美少年は目を丸くして、わたしの顔を凝視してる。

 うう、綺麗なお顔にジロジロ見られるのってすっごい恥ずかしい!


「ぇえーっと、まさか食べちゃうとは思わなかったナ。おネエさん、面白いネ!」


「?? ……あああ!? もしかして『どうぞ』って、一緒に餌遣りをしようって事だった?

 ぎゃああ……ご、ゴメン! 鯉さんの分、食べちゃった!!」


 ぎゃー、わたしのバカバカ! 恥ずかしすぎる!!


「んーん、気にしないでヨ。まだたくさんあるからダイジョウブ!」

 

 ああ、にこーっと無邪気に笑う少年の背中に真っ白い羽根が見えるわ……。

 なんて可愛いのー! もう天使サマよ! エンジェル!!

 ぎゅーってして、ナデナデしたいぃ!

 

 そんな邪心を抱えながら美少年くんを横目でちらちらと鑑賞しつつ幸せ気分で鯉と戯れる。

 なんだろう、この幸せ。

 やっぱり貴方は寂しい独身女性を救うために現れた天使なのね……なんて思考トリップさせてたら、美少年くんからメールの着信音が聴こえてきた。

 極上の幸せタイムはおしまい。


「あ、お迎えが来たみたい。ボクそろそろ行かないと。

 おネエさん、楽しかったヨ。オニに囚われないように気を付けて帰ってネ!」

「オニ……?? ってまさか、角が生えたあのオバケの??」


 突然飛び出した不可解な単語に、聞き間違いかと眉をしかめる。

 そういえばこの公園も【尾丹山公園】って看板がついていたけど、もしかしてオニヤマ公園って読むの?


「あれ、知らないノ? 『尾丹山で鬼ごっこすると、本当の鬼がやって来て子供を攫ってゆく』って話」


 ……自分が住む町にそんな話があるなんて全然知らなかった。だからこんなに良い天気なのに、人気がないのかな?

 綺麗な公園なのに、なんか勿体ないなぁ。

「学校の七不思議や都市伝説みたいなものかな? でも大丈夫だよ。わたし、こう見えてイイ歳だし」


 悲しい事実を胸を張って主張するのは益々虚しいけど。

 身長の低さ、幼児体型、ショートボブ、黒縁眼鏡ときて、よく男子学生に間違えられる。

 ええ、男子です。若く見られるのは嬉しいけど、性別間違えられるのはさすがに悲しいんです。


「でもおネエさんみたいな綺麗な人なら、子供じゃなくても連れて行かれちゃうかもヨ?」


 …………、わたしが君を攫ってしまいたいヨ。


「じゃ、ボク帰るね。さようなら、おネエさん!」


 ぽーっとしながら、手を振って去ってゆく美少年くんに、わたしも大きく手を振る。

 こんな田舎であんな可愛い子に会えるなんて、夢みたいだ。

 たまには迷子になるのも悪くないね!


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