表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
3章
17/32

お盆

「葵、弁当買って来たぞ」

「ありがと」


 特急電車の中、お父さんが駅弁を買ってきてくれた。

 只今、お盆休み中のお父さんと二人でお母さんのお墓参りに向かっているところです。


 お母さんはわたしが高校2年生の時に病気で亡くなった。

 それ以来お父さんと二人きりで暮らして来たけど、こうして毎年のお盆にはお墓参りを欠かさない。



 空耶と距離を置いたあの日から、1週間が経過している。

 その間、空耶とはもちろん焔星くんともコンタクトをとっていない。

 空耶とはきちんと話をしなくちゃとは思っているんだけど、よく考えたら電話番号も知らず、自宅の場所もうろ覚え。

 付き纏われている間は毎日一緒にいるのが当たり前だったから気にもしなかったけど、自分から連絡を取る方法がないという事実に我ながらビックリ。

 焔星くんの連絡先はきっちり聞き出していたのは、美少年に対するわたしの欲目なのだろうか。

……あの二人の心証の善し悪しを考えれば当然だ! と誰か言って!!


 まあ、そういうわけでこの1週間、昼以降の外出は控えて魑魅の襲撃を防ぐしかなかった。

 昨日一昨日と、試しに夕方に外に出てみたが、わたしを狙うものはいなかった。

 空耶のニオイが取れた、という事なんだろう。

 そうでなければお墓参りは危険すぎてパスしなければいけないところだった。




 特急電車に揺られて2時間、そこからは3両編成の普通電車に乗って1時間。

 お父さんの実家のある最寄り駅に降り立ち、バスに乗って更に30分、歩いて20分。


 四方を山に囲まれたひっそりと静かな村。

 良く言えば長閑で自然豊か、マイナスイオンたっぷり。

 悪く言えば不便で閉鎖的、不便さたっぷり。

 まぁ、年に一度訪れる分には癒し要素満載の素敵な場所だ。


 急勾配の坂道を登り、約4時間かかって到着したのは白壁に囲まれた井戸のある旧家屋。

 庭では鶏が数匹放し飼いにされていて、ネギやイモが植えられた小さな畑の横をつついている。

 わたしが子供の頃から所々土壁が剥がれ落ちていたり、瓦も数枚落ちていたりしていて傷んでいるが、そのまま補修されずに放置されて久しい。

 わたしの中にある「田舎」のイメージそのままの、変わらない姿にある意味安堵する。


「父さん、母さん、帰ったよ」

 ガラガラと立て付けの悪い木戸を引きながら広い土間に入ると、奥からばあちゃんの声がする。

「ばあちゃん、お久しぶりです」

「おー、よく来たねぇ。疲れたろ、さ、上がりな」

 確か70代半ばのはずだけど、まだまだ元気で背中もピンとしていて歳を感じさせない。

 厳しい所もあるけど、大好きなばあちゃんだ。


「ああ。父さんは?」

「さっき酒を買いに行った所だよ」

「じゃあしばらく戻らないな。その間に墓参り行ってくる」

 村に生活用品を取り扱う店は2軒しかない。

 最寄りの方の商店まで、徒歩で往復40分位はかかる不便さなのだ。

「ばあちゃん、行ってきますね」

 出掛ける仕度をするお父さんについて、わたしも最低限の荷物だけ用意して外に出た。


 墓地までは比較的近い。

 畑の合間の畦道を通り抜け、山との境目の小高いスペースに立ち並ぶ墓地だ。

 お盆だけあって、あちこちに真新しい花が添えられていたり、お線香が煙を立てているが他に人影はないようだ。

 心配していた魑魅の姿もなく胸をなで下ろす。


 迷う事なく先祖の墓の前へ辿り着き、お父さんと手を合わせる。

 近況を報告したいところだけど、物騒になるので差し障りのない話を心の中で呟いた。

 お墓の中でまで心配掛けたくないからね。

 じいちゃんとばあちゃんがマメにお参りしてるから綺麗なんだけど、一通り掃除も済ませて家に戻った。



「そういや、近頃村で怪談が話題でなぁ」

 酒を呑んでほろ酔いになったじいちゃん。

 楽しげにわたしの肩をガシガシ叩くが、イヤな予感に顔をしかめてしまう。

 テレビもつけずガラリとした薄暗い日本家屋で、虫の声だけがBGMの怪談て。しかもお盆。

 以前のわたしなら面白半分に聞いただろうけど、魑魅という存在を知ってしまった身の上としてはぞっとしない話題だ。

 2泊する予定だから、お父さんもちびちびと呑みながら一緒に話を聞いている。

 わたしは呑めないわけではないが酒を楽しめない人間なので、ばあちゃんと一緒に麦茶をいただいている。


「ほら、山の中にある廃館な。あそこで物音がしたり夜中に明かりが見えたりするって言うんだ」

「あー、俺が子供の頃に建てられたあのペンションの事か」

 それなら知っている。村にそぐわない、割と大きな洋風の建物だ。

 余所からやって来た人が、特に観光する場所もない土地に宿泊施設を建てた結果、当然のようにすぐに廃業になったらしい。

 今の話からすると築40年程だろう。

 それほど古いというわけでもないのだろうが、山の中にひっそり建てられて打ち捨てられたのだから、今にも崩れ落ちそうにボロボロで、いかにもお化け屋敷といった相貌をしている。


「ふーん、早く取り壊せばいいのにな」

 あまり関心がないらしいお父さんの一言でこの話は終わった。

 ただの噂話なら良いんだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ