痛み
プラズマボールに視線だけを動かすが、空耶は逃げるどころか眉一つ動かさない。
いくらなんでも直撃したら無事では済まないだろうに、受け身さえも取ろうとしない。
「空耶、逃げて!!」
だが―――ボールは彼の腹部にのめり込んだ。
シュウゥゥ……
音を立て消滅するプラズマ。
いつも着用しているブラックスーツの前面が、焦げたように変色し破けている。
その下に日焼けした小麦色の肌が覗き、中央部が赤く焼けただれている―――。
「空耶……」
痛そうで痛そうで、助けなきゃと駆け寄ろうとしたが焔星くんに引き止められた。
「大丈夫だカラ、見ててご覧」
「そんな―――!!」
焔星くんの手を振り解こうとして、視線を空耶に戻す。
と、腹部の火傷跡が白く泡立つようにしゅわしゅわと蠢いていた。
「何…………?」
呆気に取られている間に、傷が跡形もなく綺麗に修復されてゆく……。
「ほらネ。あの人にはアレくらいのダメージ、痛くもカユくもナイんだヨ」
確かにあんな傷を受けても表情を変えずに居るってことは、焔星くんの言う通りなのかもしれない。
でも……だからって、あんなに酷い傷だったのに!
空耶は自分の腹部を一瞥するが、興味なさそうに視線を再びこちらに固定すると不意に動いた。
木から飛び降りたかと思うともう目の前。
「!?」
ずしゃ、という音がして横にいた焔星くんが後ろに吹き飛ぶ。
「おまえ、どういうつもりで葵に近付いた!」
唇の端から血を流す焔星くんの襟を掴み上げ、空耶は激昂する。
「……どうもこうもナイ。ただ悪いオニに掴まらナイように警告したダケだ」
「余計な真似を!!」
拳を振り上げる空耶。
わたしは反射的に動いた。
「やめて!」
焔星くんに覆い被さったわたしに、空耶は目を見開く。
「葵……、なぜこの男を庇う? またおまえは俺以外を選ぶのか―――?」
わたしを見る空耶の瞳が酷く辛そうで、必死に何かを訴えているよう。
まるで今にも消えてしまいそうなくらいに切ない様子に、わたしは言葉を詰まらせる。
静寂を破って、公園の入り口の向こうで誰かが叫んだ。
「坊ちゃまぁぁぁー!! あ、空耶さまもっ!?」
四十代後半位のナイスミドルな男性がこちらに駆け寄ってくる。
「邪魔が入ったか。葵、帰ろう」
舌打ちをした空耶は焔星くんを離し、わたしに手を差し出す。
「…………」
わたしは空耶のことを何も知らない。
だけど、彼がわたしを求めていることと、何か隠している秘密があることは知っている。
だから、何も知らないままその手を取ることは出来ない。
「ごめん、空耶。少し時間を頂戴」
「………………分かった」
言い残し、空耶は消えた。
一瞬歪んだその顔が、泣いているように見えた。
痛いのは身体ではなく心なのでした。