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鬼ごっこは命がけ  作者: 伊代
2章
12/32

痛み

 プラズマボールに視線だけを動かすが、空耶は逃げるどころか眉一つ動かさない。

 いくらなんでも直撃したら無事では済まないだろうに、受け身さえも取ろうとしない。

「空耶、逃げて!!」

 だが―――ボールは彼の腹部にのめり込んだ。


 シュウゥゥ……


 音を立て消滅するプラズマ。

 いつも着用しているブラックスーツの前面が、焦げたように変色し破けている。

 その下に日焼けした小麦色の肌が覗き、中央部が赤く焼けただれている―――。

「空耶……」

 痛そうで痛そうで、助けなきゃと駆け寄ろうとしたが焔星くんに引き止められた。

「大丈夫だカラ、見ててご覧」


「そんな―――!!」

 焔星くんの手を振り解こうとして、視線を空耶に戻す。

 と、腹部の火傷跡が白く泡立つようにしゅわしゅわと蠢いていた。

「何…………?」

 呆気に取られている間に、傷が跡形もなく綺麗に修復されてゆく……。


「ほらネ。あの人にはアレくらいのダメージ、痛くもカユくもナイんだヨ」

 確かにあんな傷を受けても表情を変えずに居るってことは、焔星くんの言う通りなのかもしれない。

 でも……だからって、あんなに酷い傷だったのに!

 

 空耶は自分の腹部を一瞥するが、興味なさそうに視線を再びこちらに固定すると不意に動いた。

 木から飛び降りたかと思うともう目の前。

「!?」

 ずしゃ、という音がして横にいた焔星くんが後ろに吹き飛ぶ。


「おまえ、どういうつもりで葵に近付いた!」

 唇の端から血を流す焔星くんの襟を掴み上げ、空耶は激昂する。

「……どうもこうもナイ。ただ悪いオニに掴まらナイように警告したダケだ」

「余計な真似を!!」

 拳を振り上げる空耶。

 わたしは反射的に動いた。

「やめて!」

 焔星くんに覆い被さったわたしに、空耶は目を見開く。

「葵……、なぜこの男を庇う? またおまえは俺以外を選ぶのか―――?」


 わたしを見る空耶の瞳が酷く辛そうで、必死に何かを訴えているよう。

 まるで今にも消えてしまいそうなくらいに切ない様子に、わたしは言葉を詰まらせる。




 静寂を破って、公園の入り口の向こうで誰かが叫んだ。

「坊ちゃまぁぁぁー!! あ、空耶さまもっ!?」

 四十代後半位のナイスミドルな男性がこちらに駆け寄ってくる。


「邪魔が入ったか。葵、帰ろう」

 舌打ちをした空耶は焔星くんを離し、わたしに手を差し出す。

「…………」



 わたしは空耶のことを何も知らない。

 だけど、彼がわたしを求めていることと、何か隠している秘密があることは知っている。

 だから、何も知らないままその手を取ることは出来ない。

「ごめん、空耶。少し時間を頂戴」


「………………分かった」

 言い残し、空耶は消えた。

 一瞬歪んだその顔が、泣いているように見えた。


痛いのは身体ではなく心なのでした。

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