マーキング効果
本日二話目の投稿になります。
人を外見で判断してはいけない、とはよく言ったものだ。
わたしはそれを痛感している。
図書館で「調べ物は何か」と問いつめられ、言い逃れできなくなったわたしは「ちょっと妖怪について調べてみようかなーなんてね、えへ★」なんて頑張って可愛く言ってみたのに、焔星くんは有無を言わさない勢いでわたしの手を取ると、図書館から出て隣接している公園に向かった。
そしてただいま、木陰のベンチの端っこに身を縮ませて、力を籠めて顔を反らしています。
だって焔星くんが腰に手を当て前屈みの姿勢で、無言のままキラキラのスマイルでわたしを攻撃するんだ!
「えーと―――そ、そのぉー、ごめんなさい……?」
何でこんな事になってるのかサッパリだけど、居たたまれずにとりあえず謝ってみる。
「何を謝ってるノ?」
「だ、だってなんか怒ってるから……」
「うん、怒ってるヨ。だってボクの忠告、ちゃんと聞かなかったデショ?」
「忠告……??」
えーっと、なんだっけ。
素で首を傾げると、焔星くんは唇を尖らせてむくれた。
くそぉー、そんな仕草が似合う社会人(しかも男!)ってズルい!!
「葵サンは美味しそうなニオイがするから『オニに囚われないように気をつけて』って言ったノ、覚えてナイ?
なのに、しっかりマーキングされちゃってサ。アイツのニオイがプンプンするヨ……」
焔星くんは鼻がぶつかりそうなくらい顔を寄せ、眉を顰める。
マーキングって、そんな犬じゃないんだから。
まあ空耶は犬っぽいところがあるけどね、アハハ。
――――――って、え?
美味しそうって何?
アイツって誰の事?
焔星くんは何を知っているんだ?
得体の知れないものを感じ、ごく間近でその顔を凝視してしまった。
と、その瞬間。
何か鋭い気配がして、まさかの浮遊感がわたしを襲う!
「はぅわあぁっ!?」
焔星くんがわたしを横抱きにして地を蹴って跳ぶ。
その距離、数十メートル!
ちょっと、焔星くんてばその細身にどんだけの筋肉を隠してるの!?
………………っていやいや、ちょっと落ち着こうよわたし。
数十メートルって普通に人間越えてるわ……。
横抱きにされたまま、さっきまで焔星くんがいた場所に視線をずらすと、その剥き出しの地面から黒い煙がもうもうとくすぶっていた。
一体何が―――。
問おうとして焔星くんを見上げると、緊張が窺えるダークブルーの瞳がただ一点を睨んでいる。
その視線の先を追うと―――。
「葵から離れろ、車尾」
漆黒の瞳をギラギラとたぎらせ、青白い炎を身に纏った空耶が居た。
その視線だけで射殺されそうだというのに、焔星くんはおどけたように肩をすくめて苦笑。
「ヤレヤレ。男の嫉妬は醜いよ、空耶サン?」
あー、どう見ても友好的ではないようだけど、やっぱりというかなんというか。
この二人、知り合いなのね……。